吹奏楽編成のこと - 12 pieces Windsご提案

■編成の違い
 吹奏楽の編成がオケや室内楽のように、編成が定型化されない理由は、軍楽隊の存在に由来しており、簡単に言えば「演奏するチーム(部隊)の構成員に応じて柔軟な形をとる」習慣である、と説明できそうです。
 この柔軟性を長所とみるか短所とみるかはモノの見方次第と思います。以下は私の見解ですが、編成が固定化されるオーケストラや室内楽ではオーケストレーションの再現性と音楽の洗練性が優位に、吹奏楽編成はサウンディングの差異が生じ個性を活かせる柔軟性で優位になります。吹奏楽については、どんな編成になっても演奏する事を許される、なんて言い方も出来そうです。

 よく、「吹奏楽って福田さんが思い描いたオーケストレーションから実際の編成によって差異が生じてしまうことで、サウンディングが違ったものになること、どう思っているんですすか?」と訊かれます。私は、吹奏楽はそのズレも音楽の含みと感じていて、同じ楽譜で響き方がチームによって物理的に変わって来ることを面白く感じているので、違和感が大きくないのです(…すっかり吹奏楽に慣れているからなのかもしれませんが。)
 そのため、オーケストレーションする時に、絶対解を求めていなかったりします。こう描いておいたら、ある程度の幅で違う表現が期待できる。一方で管弦楽をオーケストレーションする時には、比較的絶対解を求められるような気がします(実際はその限りでないのかもしれないけど)。

 同じ作品でも、編成に応じて楽譜は都度バランスを取り直した方が演奏する側にとっても聴き手にとっても「優しい」のは確かです。演奏するチームの数だけリヴィジョンがあって良い。吹奏楽についてはその許容範囲があって良いのではないかと思うのです。

■フレキシブル譜
 フレキシブル譜の開発は、特にスクールバンドの少子化を受けながら、いかなる生徒にもアンサンブルを実践・体験してもらう機会を得るために、譜面のカスタマイズを許すコンセプトの楽譜として、多くの皆様に重宝されています。
 私もフレキシブル譜の提供は積極的に行っております。チームの実情というのもかなり多様化しているため、なるべくたくさんのケースをカバー出来るように工夫を凝らしております。
 (お陰様で沢山拙作を上演して頂いております。 お役に立てているならばとても嬉しいです!)

 しかし、実際にフレキシブル譜に取り組まれた方からの声を少しまとめると…

「どんな編成にすれば福田さんの意図する音なのか、判断が難しい」
「基本的なオーケストレーションを解っていないと、自分でカスタマイズするのって難しい」

…パート選択、難易度の擦り合わせ。そのままのパート譜ではバランスが取り切れない場合に、どのフレーズを誰が演奏するのか。誰がそのパッセージを分担するのか。Part2とPart3を部分的に取り替える。奏者の技量に合わせてオクターブを変更する…
 選択肢や工夫のしどころが多くなるほど迷ってしまうのです。
 これを解決する方法として真っ当なのは、皮肉にも「チームに合わせてスコアを書き直す」のが適切と考えるようになりました。実際、私が関わるチームがフレキシブル譜で上演する際にはチームの実情に合わせて再度オーケストレーションし直すケースが多くあります。
 かつて、都内の小編成(6名-17名)高校チームに携わった際、結局全てのレパートリーを彼らの都度の編成に合わせて楽譜を作成していました。それにより各自の立ち位置や責任が明解になり、各自の存在価値の向上と成長につながりました。

■小編成合奏と「12-pieces Winds」
 合奏でフレキシブル譜を利用したり、中編成の作品にまた手を加えて臨む、という10名台のチームの声も訊いてみると…

「元がアンサンブルの譜面だと、3-8重奏としてのアンサンブル感が強く、合奏感を得ようとすると少しアプローチが難しい」
「市販・レンタルの小・中編成譜を頑張って工夫しても、減らす事に変わりないから、合奏感が乏しく感じる」

…という、合奏として「ちょうど良い感」がなかなか得られないという不満。

 最近、一般楽団や大学吹奏楽部において10名台の小編成チームも少なくありません。また、高校生もとても工夫・努力して高品位の演奏が出来るチームが増えてきました。
 10名小編成に適したコンサートレパートリーというものはどのような選択肢があるのか。これもかなり悩まされるそうです。

 ここまでの話は、既存の楽譜の否定ではありません。これまで以上に吹奏楽も多様化しているだけに、「シーンに合わせたコンテンツの充実」を図る必要があるのだと思います。大編成、中編成、小編成、スクールバンド、プロ、一般チーム、フレキシブル、アンサンブル、全てに等しい権利を得て頂きたいし、寄与したいと思うのです。

 先日掲載した12-pieces Windsは、編成のひとつの仕様、そしてコンセプトを改めてご提案するものです。

https://www.asks.shop/shopbrand/ct531/
ASKS Windsより、リリースしたこちらの新シリーズ。

 小編成の吹奏楽作品は、作家諸兄の創意工夫に満ち溢れた既にたくさんのラインナップがありますが、いまいちど、この編成をスタンダードと見做した場合にどんなメリットがあるのか、考察したいのです。
 実際、故・F.フェネル先生が提唱された「ウインド・アンサンブル」で実現された吹奏楽の洗練性を、我々のもっと身近な形で具体化できる方法でもあると考えております。
 アンサンブルの代替ではない
 大・中編成という充実した編成の代替ではない
 それぞれの楽器・楽員が正しくフォーカスされる内容を持つ
 楽器の個性が埋没しない
 繊細なタッチ
 室内楽的なアンサンブルの展開
 洗練されたテュッティ

 合奏のダイナミックな感覚を表現する事のできる、格好の形なのではないかと思っています。

■補足 12-pieces Windsの編成について

 コンセプトは「管楽器10名で充足するデザイン」。
◇木管楽器 (以下3パターンが想定できます)
1. Fl. Cl.x2 Asx. Tsx.
2. Fl. Cl. Bcl.(orBsx) Asx. Tsx.
3. Fl. Ob. Bsn. Cl. ASx
◇金管楽器
Trp. Hr. Trb. Euph. Tuba
◇打楽器
2名
(1名でも可能、バランスを考慮し最大4名)

 実際の演奏チームを考慮すると、たとえばTrpは2名だったり、編成が少し違う、という事もあると思います。その場合には自分達で工夫してパートのアレンジを行う事を許容する。そしてオーダーメイドで編成に合わせたリヴィジョンを作成する事も可能、というシステムをご用意出来たらと思いました。

 今回、ASKS Windsさんにご理解頂きリリース出来たひとつの形です。今後、ひとつの吹奏楽のスタンダードとして発展・定着していく事を願っております。

2021.4.4

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