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『羊文学「OOPARTS」』を論評+小説風に書き下してみた

Title
~『羊文学「OOPARTS」』にみる~
時代状況と若者の存在の乖離、そして脱出願望
Caption
 
なぜ、かつてのような(親世代)のような生き方が私たちにはできないのか。それが現代の若者の最大公約数的な意見としてあるのではないだろうか。そして他方で、これだけ幼少期からいろいろな情報(国際的世界認識)に触れてきたことも、この世代の特徴であろう。そうした環境を与えてくれた大人に対する感謝と、自分たちの理解されない感覚(国際感覚)にや対する深い絶望との、奇妙なアマルガムについて、羊文学はその感情の悲鳴に近い呻き声を代弁してくれているように思う。これはかつての若者の脱出願望ではなく、もっと根本的に異質な、人間存在の意味を問い直すような、成長を伴う類のものに、私には思える。

Source
Amazon Music Unlimited - 羊文学 『OOPARTS』

1 宇宙の中の荒廃した地球
 真っ暗な広い宇宙の中にある地球、画面はその地表近くまで近づき、そこにはかつて存在した人間界の残骸であるラジオが転がっている。ラジオから微かな、乱れた音が聞こえる。

雄弁な言説にのせられて 
勝利の確信に騙されて
僕らの帝国 終焉の道をゆく

 これはかつて存在した帝国、その存亡の歴史についての簡潔なまとめ。

際限ない欲望の 果ての果て
飛び出せ救世主 ブラウン管の外
地球はOOPARTS 100億年の夢


 かつて存在した地球は、稀にみる奇跡の星であり、水が存在し、有機生命体が生まれた。しばらくたった後、国民国家が形成され、科学技術が発展し、テレビというメディアが普及した。時代は移り変わり、この詩の作者が生きた時代へとうつる。そこでは人間の「際限ない欲望」に対する反省、それがもたらした地球環境の破壊が叫ばれていた。そして、インターネットという別種のメディアが主役となり、時代の救世主たちはそこで発信を始めたのだった。

ねぇ今ならば まだ間に合うのに
誰か聴いて ただ生きたいだけ


 地球を維持するための猶予が迫っていることに若い彼女たちは気付いていた。しかし、大人たちに(とくに親に)その切迫感を伝えることの困難さに苦しんでいた。

2 時代状況と存在との乖離

青年はビル街で 風を切る
コンピューター 蛍光灯 25時
彼らは偏執者 聲は届かないまま


 一方で、若い男性たちは何をしていたのだろうか。高度に発展した情報技術に伴う仕事に多くは従事しており、土の根を剥れた都会のアスファルトのビル街に勤めていた。蛍光灯下で続くコンピューター作業は、人間の時間感覚を奪い、気が付けば時間は25時となって、彼らは疲れ果てていた。

ねぇ今ならば まだ間に合うのに
誰か聴いて ただ生きたいの
時計はチクタクと チクタクと進む
僕たちは あの星へ逃げる


 崩壊が迫っていると明らかに分かるのに、仲間になれると思ってた彼らにも聲は届かない。まるでオオカミ少年のようなもどかしさで、時計の秒針だけが、確かな時の進行を告げる。彼女たちは僕たちとなり(オオカミ少年になり)、密かに、別のまだ生き残れる可能性のある「あの」星へ逃げることにする。

3 間奏

時計はチクタクと チクタクと進む
僕たちは あの星へ逃げる
チクタクと チクタクと進む
僕たちは この星を捨てる


 生まれ育ったこの星を捨てることにする。


4 最後の活動

たくさんの円盤に囲まれて 
最高の瞬間を記録した
僕の帝国 100年余の夢


 せっかくだからこの星を捨てる前に、最高の瞬間を、今までの記憶とともにたくさんの円盤(スマホ、パソコンのメモリ)に残しておく。僕が(私が)生きた証を、100年足らずの生命情報を。

全部初めから決まっているのに
誰か聞いて 今見えるの


 すべては初めから決まっていたのかもしれない。彼女たちの場違いな鋭い感性。それに対する世代間ギャップとジェンダー間ギャップによる無理解。ここまで分かっているのに、それでも理解されないのなら・・・。

時計はチクタクと チクタクと進む
僕たちは あの星へ逃げる


5 脱出としての出発

今ならば まだ間に合うのに
誰か聴いて ただ生きたいの


 ただ生きたいだけ。まともに、かつての人間のようにして生きたいと願うだけなのに・・・。

未来はチクタクと チクタクと迫る
僕たちは あの星へ逃げる


それでも今なら分かる。それが無理で、かつ理解されないことも。
だからあの星へ、「僕たち」は逃げる。



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