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日本に一時帰国して払った税金をベトナムで控除する -ベトナムの外国税額控除のはなし―

前回「ベトナム出向者の日本への一時帰国時の税務問題」について書きましたが、ここで日本とベトナムで二重課税になってしまうけど、払いっぱなしなのか?という疑問が出てくると思います。こちら専門家っぽく申し上げれば、日本とベトナムの二重課税回避と脱税防止の二国間協定、いわゆる租税条約において二重課税の排除が規定されております。わかりやすく言うと、二国間で同じ所得に対して課された税金は一方の国で控除して二重課税にならないように取り決めがされています。もっとわかりやすく言えば、日本で払った税金をベトナムで控除できます。
今回は、日本に一時帰国して非居住者として20.42%の税金を払い、その部分をベトナムの確定申告で控除する場合のベトナムでの外国税額控除を説明します。
前提として、日本で非居住者であること、日本の会社の役員ではないこととします(この前提が異なる場合は、取り扱いも異なるので、別途I-GLOCALまでご相談ください)。

ベトナムの外国税額控除の規定、必要書類
ベトナムの居住者として日本で課税された税金をベトナムの税金から控除するためには、以下の書類が必要となります。
① 納税証明書
② 申告書
③ 納付書

その上で、控除できる金額は以下となります。

全世界所得に対して課される税額×国外所得/全世界所得

ここで難しいのが、必要書類と対応する年度の確認です。
まず必要書類ですが、日本の非居住者として①納税証明書は以下から申請することで取得可能です。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_31.htm

一方で、②申告書、③納付書は、現実的に入手が困難です。まず日本の出向元の会社は本当事者だけでなく、まとめて非居住者に対する源泉徴収を行い、納税するのみで、申告書はありません。1月に法定調書を作成する際に、非居住者に対する支払調書がありますが、こちらは申告書とは異なります。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100049.htm
加えて納税も該当期間の源泉税額をまとめて行いますので、納付書には他の非居住者の金額も記載されてしますので、個別の金額はわかりません。必要に応じて他の非居住者への金額も含まれている納付書を提出する場合もございます。
そのため②申告書、③納付書は基本的には用意ができないことになります。
この点については、税務局の担当官により見解が分かれますが、税務調査で指摘された場合は、日本では準備ができない旨説明して、対応いただくことになります。

次に、対応する年度の確認ですが、例えば2021年8月から10月まで3ヵ月間、日本に一時帰国して、その間の給与は日本で20.42%課税されていたとします。
この場合は2021年中に源泉徴収も終えていて、納税もされているので、日本で非居住者として納税証明書を入手することができます。
一方で、2021年11月から2022年1月まで3か月間、日本に一時帰国して、同様に課税されていた場合、11月、12月の給与は2021年分であるためベトナムの2021年分の確定申告で手続き、
1月分は2022年分の確定申告で手続きすることになります。

計算例
以下税額控除の例を挙げます。(わかりやすく1円=200VNDとします)
【前提】
日本から毎月50万円(100milVND)、ベトナムで60milVND(30万円)支給、8月から10月まで日本滞在のため3か月間は日本で20.42%課されていた。

【ベトナムで全世界所得課税の税金(月額/年額)】
月額:((100mil+60mil)-11mil)×35%-9,850,000=42,300,000VND
年額:42,300,000×12ヵ月=507,600,000
【日本での3か月の税金】
100mil×20.42%×3ヵ月=61,260,000VND
【外国税額控除限度額】
507,600,000×(100mil×3ヵ月)/((100mil+60mil)×12ヵ月)=79,312,500
限度額(79,312,500)が実際に払った金額(61,260,000)より高いので、日本の税額の全額を控除可能となる。

つまりベトナムでの納税額は507,600,000-61,260,000=446,340,000VND(年額)となる。

留意点
上記の例は、日本で支給されている金額(月50万円)のみ日本で課税されていたため、全額控除が可能でしたが、仮に日本においてベトナムでの給与(月60milVND)も課税とした場合、税務局によっては当該ベトナム給与に該当する税額は控除対象と認めないと指摘されるケースがありますのでご留意ください。

まとめ
基本的には、日本でもらった分は日本で課税されますが、ベトナムにおいて全世界所得で課税されてもその日本で課税された税金はベトナムで控除して二重課税は防げることになります。ただし、将来の税務調査で、書類の不備や思わぬ指摘が入る潜在的リスクがあることはご注意ください。

以下、本レポートのまとめです。
① ベトナム法令上必要書類が複数あるが、揃わない可能性がある。
② 二重課税は年度ごとに確定申告で対応が必要。
③ 基本的には全額控除ができるが、将来の税務調査で指摘される可能性はあり。


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