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『美大の先生と巡る世界と地球の建築』『センスの哲学』【読書記録】


『美大の先生と巡る世界と地球の建築 デザインから読みなおす歴史と環境』(岸本章 著、2024年、彰国社)

美大の先生が、世界の歴史的建築、集落や民家を「デザイン」という視点から読みなおす。
世界遺産のような千年、紀元前の建築も、現代と同じく、だれかが試行錯誤したデザイン行為の結果である。歴史は決して高尚なものではなく、デザインは合理的な理由だけで決まってきたわけではない。こうした視点で見ると世界の建築が身近なものに見えてくる。

1,000年前以上の建物というと、当たり前のようにそこに存在していて、誰かが「デザイン」したとは考えには至りにくい。普段から学生と接する著者は、学生の様子からそのようなことを感じたという。本書では、著者が実際に訪れ体験した昔の建築物を、試行錯誤によって生み出された「デザイン」の産物と捉え、解説していく。

例えば、よく知られる鹿苑寺金閣は、金箔が貼られた姿然り、寝殿造、書院造、禅宗様の仏堂と異なる様式が積み重なった奇妙な建物であることに触れ、その造営に携わった足利義満に言及する。彼は、日本の社寺建築でも特に独創的なデザインと呼ばれる「比翼入母屋造」を配する吉備津神社にもかかわっている。このようにいくつかの特異な建築にかかわる義満に関して、著者は「ただ単に「すごい建築」がつくりたかっただけ」という可能性もあるのではないかと分析する。

目次を見てみると「ランドスケープデザイン」や「インテリアデザイン」と言った聞き慣れたキーワードが並び、初学者でもすっと理解できるようななるべく平易な言葉で解説されている。

『センスの哲学』(千葉雅也 著、2024年、文藝春秋)

服選びや食事の店選び、インテリアのレイアウトや仕事の筋まで、さまざまなジャンルについて言われる「センスがいい」「悪い」という言葉。あるいは、「あの人はアートがわかる」「音楽がわかる」という芸術的センスを捉えた発言。
何か自分の体質について言われているようで、どうにもできない部分に関わっているようで、気になって仕方がない。このいわく言い難い、因数分解の難しい「センス」とは何か? 果たしてセンスの良さは変えられるのか?

音楽、絵画、小説、映画……芸術的諸ジャンルを横断しながら考える「センスの哲学」にして、芸術入門の書。
フォーマリスト的に形を捉え、そのリズムを楽しむために。
哲学・思想と小説・美術の両輪で活躍する著者による哲学三部作(『勉強の哲学』『現代思想入門』)の最終作、満を持していよいよ誕生! (出版社より)

「センス」は良く使われる言葉だが、きちんと意味を考えてみると説明するのが難しい。なんとなく生まれ持った性質について言っているようにも聞こえて、センスに自信がないものとしては座りが悪い言葉である。「センスが良いね」と言われると、シチュエーションによっては嫌味にも聞こえてしまったり、どこかふわっとした印象を持つ言葉。

本書は、そんな「センス」について深堀りしていく。
前半では、センスとは、ものごとの意味や目的を捉える前の、それそのものを把握する「リズム」だとし、そのリズムがなぜセンスに繋がっていくかを解説する。
リズムは抽象的なレベルで「でこぼこ」でできている。人間は生物学的には安定を求めるが、「遊び」のような営為はあえて不安定な状態をつくり、「反復と差異」を生み出す。そうした反復からのズレ=差異が面白さを生み出す。こうした感覚がリズムというキーワードを軸に解説されていく。

リズムには、反復からのズレ=差異があり、だから面白い。とりあえずそうだとして、しかしそれは、反復において予測誤差が起きることだとだけ捉えるなら、深い、不安でしかないはずです。それが面白くなるということを、どう説明したらいいか?これは僕の仮説ですが、リズムが面白いという受け止めには、条件がある。それは、予測誤差に対する耐性がある程度できていることだと思います。では、その耐性とは何か。予測が外れたときに、直接的にそれに振り回されないことです。……
ともかく、リズムという次元が直接の経験から離陸することで、人間はものごとに耐えられるようになる。遊びとはリズム形成の補助なのだ、と見ることができそうです。

147-149頁

本書の中で登場する「大まかな感動」と「構造的感動」も非常に興味深い。「構造的感動」とは、喜怒哀楽によって構成される「大まかな感動」から一歩進み、その感動がなぜ起こったのか構造やディテール、「意味のリズム」に着目できる営為だという。

センスとは、喜怒哀楽を中心とする大まかな感動を半分に抑え、いろいろな部分の面白さに注目する構造的感動ができることである。

127頁

詰まるところ、センスを鍛えるには「自分の言葉で感覚を説明できる」ようになるのが重要だと言えそうである。

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