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【九州在来種の香酸柑橘を求めて:vol,1】馬渡島に自生する幻の柑橘でまちおこし!(後編)

ゆずやレモンをはじめとする「香酸柑橘(こうさんかんきつ)」とは、果汁の酸味や果皮の香りそのものを楽しむ柑橘類のこと。
その種類は30種類以上とも言われています。料理の味を引き立て、殺菌作用もあることから、昔から多くの家庭で重宝されてきました。
さらに香酸柑橘は「在来種」と呼ばれる特定の地域で長年栽培されている希少な品種も多いのも特徴。
産地が限定的であることや生産量の問題で市場に出回る機会が少なく、なかなか陽の目をみることのない品種でもあるのです。
今回は前回に引き続き「九州在来の香酸柑橘」にスポットを当てて紹介します。

後編となる今回は、未だ謎のベールに包まれる「ゲンコウ」の生い立ちや背景、美味しい食べ方など、知られざるその魅力についてご紹介します。
(前編から読みたい方はコチラ


馬渡島の固有種“ゲンコウ”を求めて

「まぁ、食べてみらんね」といただいたのは、
青い皮のまま綺麗にカットされた柑橘。
「ゲンコウですか?!」と尋ねると「青レモンたい」とのこと。
なかなかゲンコウまで辿り着けません(笑)。

富田さんが幻の柑橘“ゲンコウ”の存在を知ったのは、約18年ほど前。
当時から珍しい農産物に目がなかった富田さんは、ある時友人から「この地域にしかない柑橘が馬渡島にあるらしい」と聞きます。
知り合いのツテをたどって3ヶ月。島に自生する原木を探し当てた時には、すでに島に残されていたのはわずか5本ほどだったそうです。

「この地域にしかない品種は、この唐津で作り続けることに意味がある」と確かな可能性を感じて育ててきたゲンコウ。
その一方で、「なぜかゲンコウだけはなかなか広まらん」と頭を抱える富田さん。京都の老舗料亭では、ゲンコウの濃厚な酸味と甘みを生かしたゼリーとして好評を博しているとか。
3年前、農家としては息子さんに代替わりしたそうですがこのゲンコウだけは、富田さん自ら丁寧に栽培を続けています。

キリシタンの暮らしを支えた柑橘

さて、ここでゲンコウが発見された唐津の海に浮かぶ島について少しだけレクチャーを。
唐津市には「レインボーアイランド」と称される七つの島があります。 幻のゲンコウが見つかったのはその中の1島、馬渡島(まだらじま)。人口500人弱、唐津市では一番大きな島です。

馬渡島の住人は、古くから住む仏教徒が漁港付近の本村集落に、カトリック教徒は山側の新村集落に住んでいます。ゲンコウは、カトリック教徒の住むエリアにあったため、一説には当時の神父が馬渡島に移り住む際に、食料としてゲンコウを育てていたのではないかと言われているそうです。

10年前まではほどんど誰も知らなかったという事実が
“ゲンコウ”を幻の柑橘とする所以。
唐津の街を盛り上げるストーリーのある果物として
大切に育て続けている。

実は、島の固有種であるゲンコウを探し始めた時、富田さんはお母さまに「島は資源が少ないから簡単に持ち出してはならん」と一喝されたことがあるとか。
しかし、その姿をひと目見たいと思った富田さんは、馬渡島に住むゲンコウの持ち主の元を訪ねます。母の話を持ち主にすると「気に入った!」と、少し譲ってもらうことができたそう。
その思いをつなぐため、富田さんは接ぎ木したゲンコウを近隣の農家へ配るなど、普及活動に努めてきました。

現在、富田さんの農場では面積で300本以上、10トン近いゲンコウを生産。酸味の強い香酸柑橘でありながら、高い糖度をマークするゲンコウ。濃厚な甘味とあっさりした酸味が自慢ですが、その認知度は低いままだとか。

「何でやろか?」と首を傾げる富田さんですが、
「つくるのを辞めたらなくなってしまうかもしれん。
唐津の固有種ゲンコウをこれからも町の宝として後世に伝えていきたい」
とその意気込みを熱く語ってくれました。

焼き牡蠣やシメサバが絶品に!

さて、ここからはゲンコウの調理法をレクチャーします。形や大きさは温州みかんによく似ているゲンコウですが、通常はそのまま食べるのではありません。香酸柑橘であるレモンや柚子、スダチの仲間に分類されるゲンコウは、果汁を絞り、料理の味を引き立てる脇役として使われる重宝されています。

ゲンコウの果汁に漬け込んだシメサバ
お酢よりも食材に浸透するまでに時間がかかるため、
通常より長く漬け込む必要があるとか
鼻孔をくすぐる柑橘の香りと柔らかな酸味が際立つ逸品
柚子やかぼすとは異なる風味は“ゲンコウ”ならでは

また、ゲンコウは酸味だけでなく甘みがあるのも特徴で、その果汁を絞ればお酒や料理がまろやかになるのです。
富田さんの農園は、自然を利用した特殊な貯蔵法によって、その糖度を12.5度〜15度まで上げることもできるので、ゲンコウそのものはもちろん果汁のパックやジュースに加工しています。

果汁100%のゲンコウジュースは
道の駅「唐津うまかもん市場」で購入可

これから10月〜3月にかけて糖度を増しながら出荷される富田さんのゲンコウ。富田さんに伺ったゲンコウのとっておきの活用レシピは、牡蠣に果汁をかけて食すこと。
今回取材に伺った際は、牡蠣のシーズンではなかったので残念ながら写真はありませんが、果実やジュースは道の駅「唐津うまかもん市場」で購入することができます。ここにしかないレアな味わいは、そのままはもちろん、炭酸とシロップで割れば爽やかな後味の大人のソフトドリンクに早変わり。お子さんにはカルピスなどで割るのがおすすめ。アレンジする楽しみを見出しながら味わってほしい逸品です。

富田さんの思いが詰まった柑橘ゲンコウ、いかがだったでしょうか。
農作物劇場(略して農劇)では、これからも世の中に知られていないけれど、地域の暮らしや歴史を物語る貴重な農産物の魅力を発信していきたいと思います。


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