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禁断の中古ガス窯の選び方

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購入を考える方の資料となれば幸いです。

メーカーと容積・重量


耐火断熱レンガも断熱材もフレームの設計も古いよりも新しいほうがよく、その断熱性能の差ば燃費などに影響します。またあまりにも小型のガス窯はわたしはオススメしません。そもそも炎がある窯の最小サイズというのはあると思いますし、今よりもむかしのほうがアマチュア向けの小型炉へ注がれた製造メーカーのエネルギーは少ないように感じています。

重量は設置場所や移動方法に大きく影響し、その窯の壁厚やフレーム剛性によって変動する要素です。例えば0.3㎥で1トン以下は軽すぎると思います。


製造年よりも焼成頻度を知る

ガス窯の寿命は製造されてからの経過年数ではありません。何回本焼成をおこなったかが寿命です。
わたしが築炉メーカーで仕事をしていたころ、レンガの張替え工事といえば大きな製陶所でも10年に一回とかもっと長いスパンでやっていたような記憶があります。

個人の作家さんであれば儲かっている工房の方が積極的におこなっていたような気がします。経費と税金の関係ですね。あとは一度据え付けたらそのままでほとんどの方が問題なく使用されているようです。電気炉にはヒーター線の交換がありますが、正しく使用していけば長期間使用できるのがガス窯のメリットです。

ということは、中古のガス窯として流通しているものは、プロが限界まで使い倒したもの、倒産した工場の小さめのもの、アマチュアが購入していたが運用者の加齢や死亡で売却した、もしくは引き取ったというものがほとんどかと思います。

プロの現場で使用されていたのであれば、かなりの焼成回数を経ているでしょうし、設置場所の条件や使用方法、焼成雰囲気でも寿命は変動するものです。とはいえ電気炉のようにヒーター線の様子でその焼成回数をはかることは難しい部分もあります。逆に販売する可能性がある窯のオーナーの方は、焼成記録を残しておくことでその窯の焼成回数や焚き方を一緒に業者や次のオーナーへ渡せることになり、販売する際に有利な条件になります。


壁の厚み・炉内寸法・色見穴の数と場所

壁の厚みは150ミリ以下は薄いと判断しましょう。アルミの鍋とステンレスの鍋以上の差ができます。
厚みの判断は外寸と炉内寸法からすぐに計算できます。フレームの厚みもありますが、鉄のL型アングルは5~6ミリ、鉄板は1.6~3.2ミリです。本体の外寸の幅が1150ミリとして、炉内の幅が760ミリ程度であったのなら、ざっくり180ミリだな、と判断します。

レンガの寸法は115x230x65ですから、65の縦積みと115横積みで180ミリの壁厚、115ミリに断熱ボードで150ミリの壁厚、115ミリの横積みと230ミリの縦積みを交互に行えば230ミリの壁厚となります。あくまでざっくりした説明で、レンガ積みはもっと複雑なものです。65ミリの壁厚で0.1㎥とかはやめたほうが無難です。

色見穴はバーナーのある場所、扉、本体後ろなどにあります。小型炉であれば側面に色見穴がないものを見たことがあります。いったいどうやって焼成すればいいのか疑問に思ったものです。色見穴は焼成において必要だから設けられています。特に本体側面のバーナーの位置にそれぞれ設けられた色見穴は重要です。


ダンパーとドラフトの素材と様式

ダンパーとドラフトがどうなっているのかはガス窯の製造された時代をある程度知ることができます。
たとえばダンパーの素材が板状のムライトなどの断熱材ではなく、厚みのあるレンガであれば、相当古いものだといえます。ウチの窯がそうですけど(笑)。

またドラフトがあまりにも小さいとか、そもそもエントツにつながる煙道が細いという窯も見たことがあります。このあたりをこのような発信で伝えるのは不可能な気がします。

いろいろな窯を実際に眼にして、ダンパーとドラフトを意識していれば、違和感を覚えるものがあるかもしれません。そしてそのメーカーが耳にしたこともないところで既に廃業や倒産していれば要注意ということでしょうか。中古とはいえ、高い安いには理由があります。


本体のリペイントは行うか

ようするにペンキを塗り直してくれるのか、という中古販売業者の補修内容についての確認の一つです。

中古とはいえ、数十万円の買い物をするのですからペンキぐらい塗ってもらいたいものです。ガス窯のシルバーペイントは耐熱塗料ではありませんので、ホームセンターで入手可能です。

