棄てられた者の行方 34

 ダビデが少し下ったときに、そこにメフィボシェトのしもべであるツィバが彼に会うために来た。一組のろばの上に、百個のパン、干しぶどう百房、皮袋に入ったぶどう酒を乗せていた。王はツィバに言った「お前が持ってきたこれらは何か」。ツィバは言った「ろばは王様のお家の方がお乗りするため、パンと夏の果物は従者の方々がお食べになるため、ぶどう酒は荒れ野で弱っている方がお飲みになるためです」。王は言った「お前の主人の子はどこにいるのか」。ツィバは王に言った「彼はエルサレムにとどまっています。彼は言いました『今日、イスラエルの家は私の父の家を私に戻すだろう』」。王はツィバに言った「見よ。メフィボシェトのものは全てお前のものだ」。ツィバは言った「お礼を申し上げます。私の主、王様。あなたの目に恵みを見出せますように」。ダビデ王はバフリムまで来た。するとそこからサウルの家の氏族のものが出て来た。彼の名前はゲラの子シムイといい、彼は呪いながら飛び出してきた。また兵士、勇士が王の左右をすべて固めている中を、ダビデ王の全ての従者たち、全ての民、全ての勇者たちに向かって石を投げた。シムイは次のように呪って言った「出て行け、出て行け。去れ。去れ。人殺し、悪人よ。お前がサウルに代わって治めるために流したサウルの家の全ての血に、神が報いたのだ。神は王国をお前の息子アブサロムの手に与えた。お前は殺人者である故に、お前の悪の報いを見ることになる」。ダビデはサウルの支持者への配慮には細心の注意を払ってきたつもりであったが、ダビデへの恨みがなお根強いことを改めて痛感した。ツェルヤの子アビシャイは王に言った「どうしてこの死んだ犬は、私の主、王を呪っているのですか。私をどうか行かせてください。私が彼の首をはねましょう」。王は言った。「ツェルヤの子らよ。これは私の問題だ。彼は神がダビデを呪えと彼に言われた故に呪っているのだ。『お前はなぜこのようなことをするのか』と誰が言えようか」。そしてダビデはアビシャイと彼の全てのしもべたちに言った。「今や、私から出た我が子でさえも私の命を狙っている。ましてこれはサウルの出身部族のベニヤミン人だ。勝手にさせておけ。神のご命令で呪っているのだ。神が私の苦しみをご覧になり、むしろ今日の彼の呪いに代えて幸いを返してくださるかもしれない」。ダビデと一行は道を進んだが、シムイは彼とは反対の山の麓を行きながら、彼に対して石を投げつけ、塵を投げた。王も彼と共にいる全ての民も疲労しており、息をついた。

 一方アブサロムとイスラエルの民はエルサレムに入り、アヒトフェルも彼と共にいた。ダビデの友、アルキ人フシャイがアブサロムのもとに来た時、フシャイはアブサロムに言った。「王様が生き長らえますように。王様が生き長らえますように」。アブサロムはフシャイに言った「これがお前の友への忠誠か。どうしてお前は友とともに行かなかったのか」。フシャイはアブサロムに言った「神とこの民、イスラエルの全ての人々があなたを選んだのではないですか。その方とともに私はいるべきではないですか。私は誰に再び仕えるべきでしょうか。先王のご子息のためではないでしょうか。私はあなたの父上の前で仕えたように、あなたの前におります」。アブサロムはアヒトフェルの方に顔を向け、「お前たちに助言を頼もう。我々は何をすべきか」と問いかけた。アヒトフェルはアブサロムに言った「家を守るために残したあなたの父上の妾たちのところに入りなさい。そうすれば全イスラエルは、あなたが父上に憎まれたことを聞くでしょう。その結果、あなたとともにある全ての者の力は強くなるでしょう」。それで人々はアブサロムのために屋上に天幕を張った。アブサロムは全イスラエルの目の前で彼の父の妾たちの中に入った。後にダビデはこのことを知った時、ナタンがバテシバをめぐって語った神の審判の言葉「神はこう言われる『見よ、私はあなたの家の者の中からあなたに対して悪を働く者を起こそう。あなたの目の前で妻たちを取り上げ、あなたの隣人に与える。彼はこの太陽の下であなたの妻たちと床を共にするであろう。あなたは隠れて行ったが、私はこれを全イスラエルの前で、太陽の下で行う』」をまざまざと思い出した。この頃、アヒトフェルが行う助言は、神の言葉によって助言するかのようだった。アヒトフェルの全ての助言は、ダビデにとってもアブサロムにとってもそのように思えた。

