Why Blockchain Matters (なぜブロックチェーンは重要なのか)

はじめに

前二回では、LayerXがどのような思想で、どんなビジネスをしているのか?について書きました。


今回はまだ世の中ではあまり語られていない、エンタープライズでのブロックチェーン活用が社会にどんなインパクトを与えるのか?どのような期待が寄せられているか?について書きたいと思います。

ブロックチェーンは価値のインターネット?

ブロックチェーンはよく価値のインターネットと言われます。分かったようなわからないようなですね。

なんだか不思議な言い回しですね。今のインターネットって「価値」扱えてますよね?例えば、個人間のお金のやり取りであれば、ブロックチェーンなど使わずとも、LINE PayやKyashでできますし、もっと昔からあるサービスを考えると、クレジットカードを使えば、Amazonや楽天で買い物もできますし、サブスクリプションサービスも購入できます。それと何が違うの?価値のインターネットって何なの?という疑問が湧いてきます。

今のインターネットにおける「価値」と、ブロックチェーンの文脈における「価値」は、それぞれ違うことに言及しているように思われます。

少し抽象的ですが、まず「価値とは何か?」について、考えてみましょう。

ここに、紙に書かれた1万円という数値があります。これは「価値」を持つでしょうか?

もたないですよね。

では紙の紙幣の1万円は価値を持つでしょうか?

これは欲しいですよね。つまりこれは「価値」を持ちます。

ではネットバンクの口座にある「1万円」という数値はどうでしょうか?

こちらも「価値」を持つでしょう。

これらは一体、どのように違うのでしょうか?

数値やデータは、それだけでは当然価値を持ちません。(通貨には皆が信頼するかどうかのような貨幣論的な話があるのですが、) 価値を持つには、技術的には、「二重払い耐性」が必要です。わかりやすく言うと、「データがコピーできず」、「利用すると権利が確実に相手に移る」ことが必要なのです。こういった特徴を備えたデータや数値を、人々は「価値」と呼んでいるのです。


価値はどうやって担保されるのか

このようなものを「価値」と定義したときに、今のインターネットにおける「価値」とブロックチェーンの文脈における「価値」の間にある違いとは何なのか、すなわち「どのようにして二重払いを防いでいるのか」を理解することが、「価値のインターネット」という、ちょっとわかりにくい言葉を理解するためのカギになりそうです。

紙の紙幣の場合はわかりやすく、紙という物理的な性質によって「利用すると権利が確実に相手に移る」ことを保証し、また「データがコピーできない」という性質も、透かしなど物理的な技術によって実現しています。

ネットバンクにおける数値は、どうでしょうか。バンキングというのは通常、行内の口座を書き換える勘定系+行外の決済(セトルメント)をする全銀システム, SWIFTを組み合わせて作られています。ここにアクセスできる主体が限定されていること、また、不正が起きづらいようなコンプライアンス機構を組織として作っていること、加えて、ライセンス制にすることでコンプライアンス機構と内部統制の徹底を参入の条件にすることで「利用すると権利が確実に相手に移る」ことを保証し、また「データがコピーできない」ようにしているのです。これはすなわち、「信頼できるやつが頑張って管理」することで、価値を保っているとも言えます。(ブロックチェーンでよく出てくる「信頼できる第三者」のことですね。)

では、ブロックチェーンでは、どのようにして「利用すると権利が確実に相手に移る」ことを保証し、また「データがコピーできない」ことを実現しているのでしょうか。技術的な解説は散々されているので、ここでは概念的な説明にとどめたいと思います。

ブロックチェーンは上記を「数学的、暗号学的」に保証しています。データと状態遷移が共有されたプログラムで規定され、またそのプログラムが動作していることが暗号的に保証されることで、「利用すると権利が確実に相手に移る」ことを保証し、また「データがコピーできない」ようにしています。(電子署名とノードの分散共有+コンセンサスによってそれを実現しています)

ネットバンクとブロックチェーンは、消費者からすると一見同じように見えますが、ネットバンクは究極的には、信頼できる主体による「人手」で価値を担保しているのに対し、ブロックチェーンは「コンピューティング」で、データそのものによって価値を担保しているのです。

