建築の先に見える感情『アルド・ロッシ 記憶の幾何学』『メランコリーと建築 — アルド・ロッシ──アルド・ロッシ』【読書記録】
最近は4時半頃に一度叩き起こされて、薄明るくなった窓の外を見ながら、再び少ない時間二度寝する睡眠不足の日々を送っています。
最近、建築家アルド・ロッシに関する著作を読んだので、備忘録。
『メランコリーと建築 — アルド・ロッシ』(ディオゴ・セイシャス・ロペス 著、服部さおり、佐伯達也 翻訳、片桐悠自 監修、2023年、フリックスタジオ)
『アルド・ロッシ 記憶の幾何学』(片桐悠自 著、2024年、鹿島出版会)
1990年に建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞し、世界的にも知られるイタリアの建築家アルド・ロッシ。
幾何学的な形状や四つ割り窓を繰り返し利用した建築は、言い知れぬ魅力を持つ。『都市の建築』のような建築理論書を執筆した人物でもあり、実践・理論の双方から建築界に大きな影響力を持つ。
しかしながら、彼が生み出す建築は、ジョルジョ・デ・キリコの絵画のよう、と評されることもあり、単純に「良い建築」とは言い難い不思議な魅力(それはどこか不穏さも孕むような)を備えていることが多い。
そうした建築に惹かれてか、ルイジ・ギッリのような写真家も盛んにロッシの建築を写真におさめようとしてきた。
かくいう自分も学生時代からアルド・ロッシが好きで、ドローイング集などを集めていた。特に四つ割り窓が並ぶ外観は強く記憶に残り、何度も何度も頭の中をリフレインしている。と言っても、ロッシの建築を実際に体験したのはホテル イル・パラッツォや門司港ホテルなど国内のものに限られ、しかもどちらかというと後期の作品なので、お世辞にも豊饒なロッシの建築体験をしているとは言えないかもしれない。
それでも、門司港ホテルの四つ割り窓から見た海や門司港ホテルの街路は忘れることのない記憶と化している。
構成としては非常にシンプル(かのよう)に見えるのに、何かものすごく感情を動かしてくれる感覚(そして、それは「強く」動かされるというものでもない)。そうした不思議な感覚を与えてくれるロッシの建築について、改めて解き明かそうとするのがこの2冊の本である。
後者の本では、ロッシの「幾何学」を使った設計アプローチに注目しつつ、同時代の動きと絡ませながら、理論と実践の接続を試みる。その時に「記憶」というキーワードが現れるのもロッシならではの特徴だろう。先に述べたようにロッシは建築を「都市」と結びつけて考えていた。建築はそれ自体がそこで完結することはなく、過去の都市、つまり記憶と作用しながら存在する。
建築は何もポジティブな感情を生み出すだけではなく、ある種の否定的な感情も生み出す。
この「否定的な感情」とは何だろうか?と考えるときに、それを「メランコリー」という観点で分析するのが前者の本だ。歴史上で、メランコリーはギリシャ時代から言及されていたものの、その用法はあいまいで、歴史ごとに捉えられ方が変化していったが、それは喪失感など、どちらかというと後ろ向きな感覚と繋がった。しかし、メランコリーは人間の思索を深めるひとつの要素として機能することも語られていた。
建築もそうした感情を生みだすことができるのは人間のスケールや時間スパンをある点では超越した生成物であることも起因するのであろう。例えば、廃墟は人間のスケールを超えているし、長い時間を感じさせるから、メランコリーのような感情を湧きたたせる。
人間は自らの礎をモニュメントなどの造形物に込め、未来に託そうとする。しかし、それは能動的なものに限らず、都市の中には意図せず、そうした記憶が内在されるようになっている。
そのように建築は、形態によって、ある認識を与える効果を持つ。
ここでロッシが形態をこねくり回したり、有機的な形状を多用したかというとそうでもない。先に述べたように、彼は非常に限定的な幾何学を多用して、そうした感覚を湧きたたせる建築を生み出したのだ。ここにロッシの建築を理解しようとする時の難しさがある。
ここまで自分も備忘録を書いてきたが、この2冊のことをしっかり読めているかというとまったくそうではないので、何度も読み返すことになるだろう。
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ところで、近年SNS上でアップされる建築的イメージを集めた書籍『DREAMSCAPES & ARTIFICIAL ARCHITECTURE』やリミナルスペース、The Poolrooms、バックルームスなどデジタル空間上に偏在する空間イメージには球や円をはじめとしたプリミティブな幾何学的なイメージが多く見られる。
これらの空間には、外部は存在しておらず内部的なイメージしか存在していない。つまり、「都市」のようなものは存在しない。にもかかわらず、都市との関係を重視したロッシのように幾何学モチーフが多く登場するのは、考えてみると面白い状況に思える。ロッシがドローイングを多く描いていたことからも、現代で色々思考するためには、こうしたデジタル空間上のイメージを通して得られることもあるのではないかと考えたりしました。
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