棄てられた者の行方 30

 宮廷預言者ナタンは来て、おもむろにダビデに次のように語った。「お聞きください。二人の男がある町にいました。一人は金持ちで、一人は貧しかったのです。金持ちの男は非常に多くの羊や牛を持っていました。貧しい男は自分で買った一匹の雌の小羊のほかに何一つ持っていませんでした。彼はその小羊を養い、小羊は彼のもとで育ち、息子たちと一緒にいて彼の皿から食べ、彼の椀から飲み、彼のふところで眠り、彼にとっては娘のようでした。ある日、金持ちの男に一人の客がありました。彼は訪れて来た旅人をもてなすのに自分の羊や牛を惜しみ、貧しい男の小羊を取り上げて、自分の客に振る舞いました」。ダビデはその男に激怒し、ナタンに言った。「神は生きておられる。そんなことをした男は死罪だ。小羊の償いに四倍の価を払うべきだ。無慈悲なことをしたのだから当然だ」。ナタンはダビデに向かって厳しい顔で言った。「その男こそあなただ。イスラエルの神はこう言われる『あなたに油を注いでイスラエルの王としたのは私である。私があなたをサウルの手から救い出し、あなたの主君であった者の家をあなたに与え、その妻たちをあなたのふところに置き、イスラエルとユダの家をあなたに与えたのだ。不足なら、何であれ加えたであろう。なぜ私を侮り、私の意に背くことをしたのか。あなたはヘテ人ウリヤを剣にかけ、その妻を奪って自分の妻とした。ウリヤをアンモン人の剣で殺したのはあなただ。それゆえ、剣は永遠にあなたの家から去らないであろう。あなたが私を侮り、ヘテ人ウリヤの妻を奪って自分の妻としたからだ』。神はこう言われる『見よ、私はあなたの家の者の中からあなたに対して悪を働く者を起こそう。あなたの目の前で妻たちを取り上げ、あなたの隣人に与える。彼はこの太陽の下であなたの妻たちと床を共にするであろう。あなたは隠れて行ったが、私はこれを全イスラエルの前で、太陽の下で行う』」。ダビデはナタンに言った。「私は神に罪を犯した」。ナタンはダビデに言った「神はあなたの罪を取り除かれる。あなたは死の罰を免れる」。ナタンは自分の家に帰って行った。

 ウリヤの妻はダビデの子を産んだが、彼女の心の傷は大きく、生まれた子は未熟児だった。ダビデは自分の罪深さの結果が子供に及んでしまったのだと思い、その子が助かるために神に願い求め、断食した。彼は引きこもり、地面に横たわって夜を過ごした。側近たちはその傍らに立って、王を地面から起き上がらせようとしたが、ダビデはそれを望まず、彼らと共に食事をとろうともしなかった。七日目にその子は死んだ。家臣たちは、その子が死んだとダビデに告げるのを恐れ、こう話し合った。「お子様がまだ生きておられたときですら、何を申し上げても私たちの声に耳を傾けてくださらなかったのに、どうして亡くなられたとお伝えできよう。何かよくないことをなさりはすまいか」。ダビデは家臣がささやき合っているのを見て、子が死んだと悟り、言った。「あの子は死んだのか」。彼らは答えた「お亡くなりになりました」。ダビデは地面から起き上がり、身を洗って香油を塗り、衣を替え、聖所に行って礼拝した。王宮に戻ると、命じて食べ物を用意させ、食事をした。家臣は尋ねた「どうしてこのようにふるまわれるのですか。お子様が生きておられるときは断食してお泣きになり、お子様が亡くなられると起き上がって食事をなさいます」。彼は言った「子がまだ生きている間は、神が私を憐れみ、子を生かしてくださるかもしれないと思ったからこそ、断食して泣いたのだ。だが死んでしまった。断食したところで、何になろう。あの子を呼び戻せようか。私はいずれあの子のところに行く。しかし、あの子が私のもとに帰って来ることはない」。ダビデは妻バテシバのところに行って再び床を共にした。彼女は男の子を産み、ダビデはその子をソロモンと名付けた。しかしダビデのしたことは、モーセの十戒の伝統を根強く継承する北イスラエル地方の人々を特に呆れさせ、人々は王制の堕落ぶりをまざまざと見せつけられた気がした。ダビデの行為は、「殺してはならない、姦淫してはならない、盗んではならない、偽ってはならない(「偽証してはならない」)、貪ってはならない(これには隣人の妻も含まれる)」といった戒律に対する重大な違反行為だった。イスラエルの伝統、法では、人妻を強姦しただけでも死罪だった。また、この事件は後に深刻な結果をもたらすことになる。子供は親の背中を見て育つのであり、ダビデの子供たちの素行に大きな影響を与えた。ダビデの行為は子供たちをめぐっての重大事件を引き起こし、王国ばかりでなく、ダビデ自身の命の危機にも及ぶことになる。

 その後、ヨアブはアンモン人の首都ラバと戦い、この王の町を陥れた。ヨアブは使者をダビデに送って言わせた。「私はアンモンのラバと戦い、町の水溜めのある『水の町』を陥れました。直ちに残りの兵士を集結させ、この町に対して陣を敷き、陥れてください。私がこの町を陥れると、この町は私の名で呼ばれてしまいます」。ダビデは兵士を集結させ、ラバに出撃してこれを陥れた。ダビデはその王の冠を王の頭から奪い取った。それは金で作られ、宝石で飾られていた。これはダビデの頭を飾ることになった。ダビデがこの町から奪い去った戦利品はおびただしかった。彼はそこにいた人々を引き出し、のこぎり、鉄のつるはし、鉄の斧を持たせて働かせ、れんが作りをさせた。また、アンモン人のほかの町々もすべてこのようにした。それからダビデと兵士は皆、エルサレムに凱旋した。


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