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子どもの教育格差、貧困の連鎖を止めるためには? 【対談】渡辺由美子×福山哲郎 4月20日

新型コロナウイルス感染防止による休校措置などで、生活困窮家庭に大きな影響が出ています。子どもへの虐待や孤立する家庭の増加に対して政治は何ができるのでしょうか。NPO法人キッズドアの代表、渡辺由美子さんにお話を伺いました。

※対談の様子は、YouTubeでご覧いただけます。

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10万円一律給付だけでは、やはりまだまだ不十分

福山:本日(4/20)、収入が激減した方への30万円給付から、10万円の一律給付に「チェンジ」をする閣議決定がありました。私たちは、10万円一律給付については評価をしますが、一方で30万円給付も必要です。10万円では足りない家庭がいくらでもあるのに、30万円給付を、政府は補正予算から外しました。私は、30万円給付は維持されるべきで、閣議決定された補正予算の内容ではまだまだ足りないと思います。30万円給付や休業補償を国は絶対に面倒を見ないと言っています。そこで地方自治体が独自の補償について検討を始めたところ、国は地方交付金の使用を認めました。しかし、そのためには1兆円の交付金では少なすぎます。ウイルスの影響はまだまだ続くので、政府の対応よりも現場の消耗のほうが早い。それにいち早く気づき、先回りして対応することが政治には求められると思います。

新型コロナ、生活困窮家庭と子どもへの影響は?

福山:子どもたちの状況はどうなっているのか、親御さんの状況はどうなのか、子どもの貧困や格差と向き合ってきたNPO法人キッズドアの渡辺由美子さんにお伺いしたいと思います。休校措置が取られている中での子どもたちの状況を教えてください。

渡辺:私たちは、一人親家庭や生活保護の受給家庭、子どもが多い家庭などに対して、無料の学習会や食事の提供、居場所づくりなどの支援を行ってきました。平時でも、一人親家庭の月収は、12~13万円で生活はギリギリです。今回の休校措置で最初に上がったのは、給食の代わりに用意する昼食の食費が大変だという声でした。こうした家庭には貯金がありません。食事を二食に減らすこともあります。緊急事態宣言のために、4月の給料は減少するでしょうし、その影響はさらに広がるはずです。来月はどうなるんだろうと、多くの方が不安な思いでいます。

福山:休業要請のために、働く場所がないとか、シフトがすごく少なくなっているという声をよく聞きます。その辺りの働く環境の変化はどうですか?

渡辺:職種で違いますが、フリーランスの方とかイベント系の仕事をしていた方は、仕事がまったくない状況です。逆に、スーパーのパートの方は、働き手不足のために、仕事が増えてしまい、早朝出勤し深夜まで帰れないような状況にあります。その間、家に子どもだけがポツンと残され、勉強もしていない。親は睡眠が3~4時間しか取れず、いつ倒れるか心配。休んでクビになれば生活が成り立たない。仕事がある方もない方も、とにかく本当に大変な状況です。

孤立する貧困家庭と虐待増加の懸念

福山:子どもたちがこんなふうに困っているといった具体的な事例はありますか?

渡辺:小さい子どもの家庭も大変ですが、高校生の母親から、家で子どもが勉強しないので不安だと聞きました。インターネットがなくWEB授業も受けられず、問題集や参考書を買わせることもできない。それに、貧困家庭の特徴として、孤立しているということが挙げられます。相談できる場所、人が身近にいないんです。親が休業してずっと家の中にいるので子どもの様子がだんだんおかしくなっていくというケースもあります。親も子どもも、一人になれるスペースがあれば話は違いますが、どこも家が狭いので家の中に逃げ場がない。この先、心配なのは虐待です。お金がないからストレスが溜まり、子どもは勉強をしないから親は「勉強しろ」と言う。子どもはなかなか勉強できないので反発する。そこの間でだんだん関係性が悪化してつい手が上がるだとか、家庭内暴力になるだとか、そういうケースが増えるのではないかと危惧しています。

福山:ただ家にいるしかないという状態では、子どもも勉強する方法や解決の糸口がわからないですよね。それは子どもにとってもストレスになりますよね。

オンライン授業の限界

渡辺:自分で勉強したいと思っている子どもは多い。けれどもその方法がわからないんですよね。学校から配布されたプリント課題を自力でやることができない。しかし親はやれと言う。うちの学習会に来るような子どもは、何らかの支援がないと勉強するのは難しい。家で勉強できない子どもをどうするのかということは、大きな課題だと思います。インターネットが使えても、動画授業を自分で理解できる子は限られています。ほとんどの子どもにとっては無理です。動画で何とかしろといっても無理なので、そこは一人ひとりに適した支援方法を考えなければいけないし、とにかく週1回でもいいから子どもを登校させたいという声もあります。

福山:子どもたちに勉強の場所や夜の食事を提供する活動をされてこられたわけですが、感染が拡大している状況下では、活動ができないということですね。

渡辺:現在はすべてクローズしています。この状態は長引きそうなので、電話をして家庭の様子をうかがったり、解けない問題を携帯の写真で送ってもらって回答を教えたりとか、赤ペン先生のスマホ版のようなことを始めています。あとは自習のサポートも。子どもは生活のリズムが乱れていて昼夜逆転になりがちなので、1日の勉強の予定を朝に電話で確認して、後でチェックしたりだとか、それらを試験的に始めています。孤立させないようにコンタクトしながらサポートしていかないと。

今は、「子供を大切にする」という政治からのメッセージが必要

福山:政治がやるべきこととして何が必要だと思いますか?

