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【中国映画】グー・シャオガン監督『西湖畔に生きる』~欲望の闇に墜ちた「こころ」に向き合う~


 ヒューマンドラマ、社会派映画のどちらかの枠組みだけではすくい取れない、いまの中国の「こころ」の問題。グー・シャオガン(顧暁剛)監督の『西湖畔に生きる』(原題『草木人間』)が、日本でも公開された。

 伝統美学を受け継いだ「山水映画」をめざす監督の第2作として、古都杭州の郊外で茶摘みの仕事をしていた中年女性が、マルチ商法のわなに溺れるさまを描く。

龍井茶の産地。2016年11月筆者撮。

 主人公の苔花(タイホア)は高級茶葉として知られる龍井茶(ロンジン茶)の農園で働いているが、大学を出た息子は就職が決まらない。茶の師匠が彼を雇おうと言うが、提示した給料は給料はわずか6000元(約12万円)である。息子の将来のためにお金を稼ごうと、苔花はマルチ商法にはまってしまう。

 マルチの会社は、研修と称して会員を集め、洗脳する。社員が壇上から語る言葉は、中国で生活していれば必ず耳にする自己啓発系のキーワードだ。留学していた時、同じような言葉に煽られていた周囲の状況を思い出して胸が痛くなった。

 「成功」「自信」「自立」……

 貧しくも穏やかな性格だったはずの主人公は「今までは人から見下されていた」が、「事業を始めて自立した新しい女性になる」と言いはじめる。

 息子は母の変化にいらだち、それでも支え続けようとする――

 のどかな農村の茶園の場面でも、茶の師匠が茶葉を煎るかたわらにスマートフォンを持った女性が立ち、生中継でキャンペーンへの参加を視聴者に呼びかけている。金と欲望があらゆる場所に忍び込む時代なのだ。

杭州にある「中国茶葉博物館」の一角。2016年11月筆者撮。

 中国は繁栄しているのか。それとも不況のなかにあるのか。

 成功や自己実現の欲望を煽られ、承認欲求のため他人の視線にセンシティブになり、見下されることに不安を感じるようになり、仲間内でより高い地位を得るために高額の出費を惜しまず、自身を見失っていく……主人公のたどる地獄絵図は、マルチの会員に限らず、バブル経済の欲望にあおられた中国社会全体の気風にも通じるのではないかと思わせるリアリティで描かれる。

杭州の街角。2017年5月筆者撮

 発展しなければ幸せになれない。
 しかし欲望をあおる言説が人を不幸にする。

 本作品の主人公の息子は、目蓮(ムーリエン)という名前である。この名は、中国の伝統的な仏教説話「目蓮救母」からとられている。説話のとおり、目蓮は地獄に堕ちた母によりそい、自ら地獄に飛び込み、彼女の心を救おうとする。

 経済発展とその行き詰まりは、人のこころになにをもたらしたのか。
 『西湖畔に生きる』は、熱狂が醒めたあとに現代中国の「こころ」を問うている。

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