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大学生発 福島キャリア新発見⑤ 一般社団法人ふたばプロジェクト 加藤奈緒さん

記事:中里友香(東北学院大学 1年)
サポート: 伊藤 英聖(福島県立医科大学2年)
取材日:2022年6月11日

『大好きなふるさとに賑わいを取り戻す』

 今回の取材対象は、「一般社団法人 ふたばプロジェクト」の加藤奈緒さん。加藤さんは福島県双葉町の出身の23歳、東日本大震災当時は双葉南小学校の6年生でした。震災後、原発事故による避難で福島県川俣町、東京都、福島市を転々としたのち、中学校2年生の時に福島県沿岸部で双葉町から南に40kmほどのいわき市に移りました。いわき市にある福島県立四倉高校を卒業後、医療専門学校に進学。しかし、2年で中退しその後、介護のお仕事に就きます。そして、2022年3月からは双葉町委嘱の復興支援員としてふたばプロジェクトでのお仕事を始めています。なぜ加藤さんは介護のお仕事から復興支援員のお仕事に転職したのか?どのような想いで地元・双葉町で復興支援員として働いているのか?加藤さんの率直な想いを伺いながら、私自身にも向き合っていきたいと思います。

自分のやりたい仕事=双葉町に関わる仕事

 高校を卒業後、介護関係のお仕事をしていたという加藤さん。2021年11月の終わりにヘルニアになってしまい、介護の仕事を続けることが難しくなってしまいました。今後のキャリアについて悩んでいた加藤さんですが、当時所属していた会社の先輩方や代表取締役社長、利用者の方々に「やりたいことは若いうちにやっておけ」と後押しされ、「自分のやりたい仕事は地元双葉町に関わる仕事だ」と介護の仕事を離れる決意をします。そんな中、いわき市に移転している双葉町役場で「復興支援員」の仕事が偶然目につき、応募。今年2022年3月からふたばプロジェクトの一員となり、現在は双葉駅旧駅舎のスペースでお仕事をされています。


加藤さんが普段お仕事をされている場所で取材をさせていただきました

原発事故による全町避難

 双葉町は、福島県の沿岸部「浜通り」のおおよそ真ん中に位置しています。震災前までは約7000人の暮らしがあり、毎年1月の「ダルマ市」というお祭りには町内外から多くの人が訪れ、賑わいがあったといいます。しかし、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故により、同発電所が立地する双葉町は全域が警戒区域に指定され、すべての住民が町を離れることを余儀なくされました。原発事故から11年以上が経ち、他の自治体では全域または一部の避難指示が解除され、住民の方々が戻ってきている中、双葉町は唯一、人口ゼロの状態が続いてしまっています。一方で、ついに2022年8月30日、町の面積の1割にあたる「特定復興再生拠点区域」に指定された地域の避難指示が解除されます。

人口ゼロからのスタート

 小学校6年生まで双葉町に住んでいた加藤さんですが、今振り返ってみると、震災前の街の賑わいや幼少期に双葉町で過ごした時間は夢だったように感じてしまうといいます。震災から11年が経って双葉町に戻り、懐かしい場所だけれど、戻ってきてすぐのうちはなかなか町民の方に会うことが出来ず、無人島に来た感覚だったといいます。避難指示の一部解除を間近に控えている双葉町ですが、避難先での生活が安定し、双葉町に戻ってくることを諦めている人が多いという状況だと加藤さんは語ります。実際、取材中にふたばプロジェクトを訪ねてきた80代の住民の方も、避難先に家を建ててしまったから、避難指示が解除されても双葉町には戻ってこないと仰っていました。私自身、テレビや新聞の報道などで、帰還する人が少ないことや、元いた町には戻らないと決めている人が多いということを耳にしたことはありますが、実際にお話を聞き、現実を目の当たりにして言葉を失ってしまったのと同時に、戻って来る人を増やすためにはどのような事をすればよいのか考えていかなければならないなと思いました。また、もう町に戻らないと決めている人は若者が多いというイメージを勝手に持っていましたが、高齢な方も町に戻らないと決めている人がいるのだと知り、驚きました。
 一方で最近は、3.11の節目の日にたくさんの人が町を訪れたり、避難指示が解除される地域の住民が準備のために戻って来たりしていて、昔の知り合いに会うことも増えてきたとうれしそうに加藤さんは語ります。また、仲のよいおじいさんから双葉駅西口に新たに建設中の公営住宅に、「一緒に住むか?」と言われたこともあるそうです。それくらい住民同士の距離が近い双葉町の本来の姿が少しずつながらも、ようやく戻りつつあるのだと感じ、少しほっとした気持ちになりました。

双葉町について語る加藤さんは笑顔にあふれていました

人の賑わいを取り戻していくために

 ふたばプロジェクトは双葉町内の双葉駅といわき市の事務所の2か所に拠点を構えており、加藤さんは主に双葉駅で来訪者に飲食店を紹介したり、町内にある伝承館以外の観光案内をしたり、町内で行われるイベントを企画・運営したりしています。また、婦人会の方々との共同で駅前周辺に花を植えたりもしているそうです。今回の取材は双葉駅の旧駅舎で行いましたが、ちょうど翌日にみなさんで花の植え替えをされるとのことで、準備が着々と進められていました。
 イベントの企画などは初めての経験だと語る加藤さん。資金調達や集客など、頭を悩ませることも多いといいますが、町民の方々と話す機会が多く、「頑張ってね!」と声を掛けられるのがやりがいだと語ってくれました。
 さらに、ふたばプロジェクトではインターネットでの情報発信にも力を入れており、会社のホームページだけでなく、FacebookやInstagramなどで双葉町の情報やふたばプロジェクトで行ったイベントなどについて発信しています。私も今回の取材に当たってInstagramを拝見しましたが、双葉町について有益な情報を知ることができ、双葉町に行ってみたくなる内容でした。

 
ふたばプロジェクトさんで実施した双葉町内の環境美化活動の様子


双葉町大好き!

 自らのやりたい仕事を考えた時に、真っ先に地元である双葉町が思い浮かんだという加藤さん。「原発のある双葉町」ではなく、「暗闇の中からも前に進んでいく双葉町」をたくさんの人に伝えるために、InstagramやFacebookなどでの情報発信をもっと頑張りたい、町内にはスーパーなどが無かったけれど、隣の浪江町のイオンの移動販売車が来るようになったことなど、少しずつだけれども確実に前進していることを伝えたいと語っていました。情報発信やイベントの開催を継続していくことで双葉町に興味を持ってくれる人や遊びに来てくれる人を増やしていきたいと目を輝かせていました。
 双葉町が大好きだと何度も話してくれた加藤さん。今回、お話を伺った私は、親の仕事の都合で小さい時から福島県内で引っ越しを3回しており、ふるさとに対する思いという物が正直よく分からないまま今まで過ごしてきました。今回の取材を通して、加藤さんのふるさとである双葉町に対する愛や思い、双葉町をよりよくしていきたいというお話を聞いて、「ふるさと」とは「自分が安心できる場所」なのだと感じ、そこで活躍している加藤さん自身が輝いて見えました。私自身、自分のやりたいことや将来の夢などをまだはっきりとできていない部分が多いのですが、「双葉町大好き!」という自らのやりたいという思いから仕事をしている加藤さんを見て、私もまずはやりたいことをやっていけばいい、大学生の今しか出来ないことをやっていこうと前向きに考える事が出来るようになった時間でした。