またペンキを塗り直してあるものが在庫として販売業者のもとに置いてあるのならば、塗り方や見えない所をどうしているのかで業者の仕事にたいするスタンスや性格が見えることもあります。


バーナーのメーカーとサイズ・本数

ガス窯のバーナーといえばここ、みたいなメーカーもありますが、オリジナルのバーナーやバーナータイルを設けている築炉メーカーもあります。その場合の部品供給はどうなるのかは確認しておいた方がいいでしょう。

また同じ0.4㎥のガス窯であっても、バーナーの本数がメーカーによって違うこともあったり、本数は同じでもバーナーのサイズが違うこともあります。サイズが違えば同じような焼成を行っていても圧力計の示すガス圧は変わりますが、焼成方法がかわるわけではありません。

バーナーのサイズというのはバーナーヘッドを取り付ける部分のニップルのサイズで、本体に記載されていることも多いものです。単位はインチで、1、1・1/4、1・1/2などと表示されています。


バーナーヘッドの割れ・ヒビ、素材

バーナーヘッドの素材はセラミックと鋳物がありますが、ほとんどセラミック製のものだと思います。
ヒビや割れをかならず確認し、現状でヒビなどが確認できたら交換してくれるのかどうか、その費用は本体価格に含まれるのかをしっかりと聞いておくべきです。そもそもきちんとした業者であれば、自ら確認して交換して販売するのが当たり前田のセラミックです。

ヒビや割れたバーナーヘッドに針金を巻きつけて使用しているところが時々ありますが、危険ですからやめてください。大丈夫と思うのなら消防にそれを見せてオッケーをもらってください。

むかしに比べるとバーナーヘッドも高くなりましたが販売されています。業者であれば入手先と取引があるはずです。


バーナーのオーバーホールは納入前に行うか

バーナーのオーバーホールって何?というような業者さんからは購入しないようにしましょう。
すべてのチェックポイントの項目はリンクしています。バーナーの構造を理解していない人が正しい焼成指導やアドバイスを行えるということは残念ながらありません。

オーバーホールなんて必要ないという人もいるのかもしれませんが、それはオーバーホールをしなければならないバーナーの状態を見たことがない人なんだろうと思います。そんなに頻繁に行うメンテナンスではありませんが、初めての窯を購入するアナタにそのバーナーの状態を説明して安心させてくれる人から購入しましょう。またガス屋さんにもこのあたりの知識や経験のある頼もしい方が時々います。


炉内の状態・耐火断熱レンガの状態・色

耐火断熱レンガにびっしりとヒビが入っている、白い耐火断熱レンガに色が入っている、割れ、補修跡。

あまりにも細かいヒビが全面に入っていれば、新品をアマチュアが購入し、初期焙りを正しく行っていない可能性が高いです。レンガを積む際にはモルタルを使用しますが、その耐火モルタルの水分をしっかりと抜かなければなりません。この焙りは薪窯でも必要ですが、それを知らない業者やお客さんがすぐに窯を使い始めると水分のせいで細かなヒビが入ります。当然その窯の耐火断熱レンガの物理的な強度は下がってしまうでしょう。

耐火断熱レンガでつくられた窯の炉内には必ずヒビが入ります。それを回避するためにレンガの積み方などをメーカーごとに工夫しているものです。目地をもうけて膨張収縮の圧を逃したり、レンガ同士の組み方に工夫したりするようです。焙りを知らずに全面に細かなヒビが入っているのはいただけませんが、数箇所のヒビが入っているのは構造上問題ありません。

ただし、あやまったヒビの補修はよく眼にします。そうしたヒビを無理に補修する必要はありません。前述したように僅かですが窯そのものが焼成によって膨張収縮しますので、大きめのヒビでもセラミックウールなどをただ詰めるだけでかまいませんし、それさえ必要ない場合がほとんどでしょう。

仮に指が入るようなヒビがあるとすれば、それは人に販売するような窯ではありません。同じように扉やバーナーに欠損があったりエントツが無いものもお金をとって人に販売するようなものではありません。

炉内の変色についてですが、たとえば炉内の一部だけくすんだように色の感じが違うような窯は何か通常の焼成方法とは違うことをしていたのか、バーナーの一部が不調だったのかもしれません。あまり良い使用方法をされていなかった可能性があるということでしょう。


