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【第3話】コントロールできない恋がしたい――幸せよりドラマ性を求めてしまう美都の“恋愛エンタメ体質”

●“コンテンツとして萌えるほう”を選んでしまう美都

前回、有島光軌(鈴木伸之)とお忍びで温泉旅行に行った渡辺美都(波瑠)だったが、奥さんが出産のため里帰り中だから所沢に帰らなきゃいけない、と有島が突然の妻子持ちをしれっとカミングアウト。とっさに美都が自分も既婚者であることを告白すると、有島は「なんだ、よかった」とすがすがしいまでのクズ発言を放つ。言外に「これでお互い割り切って会えるな」というニュアンスが込められていることは明らかだろう。

育休中に不倫していた某元国会議員もかくやというほどの、絵に描いたようなゲス不倫っぷりだが、これで美都が有島に幻滅&失望したかと言えば、まったくそうではないから、恋とは恐ろしい。今回も彼女は、自己中心的な悲劇のヒロイン思考をまっしぐらに突き進んでしまう。

「運命じゃなかった」ことにはがっかりしながらも、「超『あれ?』って思ったけど、嫌にはならなかったんだよね」「最低…なんだけど、まだ嫌いにはなれなくて」と、口から出る言葉は未練タラタラ。親友の香子(大政絢)に「あんたそれじゃ動物だよ?」と呆れられても意に介さない。

美都「優しいから、いい人だから好きになるほうが、心に餌もらって懐いてるみたいで、動物っぽくない?」

美都の言い分は、つまりこういうことだろう。「優しいから」とか「いい人だから」といったなんらかのメリットを理由に相手を選ぶなんて、打算的で本当の恋ではない、と。おそらく彼女は、“自分で主体的にコントロールできているうちは恋じゃない”と本気で思っているのだ。

確かに、恋愛感情にそういった側面があることは否定できない。恋した相手に主導権を奪われ、振り回されることに喜びを見出す人は多い。むしろ、恋愛とは“自分が侵害されることに快楽を感じる破滅的な欲望”のことなのではないかとすら思う。しかし、それはある種の中毒や依存症のような状態であって、酒やタバコと同じく自覚した上でほどほどに嗜むべきだ。

別の言い方をすれば、美都は恋愛において“自分がどういう相手を選ぶと幸せなのか”という視点で主体的・能動的に行動するのではなく、エンタメ性やコンテンツ性の高いほうへ引き寄せられてしまうタイプなのだと思う。俗に“少女漫画脳”などと揶揄される恋愛体質の正体も、実はこれだろう。現実を生きる自分の幸福より、物語の主人公として萌えるほうを選んでしまうのだ。

有島に子どもが産まれたと聞いて、「私じゃない有島がまた一人増えちゃった」と、予想の斜め上を行く角度からがっかりする美都。子どものことを考えるあまり、想像妊娠でもしたかのように吐き気を催すが、これも「有島くんのことを思いすぎて体に変調をきたす自分」になりたくて、わざとチーズタルトをホールごとヤケ食いしていたように見えてしまう。

そんな彼女にとって、毎日の堅実な生活しか提供してくれない夫・涼太(東出昌大)は、エンタメ性の低いつまらない男だ。夫婦とは、お互いに「ありがとう」や「ごめんね」を言い合って、思いやりの貸し借りをする持ちつ持たれつの関係だと思うが、美都にとってそれは一方的に負債を抱えるような関係でしかないようだ。

美都「ありがとう、ごめんね、最近そればっかり涼ちゃんに言ってる。涼ちゃんは優しい。すごく優しいけど、なんだか借りが増えてくみたいで……」

その“借り”は間違いなく自分が不倫してるせいなのだが、彼女は涼太の同僚・小田原(山崎育三郎)を家に招いて手料理でもてなすことを提案し、その借りを埋め合わせようとする。ついでに、「このままなら忘れられるかもしれない」と、有島と会うのもきっぱりやめようとする美都。

だが、“好きなのに会わない私”は、“困難な恋を耐え忍ぶ私”にたやすくキラキラ変換され、ヒロイックに酔えてしまう。案の定、有島からホテルランチに誘われると、美都は大事なおもてなしの日にもかかわらず、「ランチなら間に合うし、お詫びならしょうがない」と、ホイホイついていってしまうのだ。

ランチでハードルを下げさせるなんて、呼吸するようにモテる振る舞いができる“好きの搾取ジャンキー”こと有島にとっては朝飯前(ランチだけど)の所業だろう。「俺は午後、半休にした」とちゃっかりヤル気まんまんであることを匂わせ、「平日の昼から酒って背徳感がまた…」と、“ドラマティックジャンキー”な美都をドキッとさせる“背徳感”というワードを、暗示のように会話に潜ませるのも忘れない。

