棄てられた者の行方 33

 それから後、アブサロムは彼の前を走る戦車や馬、また五十人の者を整えた。また、アブサロムは朝早く起き、エルサレムの城門に入る道の傍らに立った。そして訴えたいことがあり、裁きを求めて王のもとに来るすべての人々を彼のもとに呼んだ。そして彼は言った「あなたはどこの人か」。その人が「あなたのしもべはイスラエルの部族の一つの出身です」と言うと、彼はこう言った「ご覧なさい。あなたの言葉は全く正しい。しかし王とともにある者のうちには、あなたのために聞いてくれる者がいません」。アブサロムは、こうも言った「この地で誰かが私を裁き人にしてくれたら、訴訟と審判を求めるすべての人が私の所に来るでしょう。そして私は彼を正しい者とするでしょう」。また彼にお辞儀をするために人が近づく時にも、彼は手を伸ばしてその人を抱き、接吻した。アブサロムは、王のもとに審判を求めて来るすべてのイスラエル人に対してこのようなことを行なった。こうしてアブサロムはイスラエルの人々の心を盗んだ。

 そして四十歳になった年の終わり頃にアブサロムは王に願った。「どうか私をヘブロンに行かせて、神に対して誓った私の誓いを果たさせてください。なぜなら、あなたのしもべがアラムのゲシュルに住んでいた時に、次のように誓いました。『もし神が私をエルサレムに戻してくださいますなら、私は神に仕えます』」。王は彼に言った「平安に行きなさい」。アブサロムは王のもとから戻ると、イスラエルの全部族に密使を送り、角笛の音を合図に、「アブサロムがヘブロンで王となった」と言うように命じた。それから彼は立って、ヘブロンに行った。そして招かれている者たち二百人がエルサレムからアブサロムとともに行った。しかし彼らは招きに応じて同行しただけで、何も知らされてはいなかった。また彼は犠牲をささげている時に、ヘブロン北北西10キロにあるギロの町へ、ダビデの軍師であるギロ人アヒトフェルに使者を遣わした。そして民はやってきて、徒党は強くなっていき、アブサロムとともにある者は多くなっていった。ダビデに伝令が来て言った「イスラエル人の心がアブサロムに従うようになりました」。この時、ダビデは自分がアブサロムを見誤っていたことを悟った。皮肉にも、手腕のある息子としては、アブサロム以上の後継者は存在しなかったのである。ダビデは、自分と共にエルサレムにいるすべてのしもべたちに言った。「立て。我々は逃れよう。さもないと、アブサロムの前から、我々に逃げ道がなくなるではないか。急いで行こう。彼に急襲させ、征服させてはならない。我々の上に災いをもたらさせるな。また町を剣の刃で討たせるな」。王のしもべたちは言った「あなたのしもべたちは、我が主、王様がお決めになったこと全ての通りにいたします」。こうして王は出発し、王と彼の全家は徒歩で出て行った。しかし王は十人の妾たちを、家を守らせるために残した。王とすべての民は徒歩で出て行き、残した家の前に立ち止まった。そして彼のすべてのしもべたちは彼の側を行き、またすべてのケレテ人、ペレテ人、ガテ人、ガテから逃れてきた六百人は、王の前を行った。王はガテ人イッタイに言った「どうしてお前も我々と共に行くのか。帰って、王と共にいなさい。お前は異邦人であり、お前が今いる所に亡命してきた者だ。お前はたった昨日来た者であり、今日我々と共に行くことで煩わせるべきだろうか。この私はどこへ行くかわからない。帰りなさい。またお前の兄弟たちを帰らせなさい。神の慈しみとまことがお前と共にあるように」。イッタイは王に答えて言った「神は生きておられ、私の主、王様も生きておられます。たとえ死のうと生きようと、私の主、王様がおられる所にあなたのしもべもおります」。ダビデはイッタイに言った「そうか。では、先に進みなさい」。それでガテ人イッタイと彼のすべての従者たちは、共にあったわずかの者を含め、進んで行った。まるで地全体が大声をあげて泣くような中を、兵士全員が行った。すべての民も王も進みながら泣いた。王は兵士全員とともにエルサレム南東のキドロンの谷を渡り、荒れ野に向かう道を進んだ。そしてすべての民が町から出終わる頃にアビアタルが上ってきた。また、宮廷祭司ツァドクと彼と共にあるすべてのレビ人も、神の契約の箱を担いで来て、それを置いた。王はツァドクに言った「神の箱を町に戻しなさい。もし私が神の目に慈しみを見出すならば、私を戻し、神の箱と彼の御住まいを見させてくださる。しかしもし『お前は私には好ましくない』と思われるなら、彼が私にご自分の目に良しとされることを行われますように」。王は祭司ツァドクに言った「お前は先見者なのだ。平穏に町に戻りなさい。お前たちの二人の息子、すなわちお前の息子アヒマアツとアビアタルの息子ヨナタンがお前たちと共にいる。見なさい。私は荒れ野の川岸で、お前たちから私に告げる知らせが来るまで待っている」。そこでツァドクとアビアタルは神の箱と共にエルサレムに戻り、そこにとどまった。ダビデがこのように、聖所を守るためという口実で側近の祭司たちを残したのは、アブサロムの動きを探る情報源とするためだった。ダビデはオリーブ山の頂に上りながら、泣き、頭を覆った。彼は裸足で歩き、彼と共にいたすべての民も各々自分の頭を覆った。

 そして軍師のアヒトフェルがアブサロムの陰謀に加わったという知らせがダビデに入った時、ダビデは思わず「神よ、アヒトフェルの助言を愚かなものにしてください」と祈った。それほど彼の兵法は優れており、ダビデには非常に脅威だった。エルサレム郊外にある、人々が神を礼拝する高い場所に着くと、王の友アルキ人フシャイがダビデを迎えた。上着は裂け、頭に土をかぶっていた。ダビデは彼に言った「私と一緒に来てくれても、人が一人増えるだけだ。むしろお前は町に帰り、アブサロムに次のように言いなさい『王よ、私はあなたのしもべです。あなたの父上のしもべがかつての私です。しかし今は、私はあなたのしもべです』。お前であれば、私のためにアヒトフェルの助言を覆すことができる。祭司アビアタルやツァドクがお前と共にいるではないか。お前が王の家から聞くことの全てを祭司アビアタルやツァドクに告げなさい。またそこには、彼らの二人の息子たち、すなわち、ツァドクにはアヒマアツ、アビアタルにはヨナタンがいる。お前が聞くすべてのことを、彼らの手によって私に伝達させなさい」。このことによって、ダビデはエルサレムからの情報網を整えた。ダビデの友フシャイが都に入った時、アブサロムもエルサレムに入城した。


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