ガス圧計は50kPaで納入時に新品に交換するのか

MPaのメーターの方が格段に安いので、50kPaのメーターにしていないものもあるのでしょう。50kPaの圧力計はネットで購入しても一万円弱はします。そもそもメーターにPa以外の単位が表示されていればそれは相当古いメーターです。ガス窯を設置しても、あとで圧力計が狂っていると呼び出されたりする手間と失う信用を考えれば、新品に交換すべき部分の筆頭格です。

こうしたメーターには寿命がありますし、本来は公正を行って正しい数値を示しているのかを検査するべきものです。この圧力計が狂っていれば、これまでのデータは意味をなしません。針の動きが悪いから指で叩いているとかは論外です。Uボードじゃないんですから。

また中古として引き取る時も、あらたな持ち主のもとへ搬入する時も、圧力計は窯から取り外して振動を与えないように細心の注意をはらって運搬するものです。通常は運転席に緩衝材などで包んで持ち運ぶべきですが、これを知らない人が中古の窯を販売する業者にかなりいますので、購入する方が知識として知っておきましょう。そしてお客側から圧力計は新品に交換すること、本体の搬入後に現場で取り付けること、本体の販売価格に含めるのか、当然の補修として含めないのか、を必ず確認すべきです。

業者は使えるもの、焚けるものを販売しているはずですので、搬入して配管工事もおわり、いざ焼成というときに圧力計が狂っていたら即無償で交換してもらいましょう。またそれは新品でなくては意味がありません。まぁいいかと使っていては圧力計を狂わせたのは誰だかわからなくなります。


配管の取り回し・コックや点火棒の状態

バーナーへの窯本体側の配管の取り回しはメーカー色がでているものです。
バーナー数本の側面の配管が行き止まりの場合と、全体がぐるりと一周つながっている配管があります。大沢ガス炉商会で配管をしていたときには社長の設計で周回の配管を0.15㎥でも採用していました。窯が大きくなれば特にそれが必要になると思います。

パスカルの法則で問題ないという話も聞きますが、行き止まりの配管に4本のバーナーがつながっていて、そのすべてが点火していれば、一番先端部分の圧はどうなのかと疑問に思います。もっとも2㎥、3㎥のガス窯に行き止まりの配管工事がされることはありませんので、それが答えでしょう。

もちろん小型・中型のガス炉の場合、用いる配管の太さで問題ないことが多いのかもしれませんが、メーカーが何をどう考えているのかを知る要素の一つだと個人的には考えています。

配管に付随するコックや点火棒もそれほど高いものではありません。あまりにも傷んでいれば価格据え置きで交換できないか交渉するのもアリでしょう。ちゃんとしたところは交換しています。意外と点火棒が傷んでいる中古の窯は目にします。毎回何度も使用するものですからしっかりとチェックしておきたいですね。


エントツの素材と長さ・専用か流用か

エントツは窯にとって非常に重要なパーツです。ある意味窯炉というのはエントツの発展した形ともいえるのではないかと個人的には考えています。

窯の歴史を振り返れば、ただのトンネルのような形の地下式登窯、蛇窯、そこから連房式登窯などへ変遷していきますが、それにつれてエントツはどんどん長くなっていきます。同時に窯の角度は平坦になり、反転し、ガス窯では完全に倒焔式になります。

エンジンにマフラーという排気管が必須であるように、窯にはエントツが必要です。その長さを求めるには計算式もあるそうですが、窯詰めするものの数と密度は変動する要素ですから、計算するよりも経験則として長過ぎるエントツにする必要があります。

そのため正しく設置されたエントツを持つガス窯を、ダンパーやドラフトを操作せずに焼成すれば、酸化焼成どころか相当なエネルギーを無駄にエントツから廃棄することになります。また短いエントツが設置されていれば炉内雰囲気は揃わず、昇温もコントロールできず、窯本体の性能はまったく発揮されません。

引きすぎるエントツはいくらでもコントロールできます。ドラフトとダンパーはそのために設けられていますが、引かないエントツはダンパーやドラフトでどうすることもできません。

エントツの素材は鉄板を加工してメッキをかけたものが主流でしたが、最近はステンレス製のものも価格が下がってきたのでよく使われています。既製品のパイプでもエントツは造れられていますが、正しいものと不適合なものが混在しています。また既製品のパイプはとくに陶芸窯のために造られてはいませんので、かなり薄いきらいがあります。

