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拙編著『第二言語研究の思考法』が出ました

私が編著者の一人として参加している本が、本日11月10日に、くろしお出版より出版されたようです。Amazonで購入できます。

出版日にさきがけて、日本第二言語習得学会(J-SLA)のブースでは本書が先行販売されました。2日間で25冊ほど売り上げたと伺っています。ありがたいことです。

想定読者

ヒトの第二言語の発話や理解を可能にしているシステムや、その習得メカニズムに興味がある研究者(大学院生を含む)を対象にしています。ある程度、このような研究をしたことがあるとか、しようとしている人でしたら理解できるように編集したつもりですが、研究やったことないしどこから手をつけていいかもわからん、という人だとピンとこないかもしれません。

ちなみに、第二言語教育を対象にした本ではないので、例えば英語教育をどう構想していくべきかみたいな話は全く出てきません。もちろん、どうすれば英語がペラペラになるかみたいな話は一切出てきません。また、第二言語習得や使用のメカニズムそれ自体に関する話はあんまり出てきません(例として生成文法に基づく習得や処理の話は出てきていますが、総花的な概論では全くありません)。これらをテーマにして、研究をどう進めていくかというメタ的な話がほとんどです。

主な内容

上述の様に、ヒトの第二言語の発話や理解を可能にしているシステムや、その習得メカニズムを対象とし、説明的理論を構築を目指す研究(認知科学としてのSLA)を進めていこうとする場合、どのようなことを考えなければならないか、という内容となっています。

ただ研究初学者のためのハウツー本というよりは、いまあまり考えられていないこういうこともっと考えた方がいいよねーというニュアンスの内容です。隣接分野の人と話し合って「そういえばSLAはそういう考え方あんまりしないな」みたいなところから着想を得たところがあるため、特定の分野の人には、そんなの当たり前じょのいこ。という内容も多々含まれているかもしれませんが、人によっては真新しく(時に辛辣に)映るのではないかと思っています。

あと、第二言語習得研究での構成概念の測定は言語評価論(language testing)の伝統に基づいて行われていると思いますが、こういった構成概念を使って心的メカニズムの説明的理論を構築するのは限界があるのではないかという話が含まれます。繰り返しになりますが、それはこの本が「ヒトの第二言語の発話や理解を可能にしているシステムや、その習得メカニズムを対象とし、説明的理論を構築を目指す研究(認知科学としてのSLA)」を対象としているからであって、言語評価論の有用性を否定する意図はありません。目的が変われば、そのための手段も変わるだろうという考えです。

また本書は、基礎研究と応用・臨床研究の区分や、研究が対象とする分析レベルによる区分を明確にする論調のものです。ネガティブな意味合いを含む語をだせばこれらの分断を促進するものですし、より穏健な言い方をすれば棲み分けを強調するものです。これについては近年の応用言語学の流れとはある種逆行するものですが、そのような区分を曖昧に研究を積み重ねてきた結果としてSLA研究にはいろいろな問題が生じていることも述べています。ただし同時に分野間の交流はむしろ必要なものという考えではいるので、分野の独立性を維持したままどのように建設的な交流を行うことができるか、ということを考えるのが今後の課題です。この点については今後、隣接分野の方との意見交換がしたいところです。

出版の経緯

本書あとがきをご参照ください笑

本書が採用している研究観の補足

(この節の内容は本を読んでいないとよくわからないかもしれません。)
第一章〜第三章で、この本がどういう研究観・科学観から著されたかという部分は主に私が執筆しています。この本は科学的実在論を前提とした本です。特に心理学におけるBorsboomの議論を引いて、存在論的なコミットメントが必要だという話をしています。

一方でこういった存在論的な議論は形而上学的な領域に大きく踏み込むことになるので、これを本気で擁護しようとするとすごく大変というか科学哲学プロパーではない私には無理です。自分はあくまで実験を行って理論構築を目指すサイエンス側の人間(自称)なので、その立場から実際に研究の現場で起こっている問題をなんとかしたいと考えています。そういう観点から、SLAでよく見られる素朴心理学に基づく概念生成を避ける意味でBorsboomの存在論的主張を、SLAの文脈における複雑系に基づく研究の孕む説明理論としての問題点を議論するために超越論的実在論を、それぞれ持ってくるのがやりやすかったというところであって、私自身は理論的概念が本当に形而上学的な意味で実在論的に存在しているかどうかについてはそんなに気にしていない(実務的な観点ではそれほど大きな問題と思っていない)というのが正直なところです。そういった意味で私の考えは方法論的自然主義に近いものだと思います。このような立場では、例えばある表象なんかの理論的概念を仮定した時に、その表象が本当に存在するかどうかより、その表象がどのように機能すると考えられるかを経験的に探求することに注力することになります。現代的な認知科学のメカニズム論ではそのような立場での議論が再び多くなってきている様に感じますが、理論言語学では方法論的自然主義というと実在論っぽい立場を包摂する人が多いので、この本を読むと「これって普通のことじゃない?」ってなるかもしれません。本書ではL2で近年行われてきた議論を参照しつつそれに応じた書き方をしているだけで、根本的にはそれほど新しい考えではないと思います。

小難しくてわかんねーよ

とりあえず、上述の内容を見ていただいてもわかるように入門書という感じではありませんが、これから研究者を目指すような立場の人がどう研究を進めていこうか考えるときに折を見て読み返したりしてくれるような本を目指して執筆しました。噛めば噛むほど味が出るスルメみたいな本であってほしいと思っています。

興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

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