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EQP-1A達を診る

 EQP-1Aというイコライザー(EQ)は、1960年頃から存在しているまぁまぁなおばちゃんである。歴史的な事はさておいて今でも人気でよく使われている。みんな機材とワインはヴィンテージが良いらしい。知らんけど。

 私がEQP-1Aを「ぐれぇとなババアだ」と気づいたのはつい最近。もちろん実機ではなくモデリングプラグインの方だが。ただ、実機にしてもそもそもが御年60歳ぐれぇのでぇベテランで個体差があるので、意外と同じ音が無い物なのだ。知らんけど。
 かつ、プラグインにしてもモデリングしているデベロッパーによって挙動の差がかなりあり、もはや何が真作に近いのかわからない。いや、近かろうと遠かろうと実機知らないんでどうでもいいんですけど。

 何故こうなるかと言うと、もちろんモデリング元の劣化や、使われてるパーツが代替品だったりする事もあるのだが、電流の掛け方だのキャリブレーションだのなんだのちょっとした事で検証データにボロクソに差が出てしまう事が理由の一つ。一応、中身は筋の通った「機械」なので他の分野のシミュレーションよりは話は分かる方にしろ、ちょっとした事で反応が変わるような生き物とも思われる動きをするので、こういう機材に通す事を生命力を与えると表現される事もあるとかないとか。無い。今考えた。

 そうだ、私は何も知らん。全部知ったかぶりだ。

 で、このEQは何がグレートなのかと言うと、アナログ機材なだけあり(?)同じアナログ世界の生き残りであるマイクと大変相性が良い[要出典]

例えばSHUREのSM57というマイクの周波数特性はこうである。

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 5, 6kHzにピークがあり、明るい音となっている。私はこれが大嫌いだ!
 そこで、EQP-1Aの設定をこうする。

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 Bandwidth10, High Frequency16, Boost10, Atten10, AttenSel20.

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 なんか見覚えあるカーブだな?


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お前かー!!!

 つまり、ぶつけ合わせると高音の特性がフラットに近づく。ただ、これはあくまでテスト環境下でのチャートであり、実際にはマイクの角度や距離によってこんなもんはグニャグニャに変わってしまうので、SM57自体が嫌いならこんな手もあるよ程度の話だ。なら使うなっていう話でもある。
 実際、機材で弄ってしまうとマイクが捉えた信号から離れてしまうので、思わぬ弊害があったりもする。こういう処理が必ずしも全て解決するとは限らない事には留意したい。

 さて、上で言ったように、再現は様々なさじ加減で行われており、これが全てのプラグインで可能かと言うとそうでもない。
 特に、このEQP-1Aの特徴はBoostとAttenの同時制御にあるが、再現度はまちまちである。Boost(ブースト)とAtten(カット)を同じ数値にしたらそりゃ0に戻るんじゃないか?と初心者は思うが、EQP-1Aはそうではない。
 この仕様はむしろLOW側の方がよく知られており、例えばキックやベースの音作りの時によく行われる中抜きだが、500Hzを抜きたいと思っている時にはこんな設定をする。

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 意味わかんないでしょ?何が意味わかんないかって、60Hzを操作してるのに500Hzが凹んでるんだよ。わかんない  by ピノキオピー

 そこで、DDMFで販売されているPlugin Doctorは、その名の通りプラグインの動きを診る事が出来る。これを使って、手あたり次第にEQP-1Aのモデリングプラグインを診断してみる事にする。
 Plugin Doctorが全てを精確に測定できる訳ではないが、とりあえずの目安としては十分に役目を果たしてくれるだろう。
 一応有料のプラグインだが、デモ版であってもそこそこ使えちゃったりする。機能制限は二つのプラグインを読み込んで比較テストが出来ない事、別のプラグインをテストする時にいちいち立ち上げ直さなくてはいけない事、定期的に休憩を挟む事あたりだ。とはいえ2500円ぐらいなので、有用性を考えればそう高くもないはず。

 それでは診察を開始します。

設定はHIGH側のこれ。
ついでに「通すだけで音が変わる」と言われる要素の一つである、倍音付加の様子も載せておく。他にも位相特性などあるが、面倒なので省く。

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UAD : PULTEC PROGRAM EQUALIZER EQP-1A

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 まずはこれを基準にする。UADのEQP-1AにはLEGACY版という負荷が少なく倍音付加が無いバージョンもあるが、おおむねカーブの挙動は同じ。

Softube : TUBE-TECH PE 1C

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個人的に信頼できるデベロッパーだが、TUBE-TECHはそもそもPULTECではない……挙動自体はPULTECに似ているものの、目的のカーブではなかった。しかしキャラクターはまさに良いとこ取り、優等生な感じ。

