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あまり知られていない、生活保護を辞める手続き。

生活保護制度の内容は、本当に複雑でわかりにくい。

そして、生活保護に「物申したい人」はとても多い。制度そのものに対して、または生活保護受給者に対して。個人的には、多くの人が生活保護制度に関心を寄せることは良いことだと思っている。「社会保障の最後の砦」だから。なんらかの理由で生活に困窮することは、誰にでもありえる。いまは「ヒトゴト」かもしれないが、先のことはわからない。

ただ、そのことで、生活保護制度についての憶測や誤解が多く生まれ、わかりにくさに輪をかけているようにも思える。生活保護制度は「生きるため」の制度。それなのに、正確な情報を知ることが難しいのが実際のところ。

この記事では「生活保護の辞め方」について、実体験を書いておく。

私の世帯は生活保護を受けていた。夫婦二人世帯で、ふたりともが病気を患って働くことができなかったからである。受給するに至った経緯を書くと長くなるので省略。

さて、本題の「生活保護の辞め方」。
まずご注意いただきたいのは、生活保護制度の運用は各自治体によって違うので、本記事の内容は福岡市の場合であること。なお、生活保護を辞めたのは平成30年2月なので、今後、法制度の改正によっては変わる可能性もある。

生活保護を辞めようと思ったのは、二人とも働けるようになったから。生活保護費を上回る収入を得ることができるようになったというわけ。もちろん、上回った分、保護費を返還するという形で生活保護を続けることはできる。返還するのは15,000円を超えた金額。たとえば月に100,000円働いたら、85,000円は次の月に支給される保護費から差し引かれる。つまりプラスになるのは15,000円。(月に15,000円以上働くのはバカバカしい、と思うのも当たり前)

ところで、収入が生活保護費を超えたからといって、そう簡単に生活保護を辞められない人も多いと思う。たいていは医療費の負担が大きいのではないだろうか。

生活保護を辞めると、当たり前だけど、それまで免除されていたり、国と市が肩代わりしていたお金を負担することになる。
以下は、私の世帯で気になった主なもの。

(1)住民税
(2)国民健康保険料
(3)国民年金保険料
(4)NHK受信料
(5)賃貸契約の更新料(火災保険)
(6)医療費

(1)については前年の収入がゼロなので「非課税世帯」になる。負担なし。(2)の金額も前年収入によって決まるので、私の世帯だと月額2,800円程度。(3)は、減免制度があって、私の世帯は全額免除(将来受け取る年金額は減るけれども)。(4)はNHKの免除制度の中で、別の条件を満たしていたので全額免除。(5)は年間10,000円。

ここまでは大丈夫だと思った。年間43,600円、月額にすると3,500円。
それにしても、これを調べるのは意外と大変だった。

さて、やはり(6)の医療費。病気持ち二人世帯としては一番の心配事。もともと働けなかった理由がそれなので。しかし、別の助成制度(疾患が該当)があって通院の窓口負担については1 割負担で済むことも。他を合わせて月10,000円ほど。問題は入院した場合。二人とも何度も入院を繰り返しているので、入院費がちょっと怖い。ここで国民健康保険の「高額療養費制度」。非課税世帯だと月額35,400円を超えた分は健康保険から支給される。食費や差額ベッド代は実費だけれど、月に60,000円を超えることはなさそうだ。その分貯金しなくては。二人とも時給で働いているので、入院中は収入も無くなる。既往症なので医療保険を頼ることはできない。

さて、ここまで調べたことをもとに二人で話し合って「生活保護を辞めよう」と決めた。自立したいというのはもちろんだけれども、他に大きな理由を挙げるとすれば、福祉事務所での書類手続きがとにかく多くて負担になること。そして、受診できる医療機関が限られること。とくに、近所の歯科と整形外科が生活保護指定ではないので、受診できない。病院を選べないのは窮屈。

しかし、大きな壁。

辞め方がわからない。

「生活保護を受ける」ための支援というのはいろいろある。もちろん公的な相談窓口も。ところが「生活保護を辞める」ための支援はさっぱりない。相談できそうなところに出向いても、相談員は「よく考えて慎重に」としか言わない。どこに行っても同じ答えが返ってくる。

