説得する相手
Academic Debateは相手の論破が目標ではない
Debateというものに対して抱かれている強いイメージとして「相手をやりこめる」という像があり、多分それは世間一般に好印象を与えるものではない。
大学におけるAcademic Debateの経験者と、いわゆるDebateというもののイメージの間に存在するGapとして、「何を目的として行うか?」というものの齟齬がある。
Academic Debateという競技で説得する相手は「Judge」という審判で、相手をやるこめるために行う訳ではない。
*ただし、実力差が大きすぎると結果的に対戦相手にボコボコにされたりするので、結果的にそうなっている事はある。
これは確かAcademic Debateの由緒の一つに裁判モデルがあったからで、現行の"Policy Making paradigm"とマッチしているスタイルなのか若干違和感が無くはない。でJudge=民衆と捉えるならば、あまり違和感は出ないのかも。
DebateのJudgeは思ったほど話を理解できてない(事がある)
この競技の特徴として「対戦相手にはEvidenceやAD/DAのシートを渡せる」が「Judgeには同様のシートは渡せない」という点がある。
つまり、
・競技中は自分のスピーチ力でJudgeに議論を主張し続ける必要がある
そんなわけで、Academic Debateをやっていると「競技をやり込んでいるPlayer間(対戦相手どうし)は進んでいる議論を詳細に理解できている」のだが、「Judgeには何一つ理解できる話が通じてない」というシュールな状況が出現する事がある。
自分がやっていた医学部リーグは試合数も少なくて全学とは全く違う論題を使うこともあったため、特にリーグ初期環境下ではJudging roomに戻ったJudgeが軒並み頭を抱えて白紙のバロットシートに向き合ってるという雰囲気を楽しめたりする。
一貫性のある議論はJugdeの理解を助ける
僕のDebateのパートナーは非常にスピーチの遅い人だった。
あと、僕らは互いにそんなに頭の回転が速くなくて、即興で戦略を組み立てるような器用さは持ち合わせていなかった。
で、初心者同然のペアで手探りで始めたんだけど、意外と負けなかった。
というか、医学部リーグ内だけどそこそこ勝つことが出来た。
当時は何で勝ってるのか良く分からなかったんだけど、後々で考えると僕らは試合中、パートナー間で進めたい議論の筋が食い違う事をしなかった。
これは別に当初から取り決めた訳では無かったのだけど、互いの長所を最大限に生かすことを追求した結果として、暗黙の了解で選択・正立した戦略だった。
具体的には、想定される全てのAD/DAに対する対応を決めた。
例えばAttackに対するRefutationを用意して、それをRebuttal phaseでどう整理するか方向性は試合前に既に100%近く決まっていた。
Negative sideだったら想定されるADに対するAttackは全て事前準備していた。
もし想定外のADやAttackが来たら、Preparetion timeは全てそこに費やしていた。逆に、全部が想定通りのシナリオの場合にはPreparation timeが余って困る事もあった。
当時は必死だったんだけど、学年が上がって余裕が出たときに振り返って考えるに、チーム内でのコンセンサスが不十分だと、同じチームでの話者が変わると主張のポイントが食い違って、何を言いたいのか分からないっていう状況が生じる。すると、話を聞くのみでしか判断できないJudgeは何の話を進めたいのか分からず大混乱に陥るリスクがある。
逆に、結局僕らは最初っから最後までパートナー間では一切の齟齬なく議論を進めていた訳で、ある意味「毎回同じ世界観の同じ話を繰り返していた」のに近い状況だった。
こうなると、スタンスが明確な方にVoteしたくなるのはある意味自然な流れだったのだろう。
事前準備は試合中の余裕を作る
僕らのチームは「短時間でスピーチを大量に叩き込む」ことが能力的に出来なかったために、ものすごい時間を試合準備に費やす事で対応した。
予想される相手のAttack AD DA といった全てへの対応を決め、どの論点から相手の議論を切り崩しかも決めておき、最終的にどのように議論を整理するか…。
そうすると、遅いスピーチでもきちんと成立する議論を作ることが出来たし、話がズレないからJudgeにも伝わった。
そして、試合中の準備時間は「不慮の事態に対して使う時間」に費やすことが出来た。
当時、有力な対戦相手の一人が「あのチームは1×1が100になる」と評してくれたそうで、それは僕らにとって最高の誉め言葉だった。
ただ、この辺はパートナーとの相性次第なので、必ずしもTeam buildingが上手くやれる訳ではない。
全学で組んだ時の相手は他大学だったんだけど、「互いに好きな事を自由にやろう」がチームポリシーだった。でも試合前は二人で徹底的に準備してたんで、多分思ったよりは議論がズレなかったなだろうなぁ。
Academic Debateでコミュニケーションを学ぶ
そんなわけで僕は後輩にいつも、
・Judgeを説得するためには一貫性・整合性のある議論が大切
・一貫性・整合性のある議論のためには、事前準備とパートナーとの意思疎通が欠かせない
という話をしていた。
もちろんペア間に極端な実力差があって、片方の力だけで勝ち上がっちゃうチームもあるあるなんだけど、そこにピリついた空気を感じるとしんどいなぁって思ってしまう。
どんなProjectでも他人と一緒に取り組むのなら、自分勝手に目の前の仕事を処理していても非効率だったり上手く行かない事が多い。
医療現場で診療をしているとき、医師と看護師で患者の医療に対する捉え方に大きなGapが生じている事がある。簡単に言えば看護師が医師の治療方針に納得が行っていない、必要性が理解できていない事がある。
そういう時は、基本的に医師と看護師でチーム医療としての方針共有が上手く行っていない。
「自分は何を考えているのか?何をやりたいのか?」
「自分は何のためにこれを選ぶのか?」
「将来的なGoalとして何を想定しているのか?」
そういった話を伝えることで、Gapの解消が出来ることもある。
(もちろん、いろんな事情で落としどころが見つからないケースもある)
つらつらと書いたけれども、
情報共有と対話の必要性や重要性を理解し、伝えるための訓練として、Debate Partnerとの対話の時間はとても学ぶことが多かったと思っている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?