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久々の海外出張

8月末から9月頭にかけて、コロナ禍になってからずっとできていなかった海外出張(渡航先はスイス・イギリス)をした。


久しぶりの搭乗

8月24日にヒースロー空港行きの航空機に搭乗する予定になっていたが、朝早い便だったので羽田空港内のホテルに前泊した。ターミナルに直結したホテルで、空港内には24時間営業のコンビニもあるし、なかなか快適だった。
夕飯は空港内にたくさんあるレストランで食べればいいやと思っていたら、なんと空港内のお店はレストラン・お土産物売り場も含めて、空港に到着した17時頃にはほとんどすべて閉まっていた。出張先で打ち合わせを頼んでいる人にお土産を買っていく予定だったので、いきなり予定が狂ってしまった。

いちおう次の日のためにチェックインしておこうと思い、スマホを使ってチェックインしようとしたところ、JALのウェブサイトにログインすると、予約されている搭乗はないとの表示が出た。大量の冷や汗が噴き出す。とりあえずホテルにパスポートを取りに戻り、自動チェックイン機でのチェックインを試みたところ、普通にできた。なんやねん。

出てきた搭乗券を見たところ、なんと自動的にビジネスクラスに格上げされていた。その日(搭乗の前日)は、19時くらいになると既に人の影はほとんどなかったので、もしかして当日に搭乗しようとする人も少なかったのかもしれない。当然私はビジネスクラスに普段から乗れるような立場の人間ではないので、人生で乗る機会がこのタイミングで訪れるとは思っていなかった。

搭乗当日は、この格上げのおかげでJAL国際線ラウンジのさくらラウンジに入ることができたので(たまたま同じ便をとっていた先生に入れてもらった前回から8年ぶり2回目)、そこで朝食をとって搭乗時間までを過ごした。ちなみに初めてさくらラウンジに入ったときは大学院の博士課程2年目だったが、一杯目から山崎12年を注文して、先生に「どこでお金を払うんですか?」と尋ねて笑われた、という記憶がある。

ビジネスクラスはパーティションで完全に仕切られていてフルフラットにでき、シャンパンが飲み放題だった。つまみ的な料理もとても豪華で、お酒とともに好きなタイミングで注文ができたので、散々飲んでトイレに立ったら顔が真っ赤だった。貧乏人丸出しである。いいんだよ、まだ若いんだから(40歳までは若手)。15時間のフライトだったが、名古屋から夜行バスで東京にいく6時間よりずっと短く感じた。


久しぶりの国際学会

ヒースロー空港に到着してから、一泊してからチューリッヒ行きの航空機でスイスに飛んだ。チューリッヒからはその日のうちに新幹線的な長距離列車に乗って、学会会場のあるフリブールに移動した。チューリッヒはドイツ語圏で、フリブールはフランス語圏のようだった。

スイスではとにかくチーズフォンデュを食ってこいと妻に言われていたので、そうすることにした。ワイン多めで日本で食べるより酸味が強め。基本的にスイスで食べたものは(学会のケータリング以外)すべて美味しかった。

国際学会に対面で参加するメリット

ヨーロッパ第二言語習得学会(EuroSLA)はフリブール大学で数日間にわたって行われた。国際学会の参加はとても久しぶりだったけど、よく考えたらそもそも対面での学会が久しぶりだった。オンラインだと、どの国でも自宅から参加できてお金がかからないというのは間違いなく利点だが、必要な時に業務の時間を縫って参加して、必要なやりとり(発表内容を聞いて質疑応答)だけ行うという感じなので、その後時間外にあーだこーだいう時間が生まれない。コーヒーブレイクやレセプションを使って交流して、その雑談の中で共同研究が生まれてくるということは頻繁にある。が、オンラインでその機会を得ることは結構稀だと思う。自分の体感では、10回オンラインで国際学会に参加するより、1回対面で参加するほうが圧倒的に共同研究が生まれやすい。特にアーリーキャリアの研究者は人脈も少ないため、オンライン学会に参加したのちメールで「こんな研究あるんだけど一緒にやらない?」って話が来てやり取りが生じるなんてことはほとんどないのではないだろうか(単に私のやり方がよくないだけかもしれないので、その辺のtipsがあったら教えて欲しいところではある)。少なくとも自分のもとにこういう話が来る(あるいは自分から声をかけることができる)のは、対面で会ったことがある人ばかりで、対面で会ったこともない人から共同研究の依頼が来たことは一回しかない(私の論文を読んで連絡をくれたらしい)。ちゃんと確立した研究者ならこういう依頼はひっきりなしに来ているのかもしれないが。

そもそも大学院から日本で研究をしていると、国際学会に対面で出席しないと国際共同研究が生まれる機会というのはほとんどないのではないかという気がする。私は大学院もその後もずっと日本で研究をしている者だけど、国際共同研究に発展しそうなのは、国際学会に出て行ってそこで出会った人か、日本で開催された学会にたまたま海外の人が来ていて出会った場合か、海外で学位をとって帰ってきた人と共同研究をしたらたまたま海外の人がそのメンバーにいる場合か、くらいのイメージだ。まあ、国際共同研究をしなければいい研究はできないというわけではないけども、これをあえて避けることに利点があるとも思えない。

