棄てられた者の行方 32

 それから二年経って、エフライムに属するバアルハツォールにおいて、アブサロムの羊の毛を刈る時になった。アブサロムはすべての王子たちを招待した。アブサロムは王のもとに行き、言った「ご覧ください。あなたのしもべ、私は羊の毛を刈ろうとしています。王様としもべたちも、あなたのしもべ、私とともにどうかお出でくださいますように」。王はアブサロムに言った「それは良くない。私の子よ。我々すべてが行ってはいけない。我々がお前に対し重荷となってはならない」。それでも彼は王に強いたが、王は行くことを望まず、アブサロムを祝福した。そこでアブサロムは言った「では、私たちとともに私の兄アムノンを行かせていただけませんか」。王は彼に言った「どうして彼をお前とともに行かせるのか」。しかしアブサロムは彼に強いたので、王はアムノンを彼とともに送り出した。またすべての王子たちも一緒だった。アブサロムは彼の従者たちに命じて言った「酒でアムノンが心地良くなっている時を見計らえ。私が『アムノンを討て』とお前たちに命じたら、彼を殺せ。恐れてはならない。この私がお前たちに命じるのではないか。強くあれ。勇者となれ」。従者たちは、アブサロムの命令通りアムノンに襲いかかった。王子は全員立ってそれぞれのらばに乗り、逃げ出した。彼らが途上にいた時、ダビデに知らせが到来した。「アブサロムが全ての王子たちを討ちました。彼らのうちの一人も残されませんでした」。王は立ち上がり、彼の衣を裂き、地に伏した。そばに立っていた彼の全てのしもべたちも衣を裂いた。しかしダビデの兄弟シムイアの子ヨナダブは応えて言った。「私の主よ。王子たち全ての若者が殺されたとは思われませんように。アムノンのみ、アブサロムの命令によって殺されたからです。これは彼が妹のタマルを強姦した日から決意されていたことだったのです。ですから今、王子が全て死んだと言われたことに、わが主、王様はご自分のお心を止められませんように。アムノンだけが死んだからです」。実は子供に甘いダビデには考えも及ばないことであったが、アブサロムが第一に狙っていたのは父ダビデの命だった。彼はもともと、折あらばダビデを殺害して王権を奪い、その後でアムノンを殺害しようと考えていた。

 直ちに、アブサロムは逃亡した。一方、見張っていた若者が目を上げると、山際にある背後の道から、多くの民が来るのを見た。ヨナタンは王に言った「ご覧なさい。王子たちが来ました。あなたのしもべが言ったようになりました」。彼が語り終えると、王子たちが来た。そして声を上げて泣いた。王も彼のしもべたちも非常に大きな泣き声を上げて泣いた。アブサロムは、母方の祖父、ガリラヤ湖北東にあるゲシュルの王アミフドの子タルマイのもとに逃げた。ダビデは毎日、彼の息子を思って嘆いた。アブサロムは逃れて、そこで三年が経った。ダビデ王はアブサロムにいつも心を向けていた。アムノンは死んだので諦めていたから尚更だった。

