よくかむ
はじめに
科学的な研究で、食べる際に「よくかむ（噛む）」ことで免疫力が向上することが明らかになっています。よく噛むことは、その他にも広く次のような効用（②～⑧）をもたらします。
①唾液成分の免疫物質を分泌し病気を予防する
②唾液・胃液の分泌を促し、消化吸収を助ける
③食物の味を感じる
④口腔内の汚れを洗い流す
⑤口腔内の細菌の繁殖を抑え、むし歯や歯周病を予防する
⑥満腹中枢を刺激し、過食と肥満を予防する
⑦脳の血液量を増加させ認知症や老化を予防する
⑧五感からの刺激と連動し、食欲を増進して心理的な満足感をもたらす
このように食物をよく噛み、おいしく食べることが、全身の健康の維持・増進につながることが知られています。
今回は、よく噛むことがこれらの効用をもたらすメカニズムについて解説し、その効果を最大限に高めるため、今日から自身で取り組めるセラピー（レシピ）について記してみました。
効用を生むメカニズム
唾液の成分とその働き
よく味わい噛みしめると唾液がよく分泌されます。唾液は３つの大唾液腺と小唾液腺から分泌されます。１日の平均分泌量は平均１〜1.5リットルとされており、pH6.3〜6.8といわれます。唾液には次のような成分が含まれています。
唾液にはアミラーゼと呼ばれるデンプンを分解する消化酵素が含まれていることは良く知られています（カリクレイン、舌リパーゼなど消化酵素の働きについてはこちら参照下さい）。
最初の消化器官である口の中で食物がよく咀嚼され唾液とよく混合されることで、消化が促進されると共に胃や腸にかかる負担が軽減します。
ウイルスや細菌を撃退する
食品中の細菌や空気中のウイルスなどの外敵に対して、殺菌や防御をする機能を持つ成分が唾液には含まれています。また唾液は、口の中の外敵を物理的に流して洗浄する効果があります。
唾液は感染症の予防に重要な役割を果たす免疫物質である免疫グロブリン（IgA）を含んでおり、IgAが口の中に入ってきた外敵に反応して取り囲むことで粘膜への付着を防ぎ、身体の中に入り込むのを阻止するように働きます。
新型コロナワクチン接種による抗体増強に頼らなくても、自然免疫やよく噛む食事によりIgAを増やし感染症に強い身体を保つことができます。
免疫グロブリンと非免疫グロブリン成分
IgAに代表される免疫グロブリン以外に、リゾチーム、オキシターゼなど、唾液には菌や酸化ストレスから身体を防御する非免疫グロブリン成分も多く含まれています。
過食と肥満を予防する
食べ物を口に入れてかみ砕く時、脳内には神経ヒスタミンという物質が分泌されます。神経ヒスタミンは満腹中枢を刺激して、脳に「お腹がいっぱいだ」という信号を送る作用があります。よく噛んで神経ヒスタミンの分泌を促すことは、食べ過ぎ防止や肥満の予防に繋がります。
ドライマウスを予防する
唾液が減る病気「ドライマウス」の国内患者数は3000万人とも見られています。唾液の減少はIgAの減少となり、呼吸器を中心とする病気や感染症にかかりやすくなることが懸念されます。
ドライマウスは自分自身では気付かない傾向にあります。日頃から水分摂取を十分におこなったり、よく噛む食事を取り入れるなどして、唾液をだす生活習慣を身に着けることが大切となります。
唾液分泌を助けるセラピー（レシピ）
「よく噛む」ことは、全身の健康にも良い影響を与える行動といえます。自らの意思で実践的に免疫機能を高めることができる良いセラピー（レシピ）に繋げられると思われます。今日からすぐ行動に移せる「よくかむセラピー（レシピ）」をご案内します。
噛ミング 30（カミングサンマル）
”ひとくち30 回以上噛みましょう”を合言葉に「噛ミング 30（カミングサンマル）」という食育の運動を厚労省が推進してきています。
唾液腺は、耳・あご・舌の下などにありますので、食物を良く噛んだり、笑ったりすると、顔の筋肉などが唾液腺を適度に刺激し、やがて、口の中が潤いで満たされるようになります。
唾液を出すマッサージ
唾液の分泌を促すマッサージを食前に行うことが効果的と思われます。
ウエリスオリーブの記事より転載
噛み応えのある食品選択
長時間噛むことができる食品（ガム）を用いて行った研究（24～52歳の健常な男女20名によるオープンランダム化クロスオーバー試験）によると、ガムを噛むことによって、唾液中の免疫物質であるIgAの分泌が約2.5倍増加することが確認されています。ただし商品化されているガムは、入っている添加物などに注意する必要があります。
個人的な好き嫌いや趣向の違いはありますが、干し芋やスルメなど、天然ミネラル豊富な噛み応えのある食材を味わう選択を推奨いたします。
野菜の皮などもよく噛んで食べると栄養価が高いのですが、一般の市販品は残留農薬が心配となります。（食用の）重曹で洗い流せるので、費用とリスク軽減を両立する工夫として採用すると良いと考えます。
人生は宝石箱をいっぱいに満たす時間で、平穏な日常は手を伸ばせばすぐに届く近くに、自分のすぐ隣にあると思っていた……