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春の嵐

脚本家として、出会い関わらせていただいた作品、ひとつひとつに、それぞれ思い入れがあります。

その中でも特に、

「この作品がなければ今の自分はなかった」

「この作品を通して自分自身も成長したい」

と感じられるような作品がいくつかあります。

そんな作品のひとつと出会ったときのことを書いてみました。



ある日、シナジーSPのプロデューサーMさんから、新しいお仕事のお電話をいただきました。

すぐに原作マンガ、全五巻が手元に届きました。

早春の夜更け。

外は雨風が強く、ごおごおと吹き荒れている音がちょっと気になりつつも、姿勢を正してページをめくりました。


読み始めてすぐ、

主人公の男の子の、人生に悲観しきってなかなか前を向けない姿に、共感しました。

同時に、ヒロインの女の子の、かわいさ、やさしさ、愛情深さ、純粋さ、何よりとてつもない強さと美しさに、引き込まれました。


「お仕事のための読書」という気構えは、いつしか忘れて、夢中で読み進めました。

主人公の妹や、ヒロインをちょこっといじめちゃう女の子にも、魅了されました。

後半に登場する双子の兄妹もとても素敵だし、主人公をとりまく家族のドラマも大好きなテイストでした。

何より、主人公とヒロインの一途な恋模様に心を揺さぶられまくりました。


主人公たちと一緒に、笑って、泣いて。

一緒に想って、一緒に願って、一緒に祈って……。


一気に読みおえたあと――。

全五巻のマンガを見つめて、しばしの間、なんともいえない多幸感にぼーっとなりました。

外ではあいかわらず春の嵐が、激しく吹き荒れていました。

でもそれが、なんだかとてもやさしくて、あたたかくて、心地のよいものに感じられました。「春の嵐のような」ヒロインの女の子が、すぐそばにいるような気がしました。

こんな素敵な作品の、アニメ化のお手伝いができる幸せ。

この作品に、私を呼んでくださったプロデューサーさんはじめ、(この時点ではまだお会いしていないけれど)原作者先生、制作チームの皆さんへの心からの、本当に本当に心からの感謝の気持ち。

そういうものが胸いっぱいに湧き上がって、あらためてひとり、ボロボロと泣きました。


私は脚本を書くとき、常に強く意識していることがあります。

それは、


『私が作品(登場人物・キャラクター)の一番のファンになる!!』


ということです。(もちろん本当に一番ってわけじゃなくて、それぐらいの気持ちで書くってことです。)

この作品は、読んだ瞬間に、惚れこみました。それこそ「ファンになろう」なんて思う間もなく、一読で自然と、既に、大ファンになっていました。

こんな素晴らしい作品に出会えただけでも幸せなのに、

こんな素晴らしい作品のシリーズ構成と脚本を担当させていただけるなんて、本当に本当に幸せで、ありがたすぎます。

このマンガは、既に多くの方々にとって、かけがえのない『宝物』のような作品です。

そんな宝物をさらにキラキラと慈しめるお手伝いをしたい。 

そしてもっともっと、たくさんの方々の『宝物』になってほしい。

そのために私ができる精一杯を尽くしたい。


心まで完全に春の嵐に包まれたのを感じながら、自ずと大好きな句をつぶやいていました。


春風や闘志いただきて丘に立つ  


人生の折々に私の背中を押しつづけてくれた高浜虚子の句です。

そういえば、虚子がこの句を詠んだのも大正時代だったな。と、この作品との共通点に気づいて嬉しくなりました。


というわけで。


『大正オトメ御伽噺』

この記事をアップさせていただいた、まさに今夜から放送スタートです!

皆さんの心にも、春の嵐が吹き荒れますように。






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