 ツェルヤの子ヨアブは、王の心がアブサロムに向かっているのを知った。ヨアブはエルサレム南方11キロほどにあるテコアに人を遣わして、そこから知恵者と言われている女を連れてきた。彼は彼女に言った。「喪服に身を包み、嘆いている者のように自らを装え。油を身に注いではならない。長い日々にわたり、死者のために嘆いている者のようになれ。そして王のもとに行き、こう語りなさい」。ヨアブは語るべき言葉を彼女に授けた。テコアのその女は王の前に来ると、彼女の顔を地に伏せて礼をした。彼女は言った「王様、どうかお助けください」。王は彼女に言った「訴えは何か」。彼女は言った。「ああ、私の夫は死に、今この私はやもめです。あなたの仕え女には二人の息子がおりました。ところが彼ら二人は野で争いましたが、息子たちを引き分ける者がいませんでした。そして一方が他方を討ち、彼を殺しました。すると私が属する全ての氏族の者があなたの仕え女に対して立ち上がって言いました。『自分の兄弟を討った者を差し出せ。彼が殺した兄弟の命の為に、我々は彼を殺さねばならない。我々はお前の家の後継者もまた滅ぼさねばならない』。彼らはあなたの仕え女に残された炭火を消し、夫の名も、跡継ぎも、地上に残させまいとしています」。王はその女に言った「お前の家に帰りなさい。この私がお前のために命じよう」。テコアの女は王に言った。「私の主、王様。咎は私の上にあり、罪は私の父の家の上にあります。王様も王座も責めを負ってはなりません」。王は言った「お前に対し語る者を私のもとに来させなさい。お前のことに触れる者はもはやないであろう」。彼女は言った「王様、どうかあなたの神を思い起こされますように。どうか血の復讐をする者が殺戮を繰り返すことがありませんように。私の息子を滅させないでください」。王は答えた「神は生きておられる。お前の息子の髪の毛一本たりとも地に落ちることはない」。女は言った「わが主、王様にもう一言、あなたの仕え女に言わせてください」。彼は言った「語りなさい」。女は言った「主君であられる王様、それではなぜ、神の民に対してあなたはこのようにふるまわれるのでしょう。王様は兄弟を殺した者を赦すと仰ってくださいました。しかし王様御自身、追放された方を連れ戻そうとなさいません。王様の今回の御判断によるなら、王様は責められることになります。私たちは必ず死にます。地にこぼされる水のように、私たちの命は掻き集められません。しかし神は、追いやられた者が私たちから失われないため、図りごとを計らってくださり、命を取り去らないでしょう。神は、追放された者がイスラエルの神からも追放されたままになることをお望みになりません。そうならないように取り計らってくださいます。今私は、民が私を恐れさせたので、私の主、王様にこの言葉を語るために来ました。あなたの仕え女は『王様にお話ししよう。おそらく、王様ははしための言葉を聞き届けてくださる』と思いました。なぜなら、王様は神からいただいた土地、神の嗣業から私と私の息子をともに滅ぼそうとする人の手からはしためを救うために聞き入れてくださるからです。あなたの仕え女は思いました『私の主、王様のお言葉が生き残りの者に臨んでくださるように』。なぜなら、私の主、王様が善と悪を聞き分けることは、まさに神の使いのようであられ、あなたの神があなたとともにおられるからです」。王は女に言った「私がこれから問うことに、隠し立てをしないように」。女は答えた「王様、どうぞおっしゃってください」。王は言った「この全てにわたってヨアブの指図がお前にあったか」。女は答えて言った「私の主、王様。あなたの魂は生きておられます。私の主、王様が語られた全てのことから右にも、左にも逸れることはできません。仰るとおり、あなたのしもべヨアブ様がお命じになったことです。彼がこれら全ての言葉をあなたの仕え女の口に授けました。今の状態をなんとかしようとあなたのしもべヨアブ様がこのことを行われました。私の主は地の全てのことをこ存じであられ、神の御使いのような知恵をお持ちです。また、地上に起こることすべてご存じです」。王はヨアブを呼んで言った「よかろう、そうしよう。行って、若者アブサロムを連れ戻すがよい」。ヨアブは地にひれ伏して礼をし、王に祝福の言葉を述べて言った「今日あなたのしもべは、王がしもべの言葉を行なってくださったことで、私の主、王の目に慈しみを見い出せたことを知りました」。ヨアブは立ってゲシュルに向かい、アブサロムをエルサレムに連れ帰った。だが、王はヨアブに言った「自分の家に向かわせよ。私の顔を見てはならない」。アブサロムは自分の家に向かい、王の顔を見なかった。アブサロムがエルサレムに住んで二年が経ったが、王の顔を見ることはなかった。そこでアブサロムはヨアブに使いを送った。ヨアブを王のもとに遣わそうとしたのである。しかしヨアブは彼のもとに来ることを望まなかった。それで彼は再び使いを送ったが、それでも彼は来ることを望まなかった。業を煮やしたアブサロムは部下に命じた。「見ろ、ヨアブの畑が私の隣にあって、そこには大麦が植えられている。行って、火を放て」。アブサロムのしもべたちは畑に火を放った。ヨアブは立ち上がり、家にいるアブサロムのもとに来た。「どうしてあなたのしもべは私が所有する畑に火を放ったのですか」と彼が言うと、アブサロムはヨアブに言った。「私はお前に『ここに来い』と言うために人を遣わした。私は次のように言うためにお前を王に遣わしたかったのだ。『どうして私はゲシュルから来たのですか。私はそこにいた方がまだよかったです。今、私は王の顔を見たいと願っています。もし私に罪があるなら、私を殺してください』」。ヨアブが王のもとに来て告げたので、彼はアブサロムを呼んだ。それで彼は王のもとに来て、王の前で顔を地に伏せてお辞儀した。王はアブサロムに接吻した。


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