別の角度からの歴史『モダン・ムーブメントの建築家たち -1920-1970-』【読書記録】
『モダン・ムーブメントの建築家たち -1920-1970-』(ケネス・フランプトン 著,牧尾晴喜 訳、2023年、青土社)
日本でも『現代建築史』(中村敏男 訳、2003年、青土社)で知られる建築史家ケネス・フランプトンがスイスのメンドリジオ建築アカデミーで行った講義をもとにして編まれた書籍。原著は2015年にイタリア語版として出版されているようだ。
フランプトンと言えば「批判的地域主義(Critical Regionalism)」が印象深い。それまである種バナキュラー的に発展してきた建築に対し、フィリップ・ジョンソンが声高に「インターナショナル・スタイル」を叫び、モダニズム建築が世界を席巻していった……しかし、そうした流れはむしろ建築の多様性を阻害するひとつの要因となってしまった。という流れに対し、かつてのバナキュラーな性質を捉え直し、そうした普遍化に対する抵抗として位置づけ、数々の実例を挙げていく。
一般的にモダニズム建築は、ヘンリー・ラッセル・ヒッチコックとフィリップ・ジョンソンが企画したMOMAでの『インターナショナル・スタイル(The International Style)』(1932年)を端緒として、ル・コルビュジェ、ミース・ファン・デル・ローエ、フランク・ロイド・ライトのような巨匠を中心に語られることが多い。
しかしながら、いくら時代の後押しがあったとしても、すべての建築家が同じような思想で同じような建築をつくっていたとは考えにくい。
本書は、かつてフランプトンが批判的地域主義の議論を強化するためにいくつかの建築家を挙げていたように、モダニズム建築を支えた別の側面──「周縁」──で活動した建築家18人とその代表作を挙げ、紹介する。
挙げられている名前を見ると「その建築家の名前や作品は見たこと・聞いたことあるが、実際どのような背景を持っていたのか知らない」というものが多い。それは近年では、コルビュジェ以外のモダニズム建築の動きを評価する流れも出てきているからだろう。
例えば、コルビュジェとも協働の危険があるアイリーン・グレイは、まさに「E1027」でのエピソードを題材にした映画が公開されている。
ピエール・シャロ―やエーリヒ・メンデルゾーンは、建築学科の近代建築の授業では必ずと言っていいほど挙がる名前だが、それは「ガラスの家」や「アインシュタイン塔」という特定の作品についてだけであり、彼らがどういう経緯でそれらの建物を設計することになり、その後どういう人生を歩んだのかまで紹介されることはなかった。
ロンドン動物園のペンギンプールも同じく、構造的な挑戦の例として教科書で見かける作品であるが、その設計者であるバーソルド・リュベトキンが結成したテクトンは、それこそロンドン動物園を始めとした多くの動物園建築を実現させた組織だということは知らなかった。
(余談だが、「動物園建築」というのもそれはそれで色々な蓄積のある領域だという気がする。水族館建築についてはちらほら見かけるが、動物園建築についてまとめられた書籍はあまり見たことがない。下記のような事例はいろいろありそうだ。)
はたまた、シーグルド・レヴェレンツやヴィルヘルム・ラウリッツェン、アルネ・ヤコブセンのような北欧の建築家たちは、今まさに『建築と触覚』『EXPERIENCE
生命科学が変える建築のデザイン』で触れられている例も見る。これらの建築家に注目が集まるのは、視覚偏重ではない(モダニズム)建築の価値観を伝える例としては、もってこいだからだろう。
その他にも、かつては「ダッチ・モダニズム」として建築雑誌で紹介されていたヨハネス・ダイカ―についても改めて詳細を知ることができたり、これまで通史的に語られてきたモダニズム建築の書籍たちと合わせて読みたい本でした。
サポートして頂いたものは書籍購入などにあて,学びをアウトプットしていきたいと思います!