ANALOG OBSESSION : Rare

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 ???
 設定5度見した。他の挙動にしても疑問は多いが、使い方を限定すれば使えなくもない印象。

WAVES : PuigTec EQP1A

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 UADとカーブの挙動は近いものの、倍音付加は全く違い、聴いた感じでも通しただけでかなりキャラクターが強く出てくる。

OVERTONE DSP : PTC-2A

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  掴み所のないデベロッパーで、音は割と特徴的なのに無難に感じる。不思議挙動が多い。軽くて安め。

Black Rooster Audio : EQ1A

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※AttenSel20

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※AttenSel10

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 人気のヴィンテージモデリングを始めた途端に知名度が爆上がりしたBlack Rooster Audio、カーブは意図的にずらしているように思う。モデリング精度と言うよりはBlack Rooster Audioのサウンドキャラクターが刺さっている人が多い気がする。

NoiseAsh : EQ1A

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 それまでオリジナルのプラグインを作っていたデベロッパーが急にモデリングしたEQP-1A。聴いた感じがPuigTecに近い。そしてアナログスイッチの挙動もPuigTecに近い。え、これPuigTecでは!?

Acustica : PURPLE3 P1

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 高品質の曲者デベロッパー激重Acusticaのマイナーチェンジ版。形態が複雑なだけに診療室の中でDoctorと喧嘩しているような挙動をしている。しかしカーブを見るとおおよその形は他と一致している。倍音付加は別の方法でも測定してみたが、ほぼないと言えるレベル。

 と、個人的に主要な所ではこの辺り。EQP-1Aのモデリングは他にもIKのT-RacksやNomadFactory、ハードメーカー公認のApogeeなどがあるが、まず私はそんなに要らない。(Sonimusは別)
 これらの検証もデベロッパーによって違いが大きいという説明をする為に落としてきたデモ版である。

 今回はSM57のEQP-1Aの設定決めてからしばらく使い続けていたので、どうもカーブが気になりPlugin Doctorに訊いてみた所、一応設定の根拠としてはそれなりな理屈が得られたので良しとした。

 そしてもう一つ、今度はEQP-1AのLOWカーブだが、Boost&Attenの同時操作ではなく、単体のカーブもマイクの近接効果と相性が良い気がする。近接効果とは指向性を持つマイクの特性で、音源とマイクの距離が近づくと低音が盛り上がるというしょうもない(とも限らない)仕様の事である。

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 これは3ミリまで近づくと200Hz周辺の低音が約15dBまで持ち上がり、60センチ離れると高音寄りになる、というBeta58aの近接効果を示すチャートだ。これをEQP-1AのLOWのAttenで調整するとなかなか自然な仕上がりになってくれる。

 低音は高音に比べて少しの事で大きく音が変わるため、EQの特性自体が重要になる。低音を触る時に様々なEQを試してみて、何故かピックアップの回数が多かったのがEQP-1A。小難しい特性はともあれ、なんか好きな音なんだろうなと思う。NEVE、API、SSL(全部モデリング)もなんか違う、更にデジタルEQのOzoneやPRO-Q3などで色々詰めてみても、やっぱり手持ちのマイクに対してはEQP-1Aが良かったのである。もちろんHIGH側の単体Boostも多くの人が評価している。

 そう感じる原因は何なのか、Plugin Doctorで色々調べてみた結果、「なるほど(わからん)」となんとなく特徴を掴む事も出来た(出来てない)ので、念のための安全確認としてPlugin Doctorが大いに役立った(説得力0.1)。明らかにとんでもない挙動なら音を聞けば大体わかるが、微妙な違和感の場合にはそれを可視化出来れば感覚のキャリブレーションの一助となるだろう。気になる曲線を描いているのであれば微調整も可能だ。
 プラグインによっては、低音では倍音付加があるのに中域周波数以上では止まる、といったマルチバンドな挙動をする物もあり、そういうのはスイープ(低音から高音まで移動する音)を通さないとわからなかったりするため、多角的に診断が出来るPlugin Doctorは助かる。是非活用したい。

 しかし、理屈として合っていても技術や結果に繋がらない事も往々にしてある。機材は機材の為にある訳ではなく、録音の為の機材、ひいては音楽の為の機材なので、新旧廉価高価も無く、音楽に役立つ事が出来るか否かが重要だ。とりあえずガチャガチャに弄って好きな音を探そう。

 大丈夫、現実のおもちゃと違って壊れる事は滅多にな縺??縺?縺九i

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