ステンレス製でも1ミリ以下であれば物理的な強度が心配です。台風や竜巻でエントツが倒れたり折れたりするだけならまだしも、飛ばされたエントツで怪我人でもでたら保障することができるでしょうか。エントツでいい加減な工事をする業者というのはこうした可能性を全く考えていないといういことでしょう。

中古で流通しているガス窯においては設置する場所、引き上げた場所の違いから新たなエントツに変更する必要が出てくることはあるかと思います。他の窯のエントツを流用するにしても必要な長さと正しい素材でなければなりません。そしてそれはお客様へ説明されるべきものです。また購入する側もエントツの重要性とその素材や施工について学び、妥協してはいけません。


熱電対・棚板・その他付属品の有無

熱電対も温度計も棚板も必要な分量を揃えると中古のガス窯の本体価格の半分以上になることもあります。購入しようとしている中古の窯の本体価格に、こうした付属品も含まれているのかどうかは必ず確認しなければなりません。

熱電対は保護管の中に非常に高価な金属線が使われていて、熱電対だけでも売買されることがあります。通常よく使用されるサイズでも安い自転車二台分ぐらいの価格がしますし、温度を表示する温度計も安いものではありません。

棚板はカーボランダム製のものを使用します。一枚あたり数千円ほどして小型ガス窯でも十枚程度は必要になります。中古のガス窯に付属品としてないのであれば、入手先を探しておきましょう。棚板専門の業者さんもあります。

また棚板が付属している場合、その窯を製造したメーカーの資料やホームページにあたれるのなら、メーカーが設定した寸法と同じ棚板が付属しているのかも重要な確認項目です。ちょっとぐらい違っても大丈夫ですよ、なんて無責任なことを言う業者がいるとしたらガス窯がどうやって設計・製造されているのかを知らないただの転売人ですから注意しましょう。いないと思いますけど。


扉のブランケットの状態

窯の扉と本体との断熱は、レンガとレンガの間の断熱材の重要な役目です。

レンガとレンガだけの密閉性は当然かなり低く、薪窯なら泥を塗り込み、二昔前の窯なら石綿金網のようなものを釘打ちしていましたが、現在ではセラミックの綿状のブランケットを専用接着剤で貼り付けています。

この部分は交換可能ですし、中古で厚みがなくなっているようなものがついているのならば新品に交換してもらえるのか、費用は据え置きでよいかを確認しましょう。

ガス窯の扉の閉め方について初期の動画で発信していますが、それを知らずに扉のハンドルをぎっちり締めていた人や製陶所の担当者は意外なほど多いものです。このブランケットと本体側のレンガの扉受け部分の状態は確認しておきましょう。

もし本体側の扉の受けの部分のレンガに歪みやヒビがあれば正しい閉め方をされていなかった窯だと判断できます。また扉のブランケットは通常12.5ミリ程度のものがよく使われますので、それが5ミリ程度にまで潰れていれば交換してもらいましょう。

何度も申し上げますが、中古とはいえ窯として使用できるものを販売するはずですから、圧力計やこうした交換可能な重要な部分については、きちんとした業者であれば確認していますし、必要ならば交換しています。


補修された部分の有無とその方法

陶芸窯の補修箇所はおおよそきまっていますが、それ以外の場所で補修されている場合はその理由などが説明されるべきです。

またレンガのヒビなどに無理やりなにかを塗られていることがありますが、そもそも正しい補修かどうか疑問です。また炉内に後から断熱材を貼り付けるようなものも過去にあったそうですが、これも炉内寸法が変わるしアーチからはボロ降りするようになるので疑問符が浮かびます。

クルマやバイクでもそうですが、本当に意味のあるカスタムやパーツならばプロが採用して継続して使われているものです。


エントツ工事の費用が別請求か

エントツの素材や種類を選べるようになっていることもあるでしょう。また曲げ加工や設置する屋根の状況によっては通常の設置工事よりもコストがかかることもあるわけです。

設置工事の費用は先に見積してもらい、その金額と内容を確認して書類をもらいましょう。あとで聞いていた価格と違う請求がきて困惑したというような話もたまに聞きますが、それを含めて見積をするのが業者というものです。

ただのガス窯の設置工事です。民間初のシャトルを造っているわけでも、ジャングルに秘密基地を建設しているわけではありません。クレーンと搬入工事、エントツの取り付けだけの工事を見積もれない人も世の中には存在しているでしょうから、見積と支払いについてはしっかりと確認し話し合っておきましょう。

