見出し画像

『後奈良院御撰何曾』(1516年)

 先日、QuizKnockで『後奈良院御撰何曾』を元にした動畫が公開されてゐました。

 これを觀て、以前に『後奈良院御撰何曾』の存在を知り、色々と調べてゐたのを思ひ出しました。
 投稿日現在、青空文庫が新規受付停止中なので、ここに『後奈良院御撰何曾』を掲載します。後奈良天皇(1497-1557)が作ったとされてをり(否定説もありますが)、1516(永正13)年に記したといふ記述があるので、間違いなく著作權保護期間は滿了してゐると認識してをります。
 正直、これだけ見ても何のこっちゃといふものなので、後日、解説書にあたる『後奈良院御撰何曾之解』も公開したいと思ひます。


後奈良院御撰何曾

三輪のやまもりくる月はかげもなし。

すきまくら

あかしの浦には月すまず。

はりまくら

瀧のひびきに夢ぞおどろく。

あいさめ

ゆきは下よりとけて水のうへそふ。

春は花夏は卯の花秋楓冬は氷のしたくぐる水。

しきがは

おととひもきのふもけふもこもりゐて月をも日をもおがまざりけり。

御神樂

おもふ事いはでただにややみぬべき我にひとしき人しなければ。

おしき

ろはにほへと。

岩なし

ろはにほへと。

さきおれかんな

いろはならへ。

かんなかけ

いちご岩なし。

ちご

さい。

とのいもの

やぶれ蚊帳。

かいる

みづ。

ゆでなし

まへなは目あき、うしろなは目くら。

みみず

ちりはなし。

はいたか

田。

もみぢ

いもし。

かながしら

御おんばくだい。

ふちたか

七日にまはりて人さすむし。

尺八

うみなかのかへる。

つた

母には二たびあひたれども父には一度もあはず。

くちびる

三位の中將は何故うたれ給ふぞ。

なら火鉢

四季のさきに鬼あり。

花あふぎ

花の山ははなの木、ははその森はははその木。

山もり

梅の木を水にたてかへよ。

鷹心ありて鳥を取る。

嵐は山を去て軒のへんにあり。

風車

竹生島には山鳥もなし。

道風がみちのく紙に山といふ字をかく。

みやづかひかひこそなけれ身を捨てゝしはさかさまに引くは何ぞも。

八はし

情有人の娘に心かけゆふぐれごとにこひぞわづらふ。

姫小松

もろこしにたのむ社のあればこそまいらぬまでも身をばきよむれ。

唐紙せうじ

秋の田の露おもげなるけしきかな。

うはぎえしたる雪ぞたえせぬ。

きつね

待よひのうたたね。

車やどり

上を見れば下にあり下を見れば上にあり母のはらをとをりて子のかたにあり。

ほうしやうが刀にひをながくかいたる。

ほうづき

しちくの中の鶯は尾ばかりぞ見えける。

はちす

らうそくのさき、たびの中にあり。

たらひ

かみはかみに有、しもはしもに有。

櫻所々にひらけたり。

花むらさき

人を恨て昔をかたる。

いれもとゆひ

ねりいとのまむすび。

とくだいじ

ないしのうへのきぬ、とのの上がさね。

しとと(鵐)

きとうちかへすさいのめ九つ。

ときぐし(櫛)

喜撰の歌はせんもなく歌もなし秋の月の曉の雲にあへるがごとし。

木まくら

火をともし候ぞ御入候へ。

あかりせうじ(明障子)

けふは朔日あすは晦日。

さかづき(盃)

十里の道をけさ[#「けさ」に「けさイ」の注記]歸る。

にごり酒

やわたりのあした。

すみ染のけさ

風待ほうす。

鈴蟲

ほうりほうす。

なげし(長押)

戀の評定。

あふぎ

因果歴然。

むくいぬ(㺜)

門を兩からたつる。

あはせと(合砥)

三里半。

よりかかり

ゆふまとひ。

あかね(茜)

