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【殴り書き】LIFE GOES ON…

ゆるゆるに伸びたゴム紐で固定したエフェクターケースをカートで引きずりながら坂を下る。コンクリート地面の突起と傷だらけのタイヤが喧しい音を立てる。背中に背負ったギターは、家を出る時より重く感じられた。

喉が引きつった様な痛みを感じるのはコーラスをしたからで、大声をだしたからで、久しぶりに喋りすぎたからで。
そして、ちょっと泣きそうになったからで。

寒さが、痛い。


サークルを引退した。

桜は散り際が一番美しいとはいうけれど、自分は美しかっただろうか?どう見えただろうか?他の人の記憶に残っただろうか?「3年生引退してほしくない人ランキング」があったとしたら結果的に自分はどれぐらいになるんだろうか?


高校生の時からやってるからという理由で軽音を選び、固定バンド制の方が最低限人との繋がりが確保できるかなというコミュ障全開の思考でコナハワイアンズを選んだ。
バンドの相手は選べなかった。コロナ禍で約一年吹っ飛んだから。zoomのミーティングルームで「なるべく理系で揃って組んだ方がいいかな」と言った某ギタリストを思い出す。固まって入ってきてそのまま組んだ人らがいると聞いて少し「は?抜け駆け?羨ましいんだが?」と思った(勘違い)。それは誰も悪くなかった。ベースがおらずヘルプが入った状態から始まり、なるほど要は僕らは余り者の寄せ集めじゃねぇかと感じたが不満はなかった。

軽音ができれば、サークル活動ができりゃあなんだっていい。
仕方ない。


自分も一応高校からギターをやっている身だけど世に言う「経験者」ってやつは格が違った。どいつもこいつも加減しろ馬鹿ってレベルで技術が違った。知識が違った。なにより熱意が違った。そこが一番の差だった。

初心者は初心者でその熱意が更に違った。パート問わずあっという間に僕がギターをやってきた年数を跳び越して貪欲に上手くなっていった。

自分が”負けている側”だと知るのにそう時間はかからなかった。毎回思い知らされた。自分は高校の軽音で何してたんだ?
悔やんでも妬んでも今更熱が湧き上がるわけじゃなかった。

今だから好感度かなぐり捨てる覚悟で言うけど。
自分のバンドでは自分以外が初心者だということに、少し安心していた自分がいた。だって自分が必ず頼りにされる場面が来るから。お山の大将を気取れるから。このバンドなら多少なりとも自分のプライドは守られるから。
俺のしょーもないチャチなギターでも「いいねありがとう」と言ってもらえるのにこれほどの場所があっただろうか?

他のメンバーのことを一切考慮しない曲をリクエストし、練習ではリズム隊を惑わすような演奏を続け(特にドラムの方本当にすみません)、そのくせ本番ではミス連発で顔に泥を塗る。

バンドの中で、なんなら同期の中で一番傲慢なのは自分だった。
一番傲慢であっちゃいけないのに、一番お荷物であっちゃいけないのにそうなってしまった。本当に申し訳ない。

「バンド仲間のために頑張ろう、力を引き出して輝かせよう」なんてつもりは端から無くてただただ俺が、自分が、と私のことばっかり気にして過ごしてきた。自分が上手くできるかどうかが一番念頭にあった。あまりにも自己中心的でそのくせ向上心は微塵もなくて。

皆は優しいからそんなことないよと言ってくれるのかもしれないけど、畢竟自分はチームプレーにてんで向いてなかった。そんな3(2)年間だった。


そう、本当に同期皆は(僕と違って)優しいのだ。
「学年で一人いるかどうか」のレベルの人格者がなんでこんなうじゃうじゃおんねん、って感じ。人の話を否定しない、常に笑顔、何事にも真面目、聞き上手、エトセトラエトセトラ…きっと前世は仏か何かだし来世はきっと天国でウハウハだろう。
自分からしてみれば本当に住む世界が違った。
人との付き合い方──例えば相手の良いところを見つけるとか挨拶をしっかりするとかコミュニケーション全般──のスキルがずば抜けていてなんでそんな性格になれるんだと不思議で仕方なかった。

間違いなく「愛されるべき人たち」だった。

演奏中の一回転も、笑ったら目がキュッと細くなるのも、酔っぱらったら豪快に笑うのも、周りを巻き込むようなエネルギッシュさも、ほんわか落ち着いた喋りも、絶対に自分からは逸らさずこっちをしっかり見てくれるその輝いた瞳も。
全てが魅力的で。

僕はずっとそんな異次元の人たちに助けられて生きてきた。
見捨てられなかった。声をかけて手を差し出してくれた。短所しかない僕を、距離を取ろうとする僕を確かに認識してくれた。
なんてまあ奇特な人なんだろうと思った。

僕は58代の人たちの青春に便乗できておこぼれにあずかることができて幸せだった。きっと皆はここでの思い出を胸に羽ばたいていって幸せになっていくのだろう、いやなるべき人たちだ。

そして皆に優しくされ続けたついでで最後のワガママを一つ。遠い未来その幸せな生活どこかで「そういや隅っこにふくたってやつがいたな」と思い返してくれたら本当に嬉しいです。

これ以上ないほど温かい居場所ともお別れ。
環境に人に甘え続けて、思い出はいっぱい取り逃がして、結局ギターは上達することなくあれよあれよと最終回。

これが物語なら「めでたしめでたし」で終わってエンドロールが流れるんだろうけど、そうはいかないのが悲しいところ。

大切なものは失って過去になって、生きる楽しみは一つ消え去った。

さて明日からどう生きる?

これからも人生は続いていく。


なぜか小指が立ってしまいがちな右手
ギターのメンテナンス全然してなかったけどよく耐えてくれたな…

ここまでお読みいただきありがとうございました。
またどこかで。良いお年を!

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