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柳沢きみお大全集

漫画界に綺羅星きらぼしのごとく並ぶ巨匠の中でも、ひときわ輝く白色矮星はくしょくわいせい、柳沢きみお先生について書く回です。※白色矮星=恒星(太陽等)の残骸。

「柳沢きみお大全集」というとてつもない全集が発売された。これがすごいんだわ。全33巻。

それくらいの冊数は普通じゃん?って思うじゃん? すごいのは1巻あたりのページ数なのよ。

1冊に単行本が10~15冊分くらい入ってるんだよね。たとえば第1巻は2840ページ。第2巻は2972ページ。電子だとこういうことが可能になる。すごくね?

全33巻で9万ページだそうな。漫画の単行本って普通は200ページくらいだから約450冊分。とてつもない。

kindleで古い漫画は大合本というのがよく作られていて、単行本3~4冊が1冊になってる。それをさらに巨大化したやつだな。

定価は1冊999円。単行本10~15冊分と考えたらかなり安い。電子は昔の定価のままってことが多いため、その値段なら不便でも紙の古本で読むわってなりやすいけど、この値段なら古本に負けない。

ちなみに大合本のお値段は1300円とかだったから、昔の定価よりは安いものの高目だった。この全集はそれがだいぶ安くなってる。

これ読者の大半はアンリミ(kindle unlimited)で読むのかな? アンリミって出版社と著者にとってけっこういい収入になるらしい。なので、柳沢きみお先生みたいな読み捨て系の漫画家の場合、アンリミなら読むけど買う気はないって読者をいっぱいキャッチできそう。アンリミ向きだ。

この大全集、お値段はよろしいけど、出来が非常によくない。

不満1。目次がない。その巻にどの作品が収録されているのか目次で確認することができないため、しゃーないからAmazonで見ることになる。不便だ。

不満2。目次からジャンプすることができない。たとえば第1巻には、これだけの作品が収録されてる。

『女だらけ』(全7巻)
『温泉ボーイ』(全1巻)
『ぼくちゃん先生』(全1巻)
『すみこみ学園』(全1巻)
『夕やけ団地』(全1巻)
『ビーダマ社長』(全2巻)
『ミニぱと』(全2巻)

読みたいやつの頭にジャンプしたいと思ってもその機能がないから手作業で探さなければならない。1冊が3000ページ弱あって、絵柄はどれも似た感じだから、手作業で頭出しするのはかなり大変。おいおい、なんのための電子なの?って気がする。

不満3。柳沢先生のコメントが適当すぎ。

こういう大全集ならではの特色として、各巻の冒頭2ページに柳沢先生のコメントがある。俺みたいな熱心な読者は、読んだことある作品、持ってる作品でも、それを目当てにしてるわけよ。各巻ごとにちゃんと2ページずつコメントが載ってることはありがたいけど、かなりテケトーなんだわ。

柳沢先生は過去作をいっさい読み返さない方針なので、今回収録されてるのは〇〇と△△ですけど、なんも覚えてないんですよね。当時の仕事場は原宿でうんぬんかんぬん。いい時代でした。それに比べて今は……。果たしてこの先も仕事はあるのかどうか……。みたいな展開で、文字数の大半は老後の不安についてなんだわ。

老後の不安もいいけど、熱心な読者は個々の作品について背景を聞きたい。柳沢先生に丸投げするからこうなるわけで、インタビュアーがついて、掲載誌は? 何歳ごろ? タイトルはどこからつけた?みたいに聞いていけば、何かしら出てくるはずなんだよ。じゃなきゃ強制的に第1話だけでも読んでもらえばいい。

大全集は全34冊だから、2ページのコメントが34個ある。そのかなりの部分が老後の不安だから情報量が少ない。熱心な読者を裏切るなよ。

不満4。巻末に「柳沢きみお全集刊行によせて」という2ページの文章がある。小学館で週刊ヤングサンデー編集長、ビッグゴールド編集長、ビッグコミックスペリオール編集長を歴任し、京都精華大学マンガ学部教授、よくわからんケータイコミック会社社長を経て、今はフリー編集者だという熊田正史さんというジーサンが書いた文章だ。

ほぅほぅ、こういう人が作ったのかってわかるから、この文章はいいんだけど、全34巻すべて同じ文章がそのまま載ってるんだわ。1回でいいよ。熱心な読者をなめんな。

大昔、紙の時代は単行本から文庫化されるとき、巻末には評論家的な人の数ページの解説が載るものだった。そういうのはコストも手間もかかるから、そこまでやってらんねーという事情もわかるけど、ずっと同じ文章はねーって。その巻ならではの何かにしてくれよ。じゃなきゃいらんだろ。

とまあこんな具合で、全集としての出来は非常によくない。ザ手抜き仕事だ。

こちとら熱心な読者なので、中身の大半は既読だから、この全集が出た意義は少ない……となってもおかしくないんだけど、信者というのはそういうもんではなく、まず全巻の柳沢先生コメントをすべて読み、そのあと順に読んでしまう。既読のやつも、持ってるやつも読んでしまう。電子で持ってるやつは改めて全集で読む意味はひとつもない。なのに読んでしまうんだわ。

こうして柳沢先生と熊田というジーサンにチャリンチャリンとアンリミの金が振り込まれる。教祖ビジネスは儲かるなと思わされる。

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