なぞ立十三。

ときぐし

ふるてんく。

こま

千しほ。

手おひ

こよみ。

火かき(掻)

あま雲。

日がくし

かはかぜ。

みづふき

竹の中の雨。

やぶさめ(流鏑馬)

いづみに水なくしてりうかへる。

白うり(瓜)

はちまき。

かし山からげ

野中の雪。

柚の木

わごぜにそふも此春ばかり。

なつめの木(棗)

よびかへせよびかへせ。

ひよひよ

御まへにさぶらふ。

五葉松

ゆるりの追風。

はいたて

抽[#「抽」に「柚カ」の注記]は皮ばかり。

すみとり(炭取)

火ばちの下にすみがしら。

はちす(蓮)

おくびやう武者の軍評定。

ひき木(挽木)

うへもなき思を佛とき給ふ。

心經

けふのかり場は犬もなし。

たかばかり(尺)

おい男袖をひろげて立まはる。

せうまう(燒亡)

ほうづき。

まさかり(鉞)

十三になれどもひだるい。

くしがき(串柿)

海の道十里にたらず。

何も漆のあるとき。

ぬりおけ

なぜにゑひた。

しゐたけ(推茸)

かきの中の篠。

かささぎ

深山路やみ山がくれのうす紅葉もみぢはちりて跡かたもなし。

やうす

ふくろうのくろうはなくて耳づくに耳のなきこそおかしかりけれ。

ふづくゑ(文机)

宇佐も宮熊野もおなじ神なれば伊勢住よしもおなじかみがみ。

うぐひす(鶯)

こしのうちの神べい。

かきうちは

にくさにさりぬ、さりながらわすれぬ。

軒のしのぶ

よせてのひがごと。

じやうり(草)

ふづくゑの上の源氏の九の卷。

ふすま(被)

鹿をさして言もならひ。

むまひゆ(馬莧)

夢かへりてよひ過ぬ。

めゆひ(目結)

さしぬきのすそそんじたるかへり花。

さしなは

うしやただ足もやすめず故郷にかへりては行く山路なりけり。

またたび(木天蓼)

廿人木にのぼる。

きんかくのくひやう。

にし

やぶれせんざい。

なし壺

はちの中のかいそう。

しめし

露霜をきて萩のはぞ散。

風呂のうちの連歌。

ふくろ(袋)

しほ/\としほ/\/\としほ/\/\としほたれまはる宿の夕がほ。

八鹽のひさご(𣏐)

いひそめし日より心をつくす哉いつあひそめてうちはとくべき。

めづくし

ひとつくうしをとくうのき見ん。

ひつじ(羊)

かりはひがことはなをかへすゆへ。

かなは

ひつじの角なきは仙人の乘物。

ひしづる(菱鶴)

妻戸のまより歸る。

雪のうちに參りたり。

ゆまき

かどの中の神なり。

からいと

みたらしのみそぎ。

たらし

京中にてぞ夜あけぬ。

五條げさ

春の農人。

たすき(襷)

田舍人のこゑ。

なまり(鉛)

脊の後は駒のすみか。

はらまき(腹卷)

魚取鳥の物わすれ。

うどん(温飩)

ゑのころのゆあらひ。

いぬたで(葒草)

五輪の下の化物。

はかま(袴)

それたへておつとる。

こうばい(紅梅)

やどのけいせい。

一こつてう(越調)

笹かきわけて鹿やふすらん。

さしがさ(傘)

楊枝のさきに血付たり。

丁子

山がらが山をはなれてこぞことし。

からにしき

三十六町さきにふくろう鳴て、しとみやりどたまらず。

一りうほうさいやれ

八十一のきさき、きらがさね。

こしき

御僧の寮に物わすれしたり。

あんどん(行燈)

夏のむし。

ひとり

ぬれぶみ。

ほしみる(干海松)

夏衣冬降にけり。

かたびら

かねの柱に綱つけてつなをばひかで柱をぞ引く。

はらの中の子のこゑ。

はしら(柱)