途中、ランチ代を母にもらった出産祝いから支払うというクズアクションをしれっと差し挟みながらも、エレベーター内での突然のハグ、そして「実は部屋取ってました」アピールによって、美都のときめきセンサーはたちまち強制オン。結局、“平日午後3時の恋人たち”になってしまうのであった。

美都「ずるいなあ、ごめんもありがとうも言わせてくれない。忘れるわけない。忘れられるわけないじゃん。有島くんがやっぱり、世界で一番…好き」

「ごめんもありがとうも言わせてくれない」とはつまり、受け身のお客様視点でいれば、ジェットコースターに乗っているように勝手にドキドキさせてくれるということ。やはり、美都は恋愛の相手にひたすら“エンタメコンテンツ”であることを求めているのだ。

●幸せを押し売りする涼太の一方通行の愛

あっさり寝過ごした美都は、大慌てでデパ地下のお惣菜を買い込んで帰宅。骨折して一時家に滞在していた母・悦子(麻生祐未)に口裏合わせを頼み、“手料理偽装”をする。

悦子は、「嫌だよ、娘の罪滅ぼし手伝うなんて」「あんたは、せめてバレないようにしなさいよ」と、どうやら娘の秘め事に勘付いているようだ。おそらく、美都の“ドラマティックジャンキー”な恋愛体質は、この母親から譲り受けたものだと推察される。「母親みたいにはなりたくない」と思っていたはずの美都が、彼女と同じ道を歩んでいるのは皮肉な話だ。

ちなみに、1月クールのドラマ『お母さん、娘をやめていいですか?』では、斉藤由貴演じる“毒親”と波瑠演じる娘の、近すぎる母娘関係を心配する役を演じていた麻生祐未が、『あなそれ』ではその波瑠に呪縛を植え付ける母親を演じているのが興味深い。

さて、デパ地下惣菜でのおもてなしでなんとかその場を取り繕った美都だったが、心労から解放された気のゆるみか、有島からのLINEに「大丈夫。なんとか間に合って柴犬くんも美味しそうに食べてくれた。今日はありがとう」と、涼太のことを“柴犬くん”呼ばわりしたメッセージを消し忘れて寝落ち。それを、あろうことか涼太に見られてしまったから大変だ。

ここにきてようやく、美都と有島に続く第三のやべえヤツ、涼太に注目していきたいと思う。仕事は安定していて料理も上手、美都のことを一途に想っている涼太は、一見ただの誠実でいい夫だ。しかし、第1話を思い出してほしい。ものもらいで美都の勤める眼科を訪れた彼は、おそらく美都に早くまた会いたいがゆえに、ものもらいを悪化させようと酒を一気飲みしていた。そこそこにやべえ発想である。

その後、美都と付き合って結婚するまでその狂気はしばらく鳴りを潜めていたが、美都が寝言で「有島くん…」と言ってしまったことで暴走気味の気質が再燃。夜な夜な当たり前のように彼女の携帯チェックをするようになる。

さらに、

「僕と結婚してよかった?」
「結婚してよかったでしょ?」
「みっちゃんが一番早かったんだ、結婚。幸せだね!」
「ねえ、みっちゃん!幸せ?」

と、あからさまな“幸せ誘導尋問”の押し売りがえぐい。

そう、この涼太という男、確かに優しいのだが、どこか一方的で押し付けがましいのだ。

「ねこ発見!気持ち良さそうに寝てるよー」
「今、電車を待ってるよ。ちょうど太陽が出てきて空が綺麗だよ」
「夕飯は旬のホワイトアスパラ食べようか」
「今度同じの家で作ってあげる。嬉しいでしょ?」

などなど、涼太から美都に送られるLINEの文面は、一本調子でカラ元気な東出昌大の独特な読み上げ方もあいまって、絶妙に心がない。まるで、美都というお人形に話しかけている一人遊びのように見えてしまう。

だから、美都の“柴犬くん”LINEを見てしまった彼が、翌朝くり出した渾身の皮肉「こんなに食べたら、柴犬から秋田犬になっちゃうよ」は、背筋が凍るほど恐ろしかった。いや、正直に言うと、見ながらちょっと笑ってしまったので、恐ろし面白かった。

自意識をコントロールできずにもてあましている感じが、涼太のキャラクターなのか、東出昌大の演技力なのかわからないところが、また絶妙だ。彼のスリリングさから、これからも目が離せない。

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【2019年の福田から一言】
ここで名付けた「恋愛エンタメ体質」=「自分の意思や主体性よりも、コンテンツとして萌えるほうを選んでしまう」というのは、現実よりも脳内の物語を優先させてしまうという風に敷衍させれば、恋愛に限らず現代人があまねく陥りがちな病理だなと思います。



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