残念ながら、見ていないと適当なことをする人はどの業界にもいる、ということを覚えておきましょう。とくにこの業界では陶芸窯になんの思い入れもなく仕事をしている人にはその傾向が多少あるのかもしれません。


雨仕舞の施工方法と雨漏りした場合の補修内容

エントツは真っ直ぐに立てるものです。それが基本です。

そうなると屋根に穴を開けて、雨が漏れないようにしなければなりません。この作業を雨仕舞といいますが、それをどのように行い、もし雨漏りしてしまったらどう対応してくれるのか必ず念をおして確認しておきましょう。

エントツの穴の周りに光が漏れている工場や工房は意外とあり、当然雨も漏れています。エントツとはそういうものかな、と諦めていてはこの業界はよくなりません。雨が漏れるのは設置業者にとって恥でしかないということを知り、やり直してもらいましょう。当然費用を新たに請求するなんて非常識極まりないことだと覚えておきましょう。

それが嫌で面倒くさいから安易にエントツを曲げようとする業者もあるようです。曲げるのは構いませんが、ガス窯のエントツを90°に曲げることは有りえない上に、それでも雨仕舞が上手くできていないところもあります。さらにその相談だけワタシにされても泣きたくなります。

ただし、特殊な屋根の形状や素材であればメーカーや業者では無理な場合があります。その場合は板金屋さんなどに頼むしかありません。

わたしは板金屋さんの施工の方が確実であること、その場合は別に板金屋さんの費用が発生するが、こちらはいくら見積から引きますと提案しています。またワタシが行った場合は5%程度の確率で雨が漏れる時があるが、その時にはやり直します、と伝えています。


焼成指導はできるのか

たとえアナタがプロで十分な焼成経験があったとしても、初めて使用する中古のガス窯ならば焼成指導を受けるべきです。

それにより自分の思い込みや無駄な作業、行っていない作業や確認事項を炙り出し、新たな知識を得ることができるからです。その焼成方法が気に入らなければ採用しなければいいことですし、自分に焼成方法の引き出しが増えるのは良いことではないでしょうか。

焼成指導とは口で適当に説明するということではなく、立ち会って一緒に操作して焼成するということです。それが出来ない業者が圧倒的に多いと思いますが、先に確認しておくべきです。その場合はあくまで機材を価格で購入するということになり、有用なアドバイスを求めることはできないと諦めましょう。

現在では焼成方法もネットで情報が公開されているわけですから、それだけで十分なのかもしれません。しかし初めての窯であれば焼成指導が出来る人や業者を選ぶべきです。また学校仲間や師匠や教室の先生からのアドバイスのほとんどは、本人も確認もしていない思い込みや、科学的根拠がないものが多いものです。

二昔前の機材があるところで修行していればいつの間にかそれが当たり前となり、新しい機材などを知らないまま独立して自分の設備を持つことになります。

切り替えることが上手な方であればよいですが、本来は正しく新しいはずの機材や施工を、良くないもの、間違ったもの、と捉えるようになる恐れがあります。中には延々と無駄なガス代を払い続けるような焚き方をしたり、危険な操作をしたりする人もいます。例をあげれば点火後のあぶりでガス窯の扉を開ける、バーナーの炎を赤火するなどはまったくの間違いです。

セカンドオピニオンとして焼成指導は受けるべきで、高額な窯の購入時はそのチャンスでもあるのです。


販売業者の窯焚き能力の有無

これも焼成指導に繋がりますが、そもそも業者が窯を焚くことが出来るか出来ないかは確認しましょう。それを尋ねてムッとするようなところは当然その能力がないということです。出来る人はサラッと返事してくれます。大事なのは出来るか出来ないかを確実に知ることです。

残念ながら窯焚きが出来ない人が焼成方法をアドバイスすることは不可能です。当然ですよね。質問すれば何かを答えるでしょうが、それは又聞きや間違いでしかありません。そのアドバイスに経験値は一切含まれていないということです。

極端な例えですが、わたしはオートバイに乗れない人が中古のバイク屋をやっていてもいいとは思います。でも乗れない人は意味のない整備をしたり、無駄なパーツを付けられそうな恐れがあります。そもそも選び方も乗り方も教えてももらえませんし、オートバイの本来の楽しさへ導いてくれることもありません。

