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【第2話】優しさと誠意のなさは両立できる――天然モテ男・有島光軌は“好きの搾取”ジャンキー!?

●“運命の恋”に毒された美都は悲劇のヒロイン気取り

第1話のラストで、中学時代からずっと好きだった初恋の相手・有島光軌(鈴木伸之)と運命的な再会を果たした渡辺(旧姓・三好)美都(波瑠)。恐らく遊び慣れているのであろう有島のスマートかつストレートな誘いでラブホテルに直行し、あっさり一線を越えてしまったところから第2話は始まる。

浮かれるあまり、帰り道に親友の香子(大政絢)に有島との再会を電話で報告する美都は、「ねえ、あんたまさか……ヤッちゃってないよね?」と聞かれて否定はするものの、「お互い、大人になってた♡」と意味深な発言をして一人でニヤニヤ。うざい! うざいぞ美都!

その浮き足立った様子に、夫の渡辺涼太(東出昌大)も直感で何かを感づいたようだ。

前回、美都が寝言で「有島くん……」と言うのを聞いてしまった涼太は、それ以来、夜な夜な彼女の携帯電話のアドレス帳やメール履歴、トーク履歴を目をひんむきながら執拗にチェックするのが日課となっている。そしてこの日、とうとうアドレス帳に「有島光軌」の名前を見つけてしまった彼の眼光は、シリアルキラーのように鋭くなるのであった。ここだけ演出がいつもサイコホラー調。完全に笑かしにかかっていると私は見た。

そうとは知らず、勤め先の歯科医師・花山(橋本じゅん)からも「三好ちゃんってほんと素直だね」「いいことはあった、でも人に話せるようなことじゃない……ってことでしょ?」と見抜かれてしまうほど、脳内お花畑オーラがだだ漏れな美都。

彼女がずぶといのは、不倫ドラマに不可欠なはずの「こんなことしちゃいけないのに……ああ、でも!」という葛藤がほとんど見られないこと。有島からのLINE(一応劇中では「トーク」という架空のメッセージアプリみたいだけど)を心待ちにしているときの美都は、視聴者に“既婚者”という設定を一瞬忘れさせるほど、恋する乙女ホルモン上昇中だ。

自分から再び有島を食事に誘い、涼太には「中学の同級生と会う」としれっとウソをつき、有島にも既婚者であることを黙っている美都に、悪びれた様子は一切ない。それどころか、数々の色ボケ迷言を吐いては、香子や、我々視聴者をイラッとさせる。

美都「私、なんで結婚しちゃったんだろう」
美都「いっそ涼ちゃんが私のこと嫌いになってくれたら、いろいろ楽なんだけどなあ」
美都「私、やっぱり早まっちゃったかも。結婚ってさ、本っ当に運命の人としないとダメだね。有島くんに悪くてさ」
美都「なるべくなら、誰も傷付けたくない。ただただ、この運命を逃したくないだけなんだから」
美都「ほんとになんで今、こんな幸せが降ってきたんだろう。おかげで私、悪い人になっちゃったよ」

これらの発言から強く漂ってくるのは、すがすがしいまでの罪悪感のなさと、主体性の希薄さだ。「なんで結婚しちゃったんだろう」「涼ちゃんが嫌いになってくれたら」「運命を逃したくない」「幸せが降ってきた」「悪い人になっちゃった」……などなど、まるで“運命がそうさせた”だけで、自分がしたんじゃない、とでも言いたげな徹底した受け身&他人事ムード。なんなら、私は運命に振り回される被害者であり、悲劇のヒロインなのだ、と言わんばかりである。

第2話のラスト、有島とお忍びで行った温泉旅行で、実は妻帯者であることを明かされた美都は、「大丈夫、私も結婚してるから。(中略)無茶なこと言わないから、安心して」と、何が大丈夫なのかよくわからないフォローをして、今の関係にしがみつこうとする。