渡辺:とにかくお金を出してほしい。まずは命の危険が迫っている人たちを救うということを最優先にやってほしい。緊急小口資金も対応がバラバラで、受け取れなかったというケースもあります。「減収した人」が対象なので、低学年の子どもを持つ一人親家庭でも、シフトを減らさずに働いていると、減収はしていないからと断られたりします。あとは、体調が悪く休業していた方で、仕事を再開し徐々に仕事を増やせるようになったために、増収で借りられなかったというケースもありました。収入が少ない人には、優先的に貸さないといけません。子育て世帯は、自分が食べられないことではなく、子どもを食べさせられないことが心配なのです。「減収」という制限がある限りは支援を受けられる人が限られてしまいます。

福山:緊急小口資金と生活支援費の要件には、緊急かつ一時的に生計維持のために必要だという項目があります。この小口資金は最後の砦なので、ここで壁ができてしまうと、それこそサラリーマン金融のような話になってしまいます。

渡辺:収入が一定以下の子育て世帯にはどんどん貸すといったことをしなくてはなりません。その判断は、社協にはできません。

福山:実態としての生活を見てもらわないといけないですよね。

渡辺:生活困窮家庭は本当にお金がないので、子どもとスーパーに買い物に行って百何十円かのお菓子を子どもに買ってあげることができない。子どもに伝えると、「無理を言ってごめん」と謝られる。本当に悲しい話がいっぱいです。これだけ窮している家庭があることを理解できない人が、政治家の方にも多いのかもしれませんが、困っているお金の額が1万円や2万円ではなく、500円とか、そういう世界なので、3万円でも幾らでも、すぐに支給してくれれば助かる家庭がたくさんあります。

危惧される不登校の増加

福山:子どもたちも、内向的になったりひきこもったり、鬱になったりといった傾向もみられるのではないかと思います。

渡辺:そうですね。お金がない子どもは、学校が唯一の社会になっています。学校がない状況がこれだけ続くと、休校措置があけた後のことも心配です。生活のリズムが戻らなかったり勉強についていけなかったりと、間違いなく不登校が増えると思います。文科省は休校期間中に出した課題は、学校再開後には復習しなくていいと言っています。それでは、課題ができなかった子どもたちは取り残されてしまう。せっかく今まで何とか授業についていけていた子が脱落してしまう。そうすると、不登校・ひきこもりになる可能性は高まります。情報弱者も問題です。制度があっても、自分がそれを使えるとは思わない人がたくさんいます。私たちが彼らの背中を後押ししないと支援まで至らないケースが非常に多い。そのような意味では、今回の一律10万円給付は良かった。以前の30万円の条件付き給付では、私たちの知る限りでも自分が貰えると思っている親は少なかったです。なので、優先的に子育て世代に給付をするような政策をおこなってほしいです。

孤立化する家庭へ、声を届けるために

福山:私もアルバイトをしながら学校に通い、母親がギリギリの生活費で買い物をするような姿を見てきたので、この状況下の困窮家庭について非常に心配しています。やはり子どもも自信を失くすし、気持ちが萎えてしまったりとか、親が貧しいことに対する恨みとか、反対に貧しい親を助けるために犠牲になろうとしたり、そうしたことがたくさん出てくると思います。子どもたちの精神的なケアや親御さんの孤立感など、政治では直接助けることができない部分を渡辺さんたちのような方々に掬ってもらっていると感じています。

渡辺:一番政治にお願いしたいのは、とにかく子どもを大事にしようとか、子育て家庭が大変だからしっかりとサポートしようとか、そのようなメッセージを発信することだと思います。雇用や経済の対策とは別に、子どもを守ることが必要です。日本では子どもの支援をしようとすると、「なんでそんな勉強もしない子に」とか色眼鏡で見られやすいので、そのバッシングをはねのけるために政治的なメッセージを打ち出すことが必要です。

福山:子どもが苦しい状況になり、一人親や生活が苦しい家庭の子どもはさらに厳しいプレッシャーにさらされる。そこについて「コロナの問題は自己責任じゃないんだよ」「経済合理性だけでは語れないんだよ」「皆が苦しんでいるのだから、まずは皆さん子どもを大切に育ててください」といった政治からのメッセージが必要だと思います。

渡辺:本当にその通りだと思います。途方に暮れて苦しんでいる親たちがたくさんいます。「そこをなんとかしますから」というメッセージを政治の側から発信してもらえると心強いと思います。

福山:孤立化しているさまざまな家庭とコミュニケーションをとって、引き続き問題点を指摘してほしいと思います。本日はありがとうございました。


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