それでもアナタが探していたバイクが予算内でその店の在庫にあって、自分でその状態を把握し、運転する免許もあって整備もできるのなら買いでしょう。

ただしそのバイクにはなんの保証もなく、購入そのものが自己責任であるということを忘れてはいけません。いらなくなったからといってどこも引き取ってはくれません。

窯を購入する際には一度他の買い物に置き換えて考えてみることをお勧めします。

では、窯焚きできない業者はどうすればいいのか、ということですがそれは簡単です。
在庫の窯に配管して焼成の練習をすればいいだけのことです。ひとつひとつ焼成を経験し、ついでに器をつくって入れてみれば、お客様との距離が縮まり、信用と売上につながること間違いなしです。よかった、よかった。

だれもはじめから窯焚きができた人はいません。わたしもはじめから窯焚きが出来たわけではありません。窯を造ったりしながら仕事の後にコツコツやってきただけです。すべてのメーカーの創業者や社長さんはそうやって窯を焚いて造ってきたのです。窯は誰にでも焚けます。そして楽しいものです。

その思いで造られた窯を次の方へつなげるために、業者の方は中古ガス窯を取り扱っているのでしょうから、本当に感謝ですね。


総額の見積書と工事内容の覚書・見積と請求金額が変わる場合の条件

口約束で聞いた金額とは全然高い請求があとでくる、なんて話は独立する陶芸家の周囲でたまに聞くことがあります。しかし、この責任は購入する側にあります。見積書をとっていないとこうなります。

見積書をもらっても工事費が変動する場合の条件を聞き、現場確認などを経てそれに合致すればあらためて見積書をお願いしましょう。おかしいと思ったら見積を持って他所で相談という禁じ手もいいんじゃないでしょうか。

そもそも現地でクレーン頼んだら意外と高かったとか、屋根材が思ったものと違ったとか、本来それは業者の責任ですが、アナタのことなんてどうでもいいと思っていると請求してくる場合もあるようです。悲しいことですがわたしも窯の設置費が貧乏学生と外車オーナーの奥様で倍違ったという例を知っています。

アマチュアの作陶家でも窯は大きな買い物です。逆にアマチュアの方は別の世界でプロだった人もいるでしょうからこのあたりは厳しい対応をされているかもしれません。

覚書とは別にどのような形態でもいいのですが、個人と業者で窯の引き取りなどをする場合わたしは用意するようにしています。署名捺印するということです。

特に引き取る窯に付随するものがある場合など、これをしっかりと交わしておかないとトラブルの元となります。棚板を故人の友人が持ち去っていたり、電動ロクロが別のところに売られたりすることがあるからです。


現物を確認できる場合は寸法と写真・出来ないならば補修工程の写真の提出が可能か

エントツを立てるガス窯では設置する側は必ず現場の状況を確認しなければなりません。お互いに協力して写真や寸法の情報のやりとりをしましょう。設置場所だけではなく、搬入経路、トラックが通る道の状況なども設置する側としては知りたいものです。

また曲がりのエントツを製作しなければならないときの寸法取りなどは現地を確認しないと不可能な場合もあります。その際の出張費用はどうするのか、これもお互いに確認しておきましょう。

また販売する側はお客様へ対して、今どのような補修作業をしているのか写真やメールでやりとりすればお客様の安心感に繋がります。そうした連絡を行わなかった場合とある程度の信頼関係を築いた場合では同じトラブルが起こったとしてもお客様の心情や対応はかわります。

陶芸窯の購入はだれしも不安を持っているものです。まして初めてでそれが中古であれば尚更です。その気持を理解できないのであれば、良い評判が立つはずもありません。


最後に

陶芸窯の製造や取り扱いは非常に特殊でニッチな業種とも言えます。
陶芸家やアマチュア作陶家の総数から考えても、決して大きな市場ではないといえるでしょう。それでも築炉側の人間はここに記載したこと以外にも多くのことに注意を払って窯造りをしています。

窯造りが好きで、陶芸が好き。
そんな人たちが、より良い窯や良い仕事を残したい、という心意気で造られた窯が紆余曲折を経て次の人に渡る。

中古取扱業者がそれを仲立ちするのは素晴らしいことだと思いますし、わたしも中古のガス窯の設置を行うことがあります。

しかし。

その取扱業者に陶芸窯への思い入れと仕事へのプライドがない、正しい知識や施工方法を知らないのは危険でしかありません。中古のガス窯をお考えの方はただ窯を選ぶのではなく業者を選ぶようにしてください。

そうすれば事故や不良工事を回避することができるでしょう。


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