棄てられた者の行方 19

 そうした日々の中で、ペリシテ人たちはイスラエルに対して戦う戦闘に備えて彼らの軍勢を集結した。アキシュはダビデに言った「お前とお前の従者たちは私とともに軍勢の中に加わって出て行かねばならないことをよく知っているはずだ」。ダビデはアキシュに言った「その通りです。あなたはあなたのしもべがしなければならないことを知っておられます」。アキシュはダビデに言った「それでは、生涯お前を私の護衛としよう」。

 ラマで余生を送っていたサムエルはある日夢を見た。シロの神殿で三歳の自分がハンナの膝に抱かれて眠っていた。目を覚ますと、母の顔が真上にあった。母は優しい微笑みを浮かべて彼を見つめていた。その時サムエルは、今まで自分は、母に抱かれながら長い夢を見ていたのだと思った。そして一方、エリのことも、サウルのことも、振り返れば一瞬だったような気もした。「こんなに自分を愛して、優しい母が自分を棄てるわけがない」とサムエルは思った。彼は小さな手で母の温かく柔らかい体に抱きついた。すると母の顔が少しぼやけて見えた。「ああまた眠るのだな」とサムエルは思った。そう思った瞬間、彼の意識は遠のいた。

 サムエルが死んだ。イスラエルの全ての人々が彼のために嘆いた。そして彼の町であるラマに彼を葬った。一方、サウルは口寄せと占い師を国から追い出した。サムエルという民族の精神的支柱を失い、イスラエル定着以前の習俗を排除し、イスラエル宗教での一致を目指そうとした政策の一環だった。しかしそうした試みに着手してまもなく、宿敵ペリシテ人たちは集合し、出てきてパレスチナ中央部エズレルの谷にあるシュネムまで侵入し、そこに宿営した。そこでサウルは全イスラエルを集結し、彼らはそこから18キロほど下ったギルボアに宿営した。サウルはペリシテの軍勢を恐れ、彼の心は非常におののいていた。サウルは神に尋ねたが、神は夢によっても、くじによっても、預言者によっても彼に答えなかった。サウルは彼のしもべたちに言った「私のために死霊を上らせる口寄せの女を探せ。私は彼女のところに行き、彼女に尋ねたい」。彼のしもべたちは言った「ご覧なさい、エンドルに死霊を上らせる口寄せの女がいます」。サウルは軍服を着替えて変装した。そして彼と二人の従者がともに行き、夜その女のところに来た。そして彼は言った「どうか私のために死霊によって占ってくれ。この私のために、これから私がお前に言う者を上らせよ」。その女は彼に言った「ご覧ください、あなたはサウルがしたことをご存知のはずです。彼は口寄せ、占い師をこの地から絶滅しました。どうしてあなたは私の命を絶とうと罠を仕掛けるのですか」。サウルは神によって彼女に誓って言った「神は生きておられる。このことによってお前が罰せられることはない」。女は言った「誰を上らせましょうか」。彼は言った「私のためにサムエルを上らせよ」。女はサムエルを見て、大声で叫んでサウルに言った「どうして私を騙したのですか。あなたはサウル様です」。王は彼女に言った「恐れてはならない。お前は何を見たのか」。女はサウルに言った「私は神を見ました。地から上っています」。彼は彼女に言った「彼の外見はどのようだ」。彼女は言った「年老いた人が上ってきています。彼は上着をまとっています」。この時サウルは彼がサムエルだとわかった。そして顔を地に伏せてお辞儀した。サムエルはサウルに言った「どうしてお前は私を立ち上らせて煩わせたのだ」。サウルは言った「私は今、大変な苦しみにあっています。ペリシテ人たちが私に対して攻めてきているのです。しかし神は私に背を向けました。そしてもはや預言者の手によっても、夢によっても、私に答えてくれませんでした。それで私がこれからどうすべきか私に教えてもらうためにあなたを呼びました」。サムエルは言った「どうして私に尋ねるのか。神はお前に背を向けて、お前の敵となったのだ。神は私の口によって語ったように行った。神はお前の手から王国を裂いた。そしてお前の隣人、ダビデに与えたのだ。お前は神の呼びかけに聞き従わなかった。お前は神の激しい怒りに従って、アマレクに対して行動しなかった。それゆえに神は今日、お前に対してこのことを行ったのだ。神はお前とともにイスラエルもまた、ペリシテ人の手に与えた。明日はお前もお前の息子たちも私とともにいることになる。神はイスラエルの軍勢もペリシテ人の手に与えた」。これを聞くと、サウルは直ちに、地にまっすぐに倒れ伏した。彼はサムエルの言葉により、さらに恐れた。彼のうちには力もなくなった。また彼は日中も夜もパンを食べていなかった。その女はサウルのもとに来た。彼女は彼が非常に恐れているのを見た。そこで彼女は彼に言った「ご覧ください。はしためはあなたの声に聞き従いました。私は命がけでした。私はあなたが私に対し語ったあなたの言葉に聞き従ったのです。それで今、あなたもあなたのはしための声を聞いてください。私はあなたの前に少しのパンを差し出します。どうか召し上がってください。あなたが帰り道を行く時に、それはあなたにとっての力となるでしょう」。しかし彼は拒んで言った「私は食べない」。しかし彼のしもべたちも、女も、彼に対して強く勧めた。それで彼は彼らの求めを聞き入れ、地から立ち上がり、寝床に座った。女には家の中に肥えた牛があった。彼女は急いでそれを屠った。そして麦粉を取り、こねて種なしパンを焼いた。彼女がサウルとしもべたちの前に置くと、彼らは食べた。そして彼らはその夜のうちに去った。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?