ワールド探索日記 2022/10/2
今年の国際芸術祭「あいち2022」の一宮会場で2022年3月に閉館した「旧一宮市スケート場」が展示会場になっていると聞いて、それを見に行くためだけに愛知に遠征してきました。結果として色々な建物巡りができてよかったです。(今回は「リアルワールド」です)
旧一宮市スケート場
スケート場自体、訪れるのが十数年ぶりくらいですが、スケート場の氷の下側をはじめて見ました。氷の下には無数のパイプが敷き詰められていて、これで常に冷やし続けることで氷を維持しているようです。理屈は分かりますが、パイプだけが剥き出しになった姿を見ると、異様さを感じます。
「スケート場」というレクリエーションのための場所なのに、私たちの目に見えないところには、このような(ある種の)過剰さが隠されていることを想像すると、世界の姿というものは全然見えてないことが分かりますね。
ところで、体育館の天井って良いですよね。
今回のスケート場もそれに近い感情を覚えました。こうした施設は柱が落ちない広い面積が求められることから、鉄骨のトラスで屋根が組まれることが多いように思えます。また、圧迫感を与えないようにということでしょうか。天井が貼られることなく、それらは剥き出しのままなことが多いです。
「体育館」や「スケート場」という施設自体、大人になると入ること自体が少なくなりましたが、久しぶりに入ると、やはり独特の高揚感がありました。
墨会館 by 丹下健三
「愛知県内に唯一ある丹下健三設計の建物」ということは以前から聞いていましたが、一宮市の駅から遠く離れた街中にあるという立地上、なかなか足を運ぶ機会がなく、今まで行けていなかったのですが、今回のあいち2022の展示があるということで、行ってみました。
1957年竣工の、この建物は藤森照信が著した丹下の総覧的な書籍『丹下健三』では「第10章 壁との格闘」という章で触れられるように、重厚な壁が巡る要塞のような建物になっています。この塀が内部空間を規定する壁としても作用し、独特の空間体験を生み出していました(「塀」だと思っていたものが、そのまま「壁」であった、というのは奇妙な感覚でした)。
丹下の代表的な作品群に比べると、重厚的なこの建築(と同時期の同じ傾向のプロジェクト)を藤森は下記のように評します。
続けて
過渡期の丹下の作品として評された、この作品は独特のエネルギーに溢れていたことは間違いないですが、そうした歴史的評価はひとまず置いておいて、訪れた時に自習室を数人の子どもたちが学習ルームとして使っているのを見て「今でも現役で使われているのだなあ」と感心しました。
内部のタイルや装飾も綺麗に残されており、建物へのリスペクトが感じられて、非常に良い体験となりました。
常滑陶芸研究所 by 堀口研究室
せっかく愛知に来たということで、常滑でも愛知2022の展示をやっていると聞き、そちらにも足を伸ばしてみました。焼き物散歩道やINAXライブミュージアムをそこそこに楽しみ「さあ、帰るか」と思っていた折に、ふと、堀口捨己がやった建築があったなと思い出しました。
調べてみると、数分で着く距離。しかし、閉館時間は17時で、時刻は16時半。行くか一瞬悩みましたが、意を決して行ってみたら、非常に素晴らしい建物でした。
険しい上り坂を上がって、林の奥に「常滑陶芸研究所」という看板を見つけたときは興奮しました。4.5mの跳ね出し庇の上の看板がとてもかっこよかったです…
写真では見たことがありましたが、詳細な仕様は見たことなかったので、近寄って外観の色合いがタイルで構成されていることを知って驚きました。
たまたま館の方に案内してもらえて、このタイルは釉薬で表面だけを塗装しているわけではなく、タイル全体に色を染み込ませているらしく、並々ならぬ力の入りようを感じました。
この陶芸研究所という建物は、トイレなどの衛生機器で有名なINAX(現LIXIL)の元となった伊奈製陶株式会社の伊奈長三郎の寄附により設立されたらしく、建物丸ごと衛生機器のような、竣工してから50年以上経ったとは思えない真新しさのようなものを感じました。
小さいタイルのために柱を面取りしたり、目地をビシッと合わせたり、グラデーションをつくったり…見れば見るほど掘れる建物でした…
館の人に、堀口さんのことや建物について熱く語っていただき、屋上も見せてもらい、こちらも非常に良い空間体験となりました。常滑に行く際はぜひおすすめしたい建物です。
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