そして、「価値の担保」のコンピューティング化は、「オープン」で「低コスト」で「自動的に決済が行われる」価値のネットワークを生み出します。


既存システムの課題

ここでは既存の「価値」を担保するためのシステムの限界について考えてみましょう。

「お金のシステムはオープンでない」

=> 上述のように、現状では、基本的に、金融システムへのアクセスを制限することで、価値を維持しています。そのため、例えばAmazonは全銀システムにアクセスできませんし、Facebookはほふりにアクセスすることができません。このように、インターネット企業がダイレクトに金融サービスを実装し、提供することは現状、困難を極めます。最近話題のLibraも、「Facebookのような会社が全銀システム、SWIFTを持つにはどうすればよいか?」という問いかけのように見えます。

「目に見えない人手のコストが、価値の移転にはかかっている」

=> ネットバンキングでは滑らかに流れているようなお金の流れも実は、裏で人間がチェックしています。例えば、AML/CFTの仕組みの提供及び管理にネットワーク全体で膨大なコストがかかっています。他の価値移転処理、例えば、証券の移転処理などではコンプライアンスを保たねばなりません。もちろんこういった機能は金融機関では必須であり、無くすべきではありません。どちらかというと人手でなく、ネットワークにビルトインされたプログラムとしてどうやってこれらの機能を実現していくかが今最も重要です。

「相互運用性の欠如」

=> いわゆるシステムのサイロ化です。例えば楽天ポイントとAmazonのポイントは相互運用性がありません。各貿易会社のEDI同士は相互互換性がありません。全銀システムと各種サービスが持っている決済機構は繋がっていません。ほふりと全銀システムも繋がっていません。繋がっていない故に、システム間をブリッジするにはインテグレーションのコスト、多くの場合は人手による確認や修正依頼コストがかかります。実は、インテグレーションに関してはブロックチェーンでも課題は変わらないのですが、決済システム同士をブリッジしやすくなるような設計、プロトコルなどが多く提唱されており、ブロックチェーンによって解決されると期待されている課題の1つです。

つまり、今「価値」は滑らかに流れていません。価値を流すためにネットワークを繋ぐコスト、流れる価値の正しさを担保するためのコストは時間的にも金額的にもバカになりません。

言い換えると、「オープンにアクセス」でき、「人手によるコストが極小化」されていて、「相互運用性」がある価値のネットワークが実現することの重要性は計り知れないのです。

お金の自動運転

コンプライアンスがビルトインされ、決済(セトルメント)が暗号学的に保証される価値のネットワークができると、世界は激変します。

人手からコンピューティングへの移行という文脈でたとえ話をするなら、お金の自動運転が実現します。今、車の自動運転の評価が世の中的には高まっています。人手でなく、自動で車が運転されるようになると、渋滞が減ります、事故が減ります、新しいサービスができます。

お金はどうでしょうか。上記の通り全くもって自動で流れていないお金が自動で流れると何が起こるでしょう?

お金が自動で流れるようになると、「お金の渋滞」がなくなります。世の中には資金繰りで苦しんでいる中小企業、個人は多くいますが、そういった人が減ります。物の流れとお金の流れ、サービスの流れとお金の流れが一致するようになります。

お金が自動で流れるようになると、「お金の事故」が減ります。お金を貸す際のDDが楽になります。月末の請求書からのミス確認など、経理業務が必要なくなります。証券の配当でのミスがなくなります。保険の未払いの問題がなくなります。

お金が自動で流れるようになると、「お金の新しいサービス」ができます。今までのコストや粒度では絶対に実現しなかった、証券化・流動化や小口化ができます。非常に低コストなバンキングサービスが生まれます。新しい信用創造や貸付が生まれます。きめ細かいダイナミックプライシングの保険やP2P保険が生まれます etc...

このように車の自動運転は非常に高く評価されてますが、お金の自動運転はすごく過小評価されていると思います。でも起こる社会的インパクトは同じくらいかそれ以上に大きいと思います。

その理由はシンプルで「お金」や「価値」は目に見えにくい。だからそこが具体的にどう変わるとどんなインパクトが起こるか想像が難しいからです。

ブロックチェーン技術の先にある、「価値のインターネット」は「情報のインターネット」以来の大革命です。

この革命の中で一緒に世の中を良くしていきたい方はLayerXで是非一緒に世界を変えていきましょう。


上記以外もトップマネジメント、コーポレートも募集中です。

長くなりましたが今回は以上です。


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LayerX CEO, Gunosy創業者, エンジェル投資家。大学時代はコンピュターサイエンス・機械学習を研究していました。テクノロジーを武器にしたスタートアップエコシステムの拡大に人生を賭けています。