ソフトテニス選手の努力の見返りとしてのパブリシティ権
弁護士でソフトテニス愛好家のふくもとです。
メジャーリーグ・シアトルマリナーズに所属するフリオ・ロドリゲス選手に関して、「史上最大18年635億円契約で合意間近か」という記事を読みました。
メジャーリーガーの年俸の高騰ぶりには、驚かされますね。
https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/news/202208270000217.html
ソフトテニスでもプロ選手が誕生していますが、競技でお金が稼げるようになれば、業界が盛り上がりますし、選手の生き方の幅も広がっていいですよね。
そんなソフトテニス業界の発展に思いを馳せつつ、今回は、「ソフトテニス選手の努力の見返りとしてのパブリシティ権」というテーマで、
ソフトテニスの選手が努力して獲得した評価や知名度に発生しうる権利であるパブリシティ権について、解説の記事を書きたいと思います。
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1 パブリシティ権とは
・パブリシティ権
パブリシティ権とは、「商品の販売等を促進する顧客吸引力のある氏名、肖像等につき、その顧客吸引力を排他的に利用する権利」をいいます(最高裁判決平成24年2月2日/民集66巻2号89頁)。
典型的には、有名なスポーツ選手や芸能人の氏名や肖像に認められる権利であり、特定の法律上の概念ではありませんが、最高裁判所の判決で実際に認められた権利です。
パブリシティ権という言葉にはなじみがあまりないかもしれませんが、肖像権の一種であると理解するとわかりやすいです。
パブリシティ権という権利を認めようとする背景には、スポーツ選手等が自ら獲得してきた名声、知名度によって得た経済的価値のある顧客吸引力を、スポーツ選手等が築いた財産として認めようという考えがあるといえます(三山裕三著『著作権法詳説 [第10版] 判例で読む14章』(勁草書房、2016年)87頁)。
どのようなものがパブリシティ権にあたるのか、
全日本大会を3連覇し、ソフトテニスマガジンやSNSなどでも多く取り上げられ、多くのファンが付いている”軟式太郎選手” という架空の選手の例を想定して説明したいと思います。
・顧客吸引力のある氏名、肖像等
まず、パブリシティ権の説明のうち、「商品の販売等を促進する顧客吸引力のある氏名、肖像等」の部分については、大会で結果を残すなどして知名度を獲得した選手の氏名や、写真(肖像)等がその例です。
ラケットの広告を打ち出す際に、「あの軟式太郎選手がオススメするラケット」という宣伝文句が記載された上で、軟式太郎選手がそのラケットを持って構えている写真が掲載されていると、おそらくそのラケットの販売は促進されると思います。
(もっとよい宣伝文句があるはずだ、という指摘はご容赦ください。笑)
この場合の、ラケットの販売が促進されるという効果が、「商品の販売等を促進する顧客吸引力」です。
ソフトテニスの大会で結果を残し、ソフトテニスマガジンなどの各種メディアや、SNSなどにも、名前や、写真が取り上げられ、ファンの間で評価や知名度の高い選手の氏名や肖像には、一定の顧客吸引力があると思われます。
また、全日本チャンピオンといったトップ選手に限らずとも、場合によっては、ソフトテニスYoutuberなどにも、顧客吸引力が発生することもあると思われます。
・顧客吸引力を排他的に利用する権利
次に、パブリシティ権の説明のうち、「その顧客吸引力を排他的に利用する権利」の部分については、顧客吸引力の有する個人の氏名や肖像の顧客吸引力は、原則として、その人自身のみが利用できるということを意味します。
テニスシューズの広告を打ち出す際に、軟式太郎選手の意思に反して、「あの軟式太郎選手が愛用するシューズ」などといった説明や、その説明とともに軟式太郎選手の写真が利用されていると、それは軟式太郎選手の顧客吸引力を第三者が利用していることになり、パブリシティ権の侵害になる可能性があるということです。
パブリシティ権の侵害があった場合には、不法行為法上違法と判断され、損害賠償請求ができます。
また、氏名・肖像等の使用の差止請求も認められる可能性があります(東京高等裁判所平成3年9月26日判決/判例時報1400号3頁など)。
2 パブリシティ権侵害の例
・正当な表現行為
もっとも、顧客吸引力を有する氏名、肖像等を、その人の承諾なく利用した場合に、いつでもパブリシティ権の侵害になるわけではありません。
最高裁判所の判決文によれば、以下のような指摘がされています。
これは、憲法が表現の自由を保障していることとの関係で、例えば、大会の結果の報道の際に、氏名や肖像が使用されることは、正当な表現行為として受忍すべきであるということを言っています。
・専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合
そして、最高裁判所の判決文は、パブリシティ権の侵害に当たる場合について、次の①~③の例を挙げつつ、具体的な説明をしています。
ここで例として挙げられている①~③については、
①肖像等自体を商品として使用する場合 → 写真集、フィギュアなど
②肖像等を商品に付して使用する場合 → カレンダー、ゲームなど
③肖像等を広告として使用する場合 → CM、看板など
を意味していると考えるとわかりやすいです。
また、最終的には、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」か否かによってパブリシティ権の侵害の有無が決まるということになります。
この点に関して、最高裁判所の判決文において、金築誠志裁判官が補足意見で次のようなことを述べていることが参考になります。
3 パブリシティ権の活用
・パブリシティ権の活用戦略
前述したように、顧客吸引力を有する選手の氏名や肖像の顧客吸引力には、パブリシティ権が認められています。
そして、パブリシティ権の侵害に当たる場合には、不法行為法上違法となります。
そうすると、ソフトテニスの選手等においても、氏名や肖像に顧客吸引力があると考える選手は、自らの氏名や肖像の有する顧客吸引力を、第三者が利用することを承諾するのと引き換えに、その第三者から経済的な対価を獲得するというパブリシティ権の活用戦略が考えられます。
最高裁判所の判決が述べるパブリシティ権の侵害の例としては、「2」で述べた①~③のような場合であり、これらについては、典型的にパブリシティ権を有する者の顧客吸引力を利用していると場合であるいえます。
パブリシティ権の活用戦略を考える上でも、参考になるでしょう。
・Jリーグの選手契約書の例
例えば、Jリーグの「日本サッカー協会選手契約書(プロA契約書)」においても、パブリシティ権の活用は意識されており、次のような条項が設けられています。
4 おわりに
この記事では、パブリシティ権について、その権利の内容や、どのような場合にパブリシティ権の侵害になるのかということを述べました。
冒頭に述べたように、パブリシティ権という権利を認めようとする背景には、選手が自ら獲得してきた名声、知名度によって得た経済的価値のある顧客吸引力を、選手が築いた財産として認めようという考えがあるといえます。
パブリシティ権は、ソフトテニスの選手にとっても、その努力の見返りとして享受すべき権利だと思います。
パブリシティ権について理解を深めることにより、ソフトテニスの選手が競技でお金を稼げるようになるための一つの手がかりになれば幸いです。
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