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大学生発 福島キャリア新発見① 大野農園株式会社 塚原健太さん

記事:中里香奈(福島県立医科大学1年)

取材日:2021年12月10日

『ひとつひとつの仕事に、目の前のひとりひとりに、誠実に向き合う』

 「農業」というと皆さんはどんなイメージを描きますか?朝が早い、安定しない大変な職業といったイメージをお持ちの方も多いかもしれません。私自身の周りを見ても、多様な職種が溢れる世の中で、食の大切さやそれを支えている一次産業のありがたさを感じてはいるが、自分が農業を仕事として選択することに初めの一歩をためらってしまう、というのがほとんどです。
しかし、そんな農業へのイメージを覆す魅力を持った農園が福島県石川町にあります。その名は「大野農園」。果樹栽培・加工品製造・カフェ、キッチンカーの運営といった様々なアプローチから、農業に取り組んでいます。今回インタビューさせていただいたのは、2021年5月、建設関係のお仕事から転身し、24歳で大野農園の門を叩いた塚原健太さん。「大野農園」の何に惹かれたのか。今、何を思い、農業という仕事に取り組んでいるのか。塚原さんの人となりと大野農園での仕事の魅力に迫ります。

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なぜ大野農園へ?

 塚原さんは、前職で淡々と仕事をこなしていく毎日に疑問を持ち、転職を考えるようになったそうです。そこで塚原さんは、せっかくなら、高校時代から興味はあったものの、進路としては選択してこなかった食の分野、特に農業に関わってみたいと思うようになりました。様々な企業を調べる中、果物を育てて販売するだけでなく加工品製造や農業イベントを行い、会社として6次化に力を入れる大野農園に惹かれ、福島での転職を選びました。塚原さんの出身は愛知、大学は横浜、前就職先は東京、と今まで福島に縁やゆかりはありませんでしたが、ためらいはなかったそうです。それほど、大野農園に強い魅力を感じたのだといいます。
 2021年5月に大野農園に入社し、営業部門の担当として、観光地やサービスエリア、道の駅などへの商品導入の提案や、大野農園のショップ「Orageno」での商品販売などをされています。

営業部門としての使命

 営業販売はお客様の声を届けることが使命だと塚原さんは語ります。大野農園で第一にお客様と関わり、良くも悪くも様々な意見を受け止めるのは営業の担当者です。また、営業は、お客様や取引先のニーズに応えるため、様々なところに耳を傾け他の部門にフィードバックします。実際に直接お客様と関わり、声をもらうことに大きなやりがいを感じるそうです。また、決められた時間の中で出来る事をしっかりこなす計画性を持つ意識が大切とのこと。会社として持っている武器をどう活かすのか、まさに農園の業務を区分けし、組織ごとにその役割を分担することで、戦略的な視点を持ちながらお客様のニーズに応えることが出来ているのだと感じました。いかに売り上げの良いものを伸ばすかも大切だが、今ある商品の中で売り上げが低いものをどう売り出していくか、どうやって興味を持ってもらうかにも力を入れていきたいといいます。

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少数精鋭だからこそワンチーム

 塚原さんに、入社して感じた社員の方々との関係性について伺いました。なにより大きいのは社長との距離の近さだそうです。現社長は、10年ほど前まで果物農家だった農園を法人化し、その後、カフェやイベント運営など事業を広げ新しい「果樹農園」、「農業」の形を切りひらいてきた人物です。そんな人が、物理的にも関係性的にもすぐそばで相談できる位置にいてくれることは、仕事をする上で活力になると同時に、良いプレッシャーになるのだといいます。経営者として優しく、時に厳しい社長は、塚原さんにとって尊敬し、憧れを抱く存在なのです。大きな会社や組織では、社長に直接話したり、相談したりするのはなかなか難しいと思うので、これは大野農園さんの魅力だと感じました。
 また、社長以外との関係性についても、「少人数だからこそ生産部門、加工部門、営業部門と密にコミュニケーションを取れる強みがある」と塚原さんは話します。比較的小さな組織だからこそ、トップの方も含め、ワンチームで「大野農園」を作り上げることができるのだと感じました。

仲間を信頼し、売り上げとして還元する

 何かトラブルがあった時、クレームなどを受け、その意見を各部門に伝えるのも営業の役割です。その際、塚原さんは伝え方を意識しているそうです。伝えるべきことは伝えながらも、今まで築き上げられてきた空気感を崩さぬよう、強く言いすぎないのが塚原さんのスタイル。たとえ立場が変わり、自身に求められる役割や必要な視点が変化したとしても、社員との関係性の築き方への変化はあまりないだろうと話します。きっとそれは、ほかの社員の方への尊敬の気持ちと、その方々が気持ちよく仕事をしてくれることがいい商品づくりにつながる、という確信が塚原さんにあるからだと感じました。
 「営業担当として、生産部門、加工部門が一生懸命頑張っていることを、自分が農園の認知度向上や売り上げという形で還元していきたい」と話す塚原さん。ナチュラルで優しい雰囲気の方ですが、その眼差しには仕事と仲間に対する熱い思いがありました。

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福島や農業の魅力を伝えるのも必要な仕事

 「人が都市部に流れ込むのは自然なこと」と塚原さんはいいます。農業経営の6次化に力を入れている「大野農園」に魅力を感じ、東京から転職という経験をお持ちだからこそ、その言葉には何か説得力があるように感じました。一方で「福島や農業に興味を持ってもらえるように福島県内の企業から自発的に魅力をアピールする努力が必要であり、大野農園も福島の一企業としてその義務がある」と語る塚原さん。
 お話を聞きながら、私たちがいわゆる都会にばかり興味をもってしまうのは、地方に魅力がないのではなく都会の魅力の方が印象に残るからなのではないかと考えさせられました。せっかくいいものを持っていても伝えなければ伝わらない。体験イベントや加工品販売など、様々なアプローチで農業の魅力を発信している大野農園さんは、まさにそのフロントランナーだと感じました。

「仕事」としての農業

 「やりたいことを仕事としてやることは難しい。また、農業はどうしても朝が早く、自然相手で不安定な部分も避けられない場面がある。しかし、もし農業に興味があるのなら1年や2年と短い期間でも経験してみることは絶対に無駄にはならない。」と話す塚原さん。私自身、大学生になり年齢的にも社会的にも自立に向けて歩んでいく過程にあります。その中で塚原さんの言葉は、なんとなく「こうなるべきかな」と狭まってしまっていた進路への考え方をいい意味で冒険的にさせてくれました。
 漠然としていた「農業」への興味から、一歩目を踏み出し、着実に大野農園と向き合い、人と向き合い、農業と向き合っている塚原健太さん。今年、福島の地で初めての冬を迎えます。塚原さんは大野農園で、農業に、人に、愛し愛されながら、「仕事」としての農業に誠実に向き合っていくのだろうと感じる取材でした。

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大野農園株式会社

「新しい東北」官民連携推進協議会

発行責任者:一般社団法人 あすびと福島 代表理事 半谷栄寿

事務局長:同社団 國分隆成