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本を取り巻く「構造」の話『2028年 街から書店が消える日』【読書記録】

『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』(小島 俊一 著、2024年、プレジデント社)

~本屋を憂(うれ)うあなたへ~ 

この本を手に取ってくださって、ありがとうございます。あなたは、きっと本が大好きな方か出版界の関係者なのでしょうね。そんなあなたは、日本から街の本屋が消える日が想像できますか?
なぜ今、街から本屋が消えていっているのだと思われますか?

この問いに対して著者の私が「本屋を殺す犯人を突き止める」訳ではありません。「出版社に原因がある」「本屋に責任がある」「取次が悪い」「読者の活字離れ」、それぞれ少しずつ当たっていても一面的です。本屋が消えつつある理由は、そんなに単純なものではないのでしょう。

この答えを出すために日本初の試みとして出版界のプロフェッショナル達が実名(一部匿名)で、それぞれの立場で本屋について熱く本音を語ってくれました。読者のあなたと一緒に出版界の現状を俯瞰(ふかん)しながら、問いの答えに近づいてゆこうと思っています。
この本を読み終える頃には、本屋が消え続ける理由も分かり、一方では本屋の明るい未来への希望も感じ取ることができるでしょう。
ようこそ、出版流通という名のラビリンス(迷宮)へ!

出版不況と言われて久しいが、実際に紙の出版物の売り上げは目減りしている。1996年には2兆6564億円をピークに、2022年は1兆1292億円まで下がっている。本書の話題の中心となり、本流通の最前線とも言える書店の数もピーク時の2万5000店から、2022年には1万1000店に減っている。そして、日本の26%の自治体には書店がないらしい(11頁)。

「本」という存在自体が消える可能性は少ないかもしれない。また、今すぐ書店が消えることもないと思われるが、それでも着実に減り続けている。
本書のタイトルが謳うように2028年には街なかで書店を見つけることは非常に難しくなるかもしれない(筆者も月に10冊程度は購入するが、ほとんどはAmazon経由になってしまっている……(昔は足繫く書店に通っていたが))

一方で、最近では「独立系書店」と呼ばれるような、熱量のある店主が営む個人書店が増加しているという。

このように本を取り巻く話題は必ずしも悲しいものばかりではない。しかし、それでも全体的に見れば良くない状況ではあるという認識なのは間違いない。
本書はそうした状況に対して「独立系書店」の紹介などではなく、そもそも本を取り巻く「業界構造が持つ課題」について30人の識者のメッセージと共に言及していく。

経営のことを考えると、まず単純にコストの削減、販売物の売り上げをどう上げるか等を考えるが、その時に立ちはだかるのが「再販売価格維持制度」だ。これは書店は出版社が設定した定価で販売しなければならないというものだ。この制度によって、書店は販売価格を自由に決めることができない。また、本書によれば書店の商品回転率(売上高 / 在庫金額)は3回転(年間)だそうだ。一方でコンビニは28.8回転(年間)であり、大きく差がある。
ということは、商品の値段で差異化ができない書店は本来は回転率を上げて数を捌く必要があるが、コンビニと比較するとその回転率は低い状態にあり、非常に良くない状況であるということだ。こうした状況を踏まえて、本書では「書店が本だけを売って利益を出す方法を見つけることは八方塞がりの状態だね」(23頁)と評している。

本書では、対話方式のパートと識者へのインタビューパートに分け、本を取り巻く業界構造の問題について触れていく。話題の内容は書店の経営を維持していくために業界構造の変革によって後押しできる部分として、出版社と取次、書店の関係を解き明かしながら話を進めていく。

例えば、書店は出版社から仕入れるときの卸値と店頭で売る際の定価との差額を利益(粗利)とするが、現状は23~24%程度に収まるらしく、その低さに問題意識を持つ人たちがこの粗利を引き上げようと活動を起こしているという。書店はこのようになかなか利益を出すのが難しい構造となっているが、そこに加えて、「付録付き雑誌」のような特殊装丁の本では書店員がボランティアで作業を行う場面もあるという。

そうした状況を傍観しているだけではなく、紀伊国屋書店とTSUTAYA、日本出版販売が立ち上げた「株式会社ブックセラーズ&カンパニー」のように、従来の取次を介した構造を脱却して、出版社と書店による直取引を促進することで業界を改革しようとする動きも起きてきている。

本を取り巻く業界構造は非常に多くの点数が流通した華々しい時代をベースに構築されているという。そのため、より多く・早く、商売を回転させるために構造が組み立てられてきた(「委託販売制度」や「返本制度」はそうした状況から生まれてきた制度ではないかと思う)。
しかし、「物流の2024年問題」と言われるように、労働環境の改善により輸送能力はかつてより抑えられるようになり、現在では本を届けるために必須のものである物流の前提も変わってきている。さまざまな観点で時代は変わりつつあるので、本を取り巻く世界もそれに合わせて「構造」を変革させていく必要があるのだろう。

本書の第三部では出版界の課題にさらに踏み込んでいく。章のタイトルは「出版界の三大課題は正味・物流・教育」だ。前二つはここまでで触れてきたが、最後の「教育」については、個人的経験も相まってうなづきが止まらなかった。

出版社の中には歴史があるものも多く、経営も安定していて、教育も充実しているのだろう……と思われるかもしれないが、そんなことはないらしい。
ビジネスコミュニケーションや商習慣について学ぶ場所はないため、本を取り巻く構造的な問題に気付きにくい。
確かに、自分も出版社に編集者として勤めていた時に、ほとんど書店のような場に行く場面はなかった。コンテンツをつくるのに必死でそこまで目を向けられていなかったのだ。ある時、書店に行って実際に本を売っている人と話したことがある。その時に得られた情報はまったく新鮮なものだった。もしかしたら、専門誌であっても、そのジャンルの棚ではなく別のジャンルの棚に置かれることでシナジーを起こす可能性もあるかもしれない。書店とは、そのような創意工夫ができる場所なのだと気づかされた経験がある。

「出版界の業績は戦後から50年間伸び続けて、この30年間落ち続けているけれど、出版界にイノベーションが起きず、茹でガエル状態なのは、体系的な研修が不在で新たな時代に対応できるメンバーが育っていないからと言うのは言い過ぎかな?」

159頁

確かに教育が不在であったのは個人的な実感としても同意である。この話の流れで研修に熱心なのがブックオフであるというのも興味深い。

書店という場所の定性的な価値について実際に営む人の声を聴いたこちらの書籍とはかなり趣が違って、書店(本)が持つ多面性みたいなのが見えてよかったです(月並み)。

「その人オリジナルの仕事をつくり上げている人たちですから、話には自然と思想や哲学のようなものが含まれます。だからわたしはこの本で、彼らの声を一本の糸のように縒り合わせるだけでよかった」

荻窪に新刊書店「Title」を開いて8年。ふと自分の仕事がわからなくなり、全国にいる仲間のもとを訪ねると、消費されず、健やかに生きるヒントが見えてきた――。
読み終えるころにはきっと元気がでる、少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ねる旅。


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