ともあれ、今回の学会出張ではよい出会いもあり、共同研究に発展する話もすることができた。何より参加した人たちからはしきりに、この機会のおかげでモチベーションが上がったという話を聞いた。多くの研究者にとってこの学会は私と同様、久々の対面での学術的コミュニケーションの機会だったのだろう。

自分はというと、国際学会に来ると、周りの著名な先生たちと比べて自分が世界的には大した認知を得ていない研究者なんだなということをまざまざと思い知らされることになるので、毎回まあまあ苦しい心境になる。ただそれはネガティブなことばかりではない。日本にいて自分の知り合いばかりの集まりにしか行っていないと、まるで自分が何かを成したかのように勘違いしがちかもしれない。学会に行って周りがみんな知り合いだったら、そのコミュニティー内では認知されてると思うのは自然なことだろうし、実際そうなんだろう。そういった安全圏にいるのは心地よいことではあるが、たまにこういう機会があると、研究を始めたばかりの頃を少し思い出して、もう少し頑張ろうという気分になれる。基本的に専任のアカデミックポストを得た人たちで、院生の時と同じくらいハングリー精神みたいなものを持ち続けてる人はほとんどいないように思うし、自分も院生の時に持っていた、ともすると醜くも感じるギラギラしたエネルギーはもうほとんど残っていない。とはいっても、研究をするエネルギーは単に年とともに老けて枯渇していくだけというわけではなく、義務感や責任感など形を変えていくものだったりするように思う。その中でも、劣等感や焦り、自分への嫌悪感みたいなネガティブなエネルギーは自分の研究行動をブーストしてくれる感じがする。多分、私は生来そういう人間なんだろうと思う。

ケンブリッジ大学での打ち合わせ

フリブールでの学会が終わると、すぐにチューリッヒに移動した。ここで一泊し、その次の日にロンドンに渡り、その足でケンブリッジに移動した(その間、ずっと訪れたかったキングスクロス駅の9 3/4番線に行って写真を撮ったりした)。ケンブリッジ大学につく頃にはもう日が落ちていて、その日はチャーチルカレッジに宿泊し、そして次の日に、今回のヨーロッパ訪問のもう一つの大きな目的である、ケンブリッジ大学のJohn Williams先生との共同研究の打ち合わせへと向かった。

私は博士論文研究の時からWilliams先生の論文を主要論文のひとつに据えて研究をしていて、昔から私淑する研究者の一人だった。中央大に来てから広い意味での同僚になった若林茂則先生は、ケンブリッジ大学の院生時代にWilliams先生を指導教員に博士号を取得したらしく(そのことは最近まで全然知らなかったけど)、そのつながりで共同研究をする機会を得たのだった。どこで誰とどう繋がるかは、予測できないものだ。実際にお会いしてお話しすると、Williams先生は私の論文を読んで理解してくれていた。一方的に拝読し乗っかる側だった自分としては眩暈がするほど光栄なことだった。

打ち合わせは、初日に5時間くらい行ったが、最初に予定していた実験方法に不備が見つかり、練り直していたらまったく終わりそうになかったので、次の日に持ち越された(滞在日程に余裕を持っておいてよかった)。結局、次の日も4時間くらい打ち合わせをして、ようやく形が見えてくるところまできた。Williams先生は心理実験を組むのが得意な研究者なのだけれども、組み上げていく際の着眼点とか、ありうる批判を避けるためのデザインの嗅覚といったところに舌を巻くばかりだった。こういう実験実施の前段階のところは、論文を読んでも出てこない部分なので、経験の中で学んでいくしかない。世界の一流はこんな感じなのかー、とただただ勉強になった。

帰国へ

これで今回の滞在の予定はおしまい。濃密な2週間だった。

そういえばちょうど私たちがヨーロッパに向かう最中に、日本に入国する際の規制が緩和されるという発表があり、PCR検査が不要になるとのことだった。が、それは私たちが帰国する4日後からということだったので、ギリギリPCR検査が必要ということになってしまった。これ、わざわざちゃんと診断書を書いてくれるところに行って、結構高いお金(一万円以上)を払って検査して、次の日に来る結果をアプリに登録しなければならない(登録審査後にすこしでも不備があるとリジェクトされてまたやり直し)。これが結構めんどくさかった。でも渡航前にすべて終わらせたら入国はスムーズだった。

そして行きがビジネスクラスだっただけに、帰りがしんどかった(もちろんこっちはエコノミーからの格上げなし)。やっぱ15時間短いなんて錯覚じゃねーかと思った。久々の海外だったし、結構長いあいだ滞在していて、上記のように会議がない日はずっと移動していたので、羽田につく頃にはぐったり疲れていたが、同行していた若林先生は、明日からフィリピンだからこのまま成田向かうわ、とか言って人ごみに消えていった。たしか一緒にイギリスに飛ぶ前日はタイにいたと仰っていたのだが、どうやったらそういう体力が身につくのかわからない(僕もまあまあ運動はしているほうなんだがなあ)。

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