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陰キャは服が買えない

「普段服どこで買ってるの?」

陰キャが聞かれたくないコト100選とかあったら割と最初の方に出てきそうな質問。隠キャは身なりなぞ気にしないもんでむしろ逆に「みんなはどこで買ってるの?」と聞き返したくなる始末。

それこそ私はもう何年も同じ私服デッキを使い回しており、「親の顔より見た」「アプデしろ」「味が一種類しかないラーメン屋」と脳内オーディエンスも呆れ顔。
スマホのアルバムを開いて自分が映っている写真を見れば大体同じ格好。多分周りが優しいだけでこいついつも似たような服着てね?とか薄々思われてそう。知らんけど。

流石にダメだ
なんか、新しく服買いたい!

しかもAmazonとかの通販じゃなく
G〇やユ〇クロみたいな超チェーン店でもなく!

駅に隣接しているようなでっかいモールで、そんでキラキラしたお店で、陽キャの群衆に混じって多種多様な衣服の中から自分好みのものを選んで買いたい!

なんともチャチな欲望を持った私は軽い財布を握りしめ新宿へと飛んで行きました。なんで新宿を選んだかはわからない。ただそこには田舎者特有の都会に対する漠然とした憧れがあったのだ。


しかしいざ現場に到着したらまあ私の場違いなこと。

右も左も光り輝く天上人。
うちら、ショッピングを満喫してます!とでも言いたげなオーラをまとったキラキラ人間どもが闊歩闊歩。同年代に限っても自分みたいなチー牛なんてほぼ見かけない。チー牛の対義語ってなんだろう、スタバの新作?
「わたしの居場所なんて…っどこにもないじゃん!!」と物語中盤で泣き嘆くヒロインのように肩身を狭めて歩く。

眺めてばかりいても仕方ないのでとりあえず適当な若者向けっぽい店のエリアに立ち入る。さしずめ気分は他クラスに踏み入る下級生。

普段自分が着ているようなものとは遠くかけ離れた鮮やかな服の数々。派手な柄の入ったTシャツ、横幅の広いだぼっとしたズボン、一枚で重ね着のように見えるトップス、ほどよく色が散りばめられたパーカー、派手すぎずそれでいてさりげなく主張するようなアクセサリーとかエトセトラ。
なるほど確かにこれを自分の手札に加えればルックス(容姿というより見た目そのまま)にかなりの変化をつけられるかもしれない。RPGで新しい衣装をゲットした時のワクワクのような感情が少しずつ湧き上がってきた。あるいはオシャレ魔女ラブ&ベリーってやつだ。


とはいえ……なんか高くね????

いや自分が相場を知らないだけなのだろうけど。一般的な量販店以外で買う服ってこんな高いんだ??
今までネットで激安の服をポチるか地元のリサイクルショップのセール品で済ませていたせいか衣服一着に数千円もかかるとなるとちょっと面食らう(この辺は多分店選びが悪いのかもしれない)。

凝ったデザインのジャケットやドレスとかならまだわかる。でも特になんの変哲のないシャツ一枚が3000も4000円もするのはわけがわからん。生地が違うのだろうか?と思い触ってみるがわからない。ファン相手だからと値段設定に強気に出るライブグッズみたいに思えてくる。
服を何着も持っている人(特に女性の方とか)はどれだけ出費してるんだろうかと思うとその努力には平伏するばかりだ。もちろん貸し借りするとか安い店を探すとか色々やりようがあるのだろうが、いずれにせよ今までの自分があまりにも着ることに無頓着だったなぁと苦笑した。

さて、値札を前にしてそのコスパの悪さ(主観)に頭を抱えたものの、ちょっとお高い買い物をするぐらいの心づもりで参ったのも事実。こんなこと滅多にしないだろうと思い気に入ったデザインのものを2点ほど手に取った。

レジに並びながら、ふと昔どこかで読んだ文章を思い出す。なんてことはないありきたりな論説だ。

人の個性というものは画一的な"縛り"の中で初めて生まれる、と。
例えば作家志望の人等を集めて自由に小説を書かすと大体似たり寄ったりな作品が出来上がるらしい。本人にとっては自分なりのオリジナルを発揮しているつもりでも結局どこかで見たような内容になってしまう。
しかし今度は「桃太郎のアレンジを書きなさい」とルールを設けるとめちゃくちゃ十人十色で読み応えのあるモノが出てくる。

これと同じで、いざ学校の制服とかから解き放たれて「ご自身を好きにコーディネートしてくださいな」と自由な環境に置かれても我々は最終的には没個性的なスタイルに落ち着いてしまう。どっかで見たような似たり寄ったりに陥る。
逆に、真に『個性的な人』というのはたとえ制服着ようがリクルートスーツ着ようが体操服着ようが周りと違って見えるのだと。

詳しくは覚えていないし話ごっちゃになっている気はするが……
ともあれ服装1つとっても「周りと違う自分になる」というのはとても困難なことなのである。そう思うと途端に今自分が購入しようとしている服が、店内に並べられているきらびやかな服が、あんなにカッコイイと思っていた服が、目新しくもないモノクロの量産品に見えてきた。いや実際量産品だけどさ。

どこまでいっても何を得ても自分は今の自分を脱することはできないし、他の人より一歩前に出るだなんて理想はとうてい叶わないのである。

オシャレとは難しい。


家に帰って早速購入した服を着てみる。
悪くない。
けれど悪くないだけ。期待していたほどの感動は湧きおこらず、「やっぱブサイクは何着てもダメだな!ガハハ」だなんて開き直りながら晩御飯の調理を始めた。

そもそも自分はどうなりたいんだっけ。

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