鶴。

たづな(手綱)

狐のともし火。

かけおひ

にかみ/\ゆがみ/\。

はは木ぎ

沖の中のつり舟浦によする。

あまがへる(蛙)

いそがしげにもあゆまぬものか。

ねりぬき(練貫)

ちやはなゝなひきそ。

薄折敷

一字千金。

しをん(紫菀)

とをりざまに一こぶし。

雪うち

ちごのかみなきはほうしにはおとり、田舍におけ。

ごいし

たまづさの中はことは。

戀には心も言もなし。

嵐ののち紅葉道をうづむ。

しも(霜)

ひがしおもて。

うづら(鶉)

にし。

ひとまる(人丸)

女房。

あまがさき

ふみ。

こじがみ(巾子紙)

きりかさねたるなます、なま鳥きりぎりすかくす。

しらす(白砂)

くへはおほしく、はねはすくなし。

鳥の巣

たちばな。

いぬざくら

四々十六。

やつはち

道風ののち佐理手跡にはうへもなし。

たうせき(盜跖)

西行はさとりて後かみをそる。

きやう(經)

紅の絲くさりて蟲と成る。

よしともはよしなき父のくびをとり弓とりながら弓を捨ける。

友千どり

ひきての中のちり。

ひちりき(篳篥)

一谷の合戰に一の名を擧しは九郎判官義經熊谷次郎直實これらは皆かへしあはせし故。

くゞい(鵠)

四季のはじめ月のおはり。

はなあふぎ(花扇)

さかづきをねざめにささるるは、よしなきととけゆへ。

きつね(狐)

紫の上かくれし砌に源氏の跡をとどめしはいかに。

盃ねがはくかはくことなかれ。

きつね

雨の中のねぶり二時過ぬ。

あぶりめ

さびかへりたる釼のさき。

ひさげ(提子)

夕㒵の上うせて後、右近がこんといはぬもことはり。

かほうり

源氏のはじめ、さ衣のはじめ、人に申さん。

伊勢物語

あかしのうへ桐つぼの更衣にはをとり。

すまい

むさしのは、はてもなし。

むさし

山を飛あらしに蟲ははて鳥來る。

車のうへにこしはをとれり。

くし(櫛)

谷のとら。

たたうがみ(疊紙)

蟹たかをはさむ。

かたかに

まろきもの。

すみとり(炭取)

ひかる君うつろふかたともろともにうせにし君の末をしぞ思ふ。

すまゐ

長老の二たび寺を出給ふ。

ついがさね

谷の氷柱はなかばとけたり。

たたら

春日の社。

ならがみ(奈良紙)

ともし火きえなんとす。

あぶらつぎ(油坏)

みづとりやめされよ。

かもうり

かたえかるゝ林は土のあかはり若みどりのみどりだになし。

かきつばた

さけのさかな。

けさ

袷はふくろび、はんびは半やぶれぬ。

あはび

宇治ばしの上にて伊豆守殿はうたれ頼政は刀をとられぬ。

うづまさ

はたちのこさる立ながら生るる。

山がらが山をはなれてやつしてはもなきはぎの上にこそゐれ。

からにしき

もろこしにとしをへて歸るをまつ。

からひさしの車

六は過たるけふの朝かな。

たつがしら

ちやうだい。

ふすま

さるくりまはす。

くすり

宿の柳に花のころなど花のなき。

ところ

林の下に鹿ををうへしてぞなく。

麓松かね

とし立歸るとしのはじめ。

しとと

女房のかみそぎたるは、ふうきにはうへもなし。

ほうき

古たたみ。

いくち

永正十三季正月


底本:「御撰集 第六卷」列聖全集編纂會
   1917(大正6)年1月15日發行
※国立国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)で公開されている當該書籍畫像(https://dl.ndl.go.jp/pid/945315/ / 507頁523頁)に基づいて、作業しました。