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ショートショート

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#指定あり

🎖️ ピリカグランプリ すまスパ賞|ショートショート|誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー

「私がピストルの引金を引くのは上司に頼まれたからなの。決して私自身が好き好んでではなく……」と彼女は呟き、静かに水を飲んだ。 「それが役割ですから」と僕は返したが、自分でも気の利かない発言だなと思いゲンナリした。それで慌てて付け加えた。「あなたのおかげで静止した世界が動き出すんです。その先には喜びも悲しみもあるけれど、それはあなたのせいじゃない。まずは誇りを持たないと」  彼女と僕は仕事仲間だ。だから彼女の苦悩も分かるつもり。上からの指示をこなす日々に嫌気がさすこともある。

二義文|はやくあくからすくわなくては

はやくあくからすくわなくては 〈1〉早く悪から救わなくては 善良な市民を助けるのがヒーローの使命 〈2〉早く灰汁から掬わなくては 食べたいと逸る気持ちを抑えて大事な一手間

40字小説|荒れ模様

「止まない雨はない」 「名言ですが気象予報士がそれでは困ります」  気象庁も荒れ模様。

最後の1行小説|狂い咲き

 その死は、あたかも季節外れの開花——すなわち狂い咲きのようであったが、美しいことに変わりはなかった。

140字小説|涙のホームラン

 ボールは美しい放物線を描き、これまた馬鹿正直な重力によって盆栽に直撃した。歓喜のホームランのはずが、違う意味で涙ぐむバッターの子。 「怒っていないよ。本当さ」とお爺さんはボールを返して笑った。「広い公園を用意できない大人にも責任はあるんだ。だからせめて広い心を持たんとな」

100字小説|約束、果たせず

 僕らが幼稚園児の頃、妻は言った。「いつか結婚してあげる。約束するよ」  そして今「離婚しましょう」と妻は告げた。「昔あなたは『ヒーローになって地球の平和を守る!』と誓ったわ。でも約束を果たせないみたいね」

ショートショート|ほんの少しの希望があれば充分です

「蝶や鳥なんか見てるとさ、飛べるのって残酷だと思わない? 人間には羽がなくてむしろよかったかもしれないね」 「そう? 空を舞うのって素敵だと思うけどな」 「だって、歩くことが心底億劫になるだろうから……。私たちは本質的に満足ができない生物なんだよ、たぶん」  竜巻のように突然ですが、僕のこれまでの――大した長さではなく残念ながら貴重でもない――生涯について語らせていただければと思います。それでも、すべてを話すとあまりに冗長ですからトピックを厳選します。聴くのに料金はとりま

🎖️ note編集部 ピックアップ|ショートショート|ハロー・グッバイ・ハロー・グッバイ

 走ること自体も楽しいが、走りながら黙々と自分の世界に浸るのがより好きかもしれない。……ちょっと大人ぶってるかな。僕は中学生で陸上部に所属している。専門は長距離走だ。  朝の澄んだ空気の中で行う自主練は至福だ。世界を独り占めしたかのよう。走るのはいつもこの砂浜。2つ理由がある。  1つは、砂に足をとられて走りにくいため、むしろこれが良い負荷になって、脚力を鍛えるのにピッタリだから。アスリートもこのトレーニングは採用しているらしく、模倣するだけでなんだか僕も一流になった気分。

40字小説|最終便

バス停で最終便を待っていたら妖怪がゾロゾロと……隣は百鬼夜行バスらしいな。

ショートショート|過去はどこに?

 理科の先生はアルコールランプを手に取り、僕ら児童に向かってこう注意した。「火を扱うんです。くれぐれもふざけないように」  アルコールランプの火で金網の上に乗せたビーカーの水を沸かすのだ。しかし、最も危険なのは火ではなかったのかもしれない。もちろん僕らはそれを知る由もなかった。こう書くと必要以上におどろおどろしい印象を与えるが……。  同じスイミングスクールに通っているため多少仲が良いクラスメイトの男の子が、目の前の僕に見せつけるようにマッチ箱を手で振った。箱の中でマッチ棒が

ショートショート|金は宇宙の回りもの

「おたくはどちらに?」と僕は隣に座っている男性の乗客に尋ねた。 「アウストラレ卓状台地までです。そこにビルを構える火星支社に出張でして」と彼はにこやかに答え、こう続けた。「わざわざ足を運ばなくても仮想空間で会議やらなんやらすればそれで済むと私は思っているんですが、上の連中はどうも頭が固くてね」  先述の通り表情は柔和だ――おそらくビジネスの世界に身を置くことで体得したのだろう――が、心の底からの吐露のようだった。初対面の僕に愚痴るのもどうかと思うが、だいぶ鬱憤が溜まっているよ

ショートショート|細い糸、弱い光、軽い存在

『存在の耐えられない軽さ』という小説をご存じですか? 著者はチェコ人のミラン・クンデラ。なんて正鵠を得たタイトルだろう。  ……と偉そうに紹介しておいて、僕自身、実はまだこの本のページを繰っていません。タイトルや評判に気圧されて、手がつけられていない小説が皆様の本棚にも存在する……なんてことはありませんか?  時間は余計にあるのに金が少ない。さて、金は有り余っているのに時間が足りないのとどっちがマシだろう? ……虚しい問いだ。僕はどうしようもなく前者だから。  でも今のとこ

140字小説|あたかも深海のようなコーヒー

 彼女は僕が淹れた温かいコーヒーを静かに飲み、「ありがとう、この深みが好きなの」とささやいた。  だから僕は深海へ。潜水調査船もかくやマリアナ海溝の底の底まで泳ぎ、水を汲んだ。  深呼吸。深煎りのモカでドリップ。さあ、この湯気が昇るコーヒーは彼女の心まで温め得るだろうか?

ショートショート|大いなる期待のレシピ

 大きなお鍋を用意します。そこに水を注ぎ、〈目覚まし時計を気にせず眠っていい安心感〉を入れます。  火にかけてください。焦げつかないようヘラで軽く混ぜながら、〈平日に学校や職場で日曜日になったらこれをやろうと考えていた計画〉を放り込みます。うっすら埃をかぶっている本の読破だったり、ジャングルの様相を呈している庭の草刈りだったり、お好きなもので構いません。多くの場合、計画とは異なりロクに投入できませんが、間に合わせの材料で構いません。  それから〈せっかくの日曜日が終わってしま