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より断片化していく世界『波打ちぎわの物を探しに』他【読書記録】 

小さい子どもと出かけようとすると、自然と都市の中で「行ける」場所を探すことになるのですが(物理的にベビーカーが行けることであったり、綺麗なトイレがあることであったり)、そうすると今までの都市の見方とは少し違った見方ができることに気づきます。綺麗なトイレ(授乳室、おむつ台があると最高)がこんなにもありがたい場所で、今までの自分の視界にはまったくなかった世界だなあと。

元々人が密集する場所に行くのは得意ではなかったので、行きたい場所はそれほど変わってはいないとも言えますが、ベビーカーで動くとなると、人が少なくて、道が広いとありがたいので、例えば、植物園(人気がないと言っているわけではない)のような場所に行くと快適そうだなあ、とか行く場所の決め方も変わってきたなあと感じます。おそらくタームごとに行ける場所は変わってくるはずなので、その時々の選択を楽しみつつ、生活できればなと思っています。
前置きが長くなりました。

『波打ちぎわの物を探しに』(三品輝起 著、2024年、晶文社)

私たちはどうして物を買い、
所有するのだろうか
東京西荻で20年間続く雑貨屋
「Fall」の店主によるエッセイ集

物の売買を巡る状況は刻々と変化している。いままさに波にさらわれんとする物の価値をひとつずつひろいあげる珠玉のエッセイ集。本、アート、工芸、情報、音楽、おしゃれ、サブカル、聖と俗……、ゆらぎ続ける世界のはざまで生きのびる方法をケレン味のない筆致で綴る。

先日訪れた古書店で、松ぼっくりが売られていて「松ぼっくりも売り物になるんだなあ」と素朴に思いました。前著などを読んでいないので理解が正確でないかもしれませんが、著者の言う「雑貨化」が「あらゆるものを交換可能にする」ということであるならば、あれがまさに雑貨化の先端?と言えるのでしょうか。

「インターネットの波打ちぎわ」で、メルカリの登場で、あらゆるものが売買可能になる、という慣習が人びとの中で生まれた、という話は確かにそうだなあ、と。
またこの話は、『ブックオフから考える』で触れられていたブックオフの話も思い出しました。
ブックオフは、哲学書と自己啓発本を同列に扱う世界観を生み出していったところから、次第にインターネットの潮流の影響によって「なんでもオフ」化していく。断片化されていったものは、すべて同列の世界観の中で扱われてしまうことが可能となる。

というところから「なんでもオフ」と「メルカリ」の違いはなんなのか、と考えてみると、何か新しい視点が出てきそうです。

ところで、バーチャルファッションのようなデジタルアイテムには「中古」という概念がおそらく生まれ得ない(にくい?)と考えられます(それらはすべてオリジナル(複製?)であるから)。
個人的な印象としては、リアルのファッションにおいて「古着屋」が与える影響は少なくないと思っているのですが(例えば、値段が抑えられるからこそ色々な人が買いやすくなる、思っても見ない場所でお気に入りのアイテムに出会える 等)、そうした営為は「中古」という概念がないバーチャルファッションでは同じく生まれにくいのではないでしょうか。
そうした営為が生まれることが必ずしも良いこととは限りませんが、生まれないならないで、どのように文化を紡いでいくのかは気になるところです。

『データ と デザイン 人とデータのつなぎかた』(櫻井 稔 著、2024年、BNN)

データから価値を生み出すには、データをヒューマナイズせよ。

グッドデザイン賞金賞を受賞した経済産業省の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピングなど、デザインイノベーションファームTakramで数々のデータ活用プロジェクトを主導する気鋭のデザインエンジニアが打ち立てる、人とデータをつなぐデザインアプローチ〈データデザイン〉の思想と手法。
データ利活用サービス/プロダクトづくりに携わるUX/UIデザイナー・エンジニア、自社のデータを用いた製品やサービスづくりに取り組む事業担当者、必読。データサービス構築における要諦と、全体設計プロセスが掴める一冊。

データビジュアライゼーション自体は、色々なニュースサイトでも試みられるようになり、次第に市民権を得てきたように感じますが、実際にそこからどのように「価値」を生み出していくか、はまだまだ模索段階のように感じます。
本書では、データの可視化のもたらす価値を「探索」と「提示」に分け、それらの融合によってアクションを生み出していくことが重要だと説きます。

結局、最終的にアクションを起こすのは人間なので「人間がどのように感じるか」という観点でデータのことを考えなくてはいけないという意味でデザインの視点が必要になるとのことですが、「予期せぬアウトプットが出てくる」は昨今の生成AI周りの影響からか、多くの人が身近なこととして感じられるようになってきたのではないかと思います。
本書自体は「デザインする」側の視点によって綴られたものですが、今後、そうした機会がどんどん増えるであろうことを考えると、やはり「ツールを使う」側の人間も「使いこなす(≒リテラシーをつける)」という感覚を醸成していかないといけないなあと感じました。

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