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【対談後編】このままでは、分断と格差が加速してしまう。思想家に問う、ポストコロナを生き抜くために必要なこととは? 内田樹×福山哲郎 4月22日

4月22日に思想家の内田樹さんをお迎えし、コロナ禍での社会と政治のあるべき姿について考える対談を行いました。後編をお届けします。(前編はこちらから)

※対談の様子は、こちらでご覧いただけます。

福山哲郎0422-05

パンデミックで明らかになった資源確保の重要性

福山:つい半年ほど前、地方病院のベッドを減らす話が厚労省から出て、地方は突然そんなことを言われてもどうすればいいのかと混乱しました。「選択と集中」に舵を切ってずっと全速力で走ってきたが、急にブレーキがかかって右往左往しているような状態だと思います。

内田:日本の国難は、医療費が大きすぎるということでした。医療費の削減が国民的課題でした。医療費を減らすことと、もしもの場合に国民の命を守ることは、「金」の話と「命」の話ということです。ベットの削減などは、この10年間くらい、金と命を比べると金のほうが大事、ということを考えすぎた結果なのではないかと思います。命を重く見てよかったんじゃないですかね。

福山:「危機管理とは無駄をつくること」という話をされたことがあります。コストをかけて無駄をつくることが危機管理なのだと。見た目には不必要に思えるが、その無駄が必要なのだということが理解できなければ危機管理に失敗してしまう、そう言われたことを最近つくづく思い出します。

内田:危機管理とは、博打でいえば丁と半の両方に賭けることなんですよね。絶対片方は外してしまうわけです。それじゃ儲からないと指摘する人は、危機管理をしてはいけません。無駄のない効率的な資源運用をやっていた国は次々と倒れていき、余裕を持っていた国がなんとかなっている。あとは、医療資源を国産していた国が結局強かった。結局は、食料やエネルギー、医療資源は商品として売買できないわけです。イタリアで医療崩壊が起こっているのは、医療資源が不足した際に、お金を出すから売ってくださいと声をかけても、誰も売ってくれなかったことが理由です。商品とは、お金を出したら売ってくれるものなのであって、需給関係が狂うとお金をどれだけ積んでも買えなくなる。それが手に入らないと人が死ぬ。こういうものは、商品として扱ってはいけない

福山:グローバリゼーションを、先ほどの経済合理性や経済効率性と同じように、考え直さなければならない時期に来ているように思えます。

内田:本当にそうです。何が起こるかわからないから、本当に必要なものは自給自足して備蓄しておかなければいけない。例えば農業についても同じです。有事の際に輸送がストップして国内に供給されなくなり、足りなくなってしまうという事態についてはまったく考えていないんですよね。パンデミックなどが発生した際に、今まで大事にしていたものが本当に無くなってしまうことがあることを皆が実感したというのは、今回が初めてだと思います。医療資源はきちんと自給自足できなくてはならない。必要なものはお金で買えるんだということがグローバル経済の前提ですけれども、今度のことで、必要なものがお金で買えないということが痛感できたと思います。

コロナ禍で、なぜ「差別」や「ヘイト」が表面化したのか

福山:感染が広がるような状況の中で、差別やヘイトといった問題が危惧されています。このような状況についてどう思われますか?

内田危機的な局面になると人間の卑しさというものが露出してくるなという感じがします。平時に攻撃性がむき出しにされることはあまりありません。ところが、有事になると、人びとはシンプルなストーリーを求め、悪者探しをするようになります。悪者を仮定して憎しみをぶつけでもしないと、気持ちが整理されないという人間の弱さがあります。日本の場合は、今の自民党政権が非常に排外主義的な政権であって、国会議員の中にも公然と民族差別的な発言をする人がたくさんいます。与党が差別的な発言やマインドを公認しているのです。なので、こうした時に突然歯止めを失って露出してくることがあると思います。トランプ大統領が”Chinese Virus”と言ったり、日本でも自民党の政治家たちが「武漢肺炎」と盛んに言ってますが、そのうち堰(せき)をきったように暴力的な民族差別が事件化してくるリスクは高いと思います。その状況を覚悟し、防ぐ手立てを考えなければいけません

コロナ後の世界で守るべきは、中産階級の「維持」

福山:日本の中間層は没落していて分断と格差が広がっていると思います。コロナ後の社会ではそれがさらに加速するのではないかと内田さんは危惧されていますが、それについてはどのように考えればよいのでしょうか。

内田:これは、放置していたらさらに加速すると思います。資本主義が進行していく過程で「選択と集中」や「効率化」といったことが叫ばれると、中産階級は邪魔になります。中産階級がどんどんやせ細っていき、低賃金労働者に身を落としていく。反対に、一部には超富裕層が形成され、そこに富が集中する。放っておくと、こうした階層の二極化がおきます。しかし、一握りの富裕層とその他大勢の貧困層に分かれた場合には、市場が形成されないので、資本主義自体も死んでしまいます。今の日本でも、階層が二極化していって中産階級がどんどん没落していった結果、国民の消費活動が低迷しているわけです。とにかく市場が形成されず、賃労働する人たちのクオリティもどんどん低下します。なので、中産階級を維持しなくては駄目なんですよ。資本主義をまわそうと思うのであれば、質が高く分厚い中産階級をどうやって形成するかを考えるべきです。しかし、今起きている事態というのは、中産階級がどんどんどんどんやせ細っていって没落してゆくプロセス、それに対して政府がなんの手立てもしていないということです。これは資本主義の自滅的なプロセスなので、このまま経済や市場の原理に任せていたら必ず分断は進行します。これをとめるには、積極的に政治が介入していくしかありません。市場の原理を政治が止めるしかないわけです。

福山:そうですね。我々も実はずっと補償措置が必要だと主張しています。営業や移動の自由もあるから経済活動ができるわけですが、今はそれらの自由を国が制限をしています。その責任を政府は取る必要があるはずです。中間層が疲弊すれば、経済全体の底が抜ける可能性があります。それを阻止するためには、中間層を維持していかなければなりません。それが生活を守ることだし、気持ちを落ち着かせる効果もあると思っています。そういったことを強く求めていきたい。

内田:本当にね。F35や辺野古の基地建設、オリンピックなどの馬鹿な金を使うのはやめて、生身の人間に使ってほしいと本当に思います。国を守るって、国民を守らなくて一体何を守るんですか

福山:3月末に通過した本予算には、戦闘機やカジノなどの予算が含まれていました。こういうお金を仕分けをして、足元のコロナ対策に振り分けて欲しいということを主張したいと思います。

ポストコロナを生き抜くために必要なこととは

内田:これから日本や世界で起こることは、完全に前代未聞です。コロナ後の世界は、私たちの知っている世界とは異なる、まったく新しいものでしょう。「明日も今日と同じ日々が続くんだ」というような楽観論は一度脇に置いて、「何が起こるかわからない」ということを肝に銘じるべきです。これからいろいろなものが失われていく中で一番大切なのは、本当に大事なもの、守らなければならないもの、残していかなければならないものは何なのかということを一人一人が考えることです。

福山:社会全体として向き合うべき、あまりにも大きな課題がある中で、どのように自分が役割を果たしていけるのか自問したいと思います。ありがとうございました。

※内田樹さんのブログ「内田樹の研究室」に掲載された『月刊日本』のロングインタビューもぜひご一読ください。


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