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IRALから論文を出しています

最近、応用言語学の学術誌 IRAL - International Review of Applied Linguistics in Language Teaching から、愛知工科大学の寺井雅人先生が筆頭の論文が出版されました。

Terai, M., Fukuta, J., & Tamura, Y. (2023). Learnability of L2 collocations and L1 influence on L2 collocational representations of Japanese learners of English. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. https://doi.org/10.1515/iral-2022-0234

この論文は英語の形容詞- 名詞の単語連鎖(コロケーション)の習得可能性に関して行った実験を報告したものです。簡単に説明すると、日本語と一致しているようなもの(cold tea)みたいなものの解釈は日本語話者でも問題なく、日本語にないけど英語にあるようなものも習得されますが、日本語にあって英語にないものを日本語話者が「英語にない」と判断するのは難しいという話です。またどの項目に関しても、かなり習熟度が高くなっても正答率には第一言語の影響があるのではないか?ということを考察しています。


それで、私は自分がかかわった研究を結構このジャーナルから出してもらっています。

Tamura, Y., Fukuta, J., Nishimura, Y., & Kato, D. (2022). Rule-based or efficiency-driven processing of expletive there in English as a foreign language. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. doi:10.1515/iral-2021-0156

Fukuta, J., Goto, A., Kawaguchi, Y., Murota, D., Kurita, A. (2017). Syntactically–driven algorithmic processing of PP-attachment ambiguity in a second language. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 56, 253-278. doi:10.1515/iral-2017-0038

今回で3回目ですが、3回同じジャーナルから論文を出してもらうのは自分史上最多です。たぶん。

このジャーナルは1963年に始まったらしく、もともとは International Review of Applied Linguistics という名前でした(in Language Teachingとはついていなかった)。公式の略称はいまだに変わらずIRALのようです。このジャーナルは言語教育系専門誌かと思いきやそうでもなく、言語にかかわる研究をかなり幅広く収録しています(私がこれまで出してきた論文も教育的示唆はほとんどありません)。第二言語習得研究とのかかわりも深く、学習者の「誤り」を研究する重要さを説いたCorder (1967)や、学習者は独自の言語体系を持っているとして「中間言語」の概念を提案し広めたSelinker (1972)など、第二言語習得研究を形作ったともいわれる記念碑的な論文を出版している古くて伝統あるジャーナルです。この記事などはこの60年のIRALに出版された論文を統合的に分析をしていますが、これを見るとIRALがいかに伝統があり、インパクトのある論文を公開してきたジャーナルかがよくわかります。

Corder, S. P. (1967) The significance of learner's errors. International Review of Applied Linguistics, 5: 161–170.

Selinker, L. (1972), Interlanguage. International Review of Applied Linguistics, 10, 209–231.

そんな素晴らしい媒体で、私も敬意とともに愛着のある大好きなジャーナルなのですが、近年の応用言語学研究者で現在のこのジャーナルをいわゆる「トップオブトップ」だと思う人はあまりいないのではないかと思います。学術誌の評価指標であるImpact Factorもそれほど高くはなく(後述のように最近だいぶん上がってますが)、Scimagoのランキングの変動を見ても、2000年前後はかなり評価が落ち込んでおり、そこから大きく上下動していることがわかります。

私も、高木守道に憧れて中日を目指すみたいな感じで(長嶋茂雄とか出したほうが理解されるんでしょうが、巨人のたとえを出したくないのでご理解ください)初めてここに投稿したのは確か2015年くらいだったのですが、その時は投稿してから8か月以上待たされて催促は無視され、なんとか結果が返ってきたので修正して提出したらその返答を1年間くらい待たされるなど大変でした。あまりにも何も返事がないので、別のアソシエイトエディターや出版社に連絡したところ、「我々もエディターにコンタクトを試みているんだが、これ以上はどうしようもないんだ」みたいな返事が返ってきて、怒りの撤退メールを送ったら即刻アクセプト通知が来たというひどい有様でした。こんなことしていたらそりゃあ評判も落ちるだろうなというところですが(上述のScimagoランキングでもその頃のIRALはQ2に落ちてますね)、実際にはもっと長いスパンの変動なので、根本的な原因がどこにあるのかは私は知りません。

そんな経験もあって、Tamura et al論文を提出した際には、正直あんまり乗り気じゃなかったのですが、その時はIRALの編集体制が大きく変わった直後で、投稿後はめちゃくちゃレスポンスが早くすべてのプロセスがスムーズでした。もともと守備範囲が広く結構込み入ったことを書いていても査読者がちゃんと対応してくれるジャーナルなので、2回目の投稿ではとても満足のできる仕事ができました。私の記憶では現在のIRALのチーフエディターがかつて別のジャーナルのエディターになった時もそのジャーナルがすごい勢いで人気になっていた覚えがあるのですが、敏腕エディターが着任するだけでこんなにも変わるものなのかと驚きます。実際にScimagoのランキングを見ていても、2020年くらいから急にいろんな指標値が上昇しているのがわかります。そんなこと言いながら私は普段、ジャーナルのImpact Factorなどはほとんど見ないで投稿したいジャーナルに投稿しているんですが、参考までに調べてみた次第です。

ということで、宣伝と、「へーそんなこともあるんだ」的な雑文ですが、研究者の方におかれましては、長い伝統の中で基礎研究から極めて応用分野の研究まで取り扱い、現在は出版のプロセスがスムーズで査読も良いので、投稿を検討されてみてはいかがでしょうか。というお話でした。


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