後語りー南條家

 あの事件ー眞中家の1件を巡る騒動は20数年の時を経て、ようやく世間では風化しきった様だ。視聴者稼ぎの話題に飛びつくマスコミや、疑いの目を向ける警察関係者。南條家の零落を知り融資の話や怪しげな儲け話を持ちかけるものまで様々居たが、それも途絶えて久しい。

今、この南條家の別邸を訪れる者は殆ど居ない。時たま訪れる者があったとして、興味本位で探検をしにくる子供らが精々だ。

あの事件以来、南條家が再び輝きを取り戻す事は無かった。それはあの場に居た東堂家や北園家も同様で、西門家に至っては述べるまでもない。当時は同情を集めた眞中家も、十年ばかり前までは多少名前を聞いたがそれきりだ。辿った結末は想像に難くない。

名を落とした南條家が、こうして別邸を構え、数人とはいえ使用人を抱えていられるのは全て南條お嬢様のお陰だ。あの事件の後、南條家の会社が崩れていく様を眺めていたお嬢様の顔は酷く辛そうであった。だが、恐らく。顔にはお出しにならないが、何処か心に余裕を取り戻す事が出来たのも、同時期であった様に思う。

南條家を支えるのではなく、身の回りの者を守ろうとしたお嬢様は改めて研究職を目指し、そして成績を残された。いくつか世間に認められた研究があり、今の暮らしがある。

私が征一郎を殺したのは、人の道から外れる事に違いは無い。だが同時に、後悔もない。

きっと、剣持という人間は、何処か壊れてしまっているのだろう。あの日から、いや、恐らくあの日のはるか昔から。

離散した南條家に務めた人間も。他家の不幸も。そんなものより私が守りたいのはお嬢様だ。お嬢様に拾われた時からそれは変わらない私の真実であり、正義なのだ。


さて、そろそろ食事の準備をしなくては。

昔と変わらず優しさに溢れたお嬢様ーいや、最近は"お嬢様"と呼ぶと少し機嫌を悪くする、あの方をお待たせしてはいけない。

南條家の執事として。