このように美都という女性は、認知にディストーションかかりまくりの恋の超絶技巧ギタリスト。そこそこに“やべぇヤツ”なのだ。

●“恋愛はテクにすぎない”ことを示す天然モテ男・有島

しかし、このドラマに出てくる厄介な人物は、彼女だけではない。不倫相手の有島光軌も、また別ベクトルで“やべぇヤツ”だ。

美都が「奇跡的で必然な出会い、からの宿命の恋」を信じて有島にぞっこんになっているのに対して、彼は明らかに遊びで美都に手を出している。そして、おそらく彼にとってこうしたことは日常茶飯事なのだろう。

美都からのLINEの表示名を「三好物産」にしていたり、ホテルのベッドからいけしゃあしゃあと妻の有島麗華(仲里依紗)に「そろそろ帰る」と連絡したり、麗華が出産のため里帰りでいなくなった途端、美都に「温泉いつでもいいよ」と送ったり、その悪気のない手際のよさは、明らかに浮気常習犯だ。

だが、そんな彼が、女をセックス対象としてしか見ていないクズ野郎なのかと言うと、一見そうではないからタチが悪いのだ。彼は、女性を喜ばせる気遣いや、距離の詰め方、好意の表し方が、抜群にうまいのである。

たとえば、LINEのやりとりでは「昨日の三好20点」といったん不安に突き落とすようなことを言っておきながら、何行も空けてから「10点満点で」と一転させて持ち上げるチャラいメールテクを披露。短いメッセージで相手に吊り橋効果のようなドキドキを与えてしまった。

「木曜、会えたりする?」という美都からのメッセージには、「木曜、カラオケできたりする。卓球できたりする。ご飯食べられたりする。どれがいい?」と、口調を真似るミラーリング効果でおどけてみせて、親近感をマシマシに。

デートの際は、「肉料理のうまいビストロか、パエリアのうまいスペイン料理、どっちがいい?」と女性が選びやすい選択肢を提示してあげる気遣いを見せながらも、桜並木を見かけたらその場で夜店のたこ焼きデートに変更する臨機応変さも発揮する。

ダメ押しは、子ども時代の思い出話からの、目をじっと見つめて「三好ってこんなにかわいかったっけ?」というキラーフレーズ。そりゃあ美都もメロメロに落ちようというものだ。

恐ろしいことに、有島はおそらくその場そのときでは、本気で彼女を喜ばせようとしている。「こういうときは、こうすれば女性にモテる」という扱い方を経験的に知っているし、天性の勘でそういう振る舞いがナチュラルにできてしまうのだと思う。そこにウソはない。

ただし彼の場合、それが一対一の恋愛関係にコミットするということを、必ずしも意味しないから厄介なのだ。ただ、優しくするスキルが高かったから、優しくしただけ。路傍で無視されているティッシュ配りのバイトから、わざわざポケットティッシュを受け取ってあげるように、彼は自分に向けられた好意を無視できず、受け取らずにはいられない。

前回同様『逃げ恥』の言い方を借りれば、彼は女性から“好きを搾取”せずにはいられないモテジャンキーなのかもしれない。

しかし、こうも考えられないだろうか。有島を断罪するのは簡単だが、世間が言う“モテる人”“恋されやすい人”というのは、おしなべてこういう人のことではないかとも思うのである。

みんなが“恋愛”だと思っているものは、実は、相手を異性として扱う振る舞いの巧拙や、好意の表し方のテクニックの上手下手のことにすぎなくて、その人だけを愛し続ける誠意の多寡や、結婚にコミットする才能の有無とは、本来まったく関係がないのではないか。

香子「結婚するってことは、恋愛終了ってことでしょ」

香子はそう言って美都を諌めたが、果たして本当にそうなのかあやしくなってくる。みんな、そう決められているから大人しくそれに従っているだけではないのか。だとすれば、どうして私たちは恋愛=結婚であると思い込まされているのか。

美都と有島、2人の“やべぇヤツ”は、私たちの性愛規範や倫理観に揺さぶりをかけるトリックスターなのかもしれない。それに振り回される麗華と涼太もまた、違う意味で“やべぇヤツ”の予感がプンプンしているのだが、彼らの病理についてはまた次回以降に考えてみたい。 

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【2019年の福田から一言】
第2話に出てくる有島のモテテクってほんと典型的な“たらし”のやり口で、これを序盤でちゃんと立て続けに見せておくあたり、脚本的には結構しっかり考えられてるドラマなんですよね。

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