「よく考えて慎重に」

そんなことは誰でも言えるし、相談になっていない。こちらは「具体的な手続きの進め方」を知りたいのだから。ネットの情報にもアテになるものは無かった。そのことが、この記事を書く動機になったのだけれども。

一体どこから手をつければいいのか、見当がつかない。二人で悩みに悩み、もしかして持病が悪化するんじゃないかと思った。二人だったからまだしも、一人だったら耐えられなかったと思う。

結局、正攻法しかないと思って、福祉事務所に行くことにした。一応、二人分の給与明細と、以下の文章を紙に書いて持って行った。当然、福祉事務所は平日しか開いていないので、二人とも仕事を休んで。

福岡市○○福祉事務所長様

私○○○○(名前)と妻○○(名前)は、生活保護を辞退します。
平成30年○月○日


福岡市○○区○○○○○○○(住所)
○○○○(名前)印

福祉事務所のカウンターで、担当のケースワーカーさん(以下CWさん)に上記の紙と給与明細を手渡した。

「保護を辞退したいんですけど」
「え? あの...、急に言われても...」
「今月までにできませんか?」
「今月までって...あと一週間しかないから、無理です」
「だって、この給料のほとんどを返還することになります」
「それはそうなんですが」
「だから保護を辞めたいんです。お願いします」
「待ってください。上司と相談します」

(30分ぐらい待つ)

「また後日あらためて...」
「お願いします。今日は仕事を休んで来てるんです」
「審査もあるし、会計の締め日が...」
「辞退届の受理はするんですか?」
「それはします」
「今日付けで?」
「はい」
「だいたい何日ぐらいかかりますか? 収入申告はどうなりますか?」
「私にはわかりません」

本来、福祉事務所としては喜ばしいことのはずなのに、面倒そうな対応をされたのが意外だった。とりあえず帰宅。「疲れたねー」。

1週間後、電話をしてみた。

「保護辞退の件、どうなりましたか?」
「一応、係長決済まで行ってるからほぼ決定です。保護停止になります。書類手続きがいろいろあるので、一度窓口に来てください」

翌日、再び窓口へ。

「通知書はまだできてないので、この書類を持って、区役所本館で健康保険と年金と...、それから保険センターで....」

CWさんは、私の世帯がどういう減免措置を受けているのか把握できていない様子だった。各種手続きを全部を終わらせるのは一日がかり。誰かが案内してくれるようなことは無かった。保護を受けるときには、職員が付き添ってそれぞれの窓口で手続きを手伝ってくれたけれども。

帰宅後、CWさんから電話があり。

「手続きは大丈夫でしたか? すみません、受給者の方からの辞退というのは初めてだったものですから。あと、お伝えしていたかどうか...今回は保護停止で、3ヶ月後に保護廃止になります」

まさかその福祉事務所で過去1件も無いはずはないので、そのCWさんにとって初めてだったのだろう。

なお「保護停止」とは、いつでも再開できる状態なので、完全に打ち切られるわけではない。だからそれほど怯える必要は無いように思う。数ヶ月(私の場合は3ヶ月)経ってから「保護廃止」。いったん廃止になると、再び生活保護を受けるためには、新規で申請し直すことになる。

とにかく、生活保護を辞めることができた。

<後日、郵送されてきた通知書>


私の場合、福祉事務所に行って、書類を受理してもらうことから始め、保護停止の決定が降りたあとは、福祉事務所からの連絡は全くない。半年経っても「保護廃止」の通知書が送られてこないので、電話で聞いてみたら、

「廃止です」

と言われた。
通知書は未だに届いていないが、別に困ってもいないので、こちらから催促するつもりもない。

もちろん、生活保護を受給するには人それぞれの事情があるので、辞めたから偉いとか、それは違うと思っている。

ただ、実際に辞めようとしたときに、あまりにも情報が少なく、支援もなかった(かなり不安だった)ので、せめてこの記事がどなたかの参考になれば幸いに思う。


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