 アヒトフェルはアブサロムに言った「どうか一万二千人を私に選ばせてください。そうすれば、私は夜の間に立って、ダビデの後を追います。そして彼のもとに行きます。彼は弱って力が緩んでいます。私が彼を慌てさせますので、彼とともにいる全ての民は体制を立てられずに逃げるでしょう。そこで私は王のみを討つことができます。こうして私は全ての民をあなたのもとに戻すでしょう。あなたが求めている全ての人々が帰ることになります。こうして全ての民は平和になります」。この言葉はアブサロムの目にも、イスラエルの全ての長老たちの目にも好ましかった。しかしアブサロムは言った「アルキ人フシャイを呼べ。彼の口でなんと言うかも聞こう」。フシャイはアブサロムのもとに来た。アブサロムは彼に言った「アヒトフェルはこれこれの助言をした。我々は彼の助言の通りに行うべきか。もし違うなら、お前も語ってみよ」。フシャイはアブサロムに言った「この度、アヒトフェルがした提案は正しくありません」。フシャイはさらに言った「あなたはあなたの父上と彼の従者たちをご存知のはずです。彼らは勇者たちであり、野で子を奪われた雌熊のように心を怒らせています。またあなたの父上は戦いに長けた人ですので、民とともに夜を過ごさないでしょう。今彼は、洞穴の一つか、どこかの場所に自らを隠しています。もしあなたに従う者が、最初に彼らの手中に落ちた場合、人々は次のように言うのを聞くでしょう。『アブサロム様に従う民のうちに殺される者があった』。それを聞いた者は、アブサロム様に従う兵士が討ち負かされたと知り、獅子のような心を持つ戦士であっても、弱気になります。一方、父上も怒りに燃えた獅子のような心を持つ勇者です。全イスラエルは、あなたの父上が勇者であり、彼とともにいる者も力強い人々であることを知っています。それゆえ私は次のように助言します。ダンからベエルシバまで全イスラエルを海の砂のように数多く、ご自分のもとに集められますように。そしてあなたが戦いのその先頭に出て行かれるのです。我々は彼を見い出せる場所に向かっていくでしょう。我々はそこで、地に露が降りるように彼に対して臨むでしょう。彼も彼と共にある従者たちも、一人として残されないでしょう。もし彼が町に退くならば、全イスラエルがその町に縄をかけるでしょう。そしてそれを谷底まで引きずり落とすでしょう。そして小石さえそこには見出されなくなります」。以上はダビデが逃げ切って、体制を整える時間を十分に与えるための策であったが、アブサロムも、どのイスラエル人も、アルキ人フシャイの提案がアヒトフェルの提案に勝ると思った。アブサロムと彼と共にいた人々は言った「アルキ人フシャイの助言は、アヒトフェルの助言よりも良い」。フシャイのとっさの機転でアヒトフェルの極めて優れた提案が捨てられることになった。

 フシャイは祭司ツァドクとアビアタルに言った「アヒトフェルはアブサロムとイスラエルの長老たちにこれこれの助言をしました。それに対しこの私はこれこれの助言をしました。そこで今、早く使者を遣わして、ダビデ王に次のように告げてください。『今夜荒れ野の渡し場に宿営してはなりません。王と彼とともにいる全ての民が敵に飲み込まれないために、必ず川を渡らねばなりません』」。ヨナタンとアヒマアツはエルサレム南郊外のエンゲディに留まっており、仕え女が行って彼らに伝えることになっていた。その後に彼らが行って、ダビデ王に告げた。それは彼らが町に入るのを見られないためだった。しかし一人の若者が彼らを見かけてアブサロムに告げた。見られてしまった彼らは素早く去り、エルサレム北東5キロほどにあるバフリムにいる一人の人の家に入った。家には中庭に井戸があり、彼らはそこに降りた。その家の妻が覆いを取って来て、井戸の入り口の上に広げた。そしてその上に穀物を蒔いて、このことがわからないようにした。アブサロムのしもべたちがその家の妻のところに来て言った「アヒマアツとヨナタンはどこにいるか」。女は彼らに言った「彼らは小川の方へ行きました」。それで彼らは見つけられなかったのでエルサレムに帰った。追手が去ったのち、彼らは井戸から上り、ダビデ王のところに行くと、彼に告げて言った。「立って、素早く川を渡ってください。アヒトフェルが彼らに助言したからです」。そこでダビデと彼とともにいた全ての民は立ち、朝日が昇るまでに一人残らずヨルダン川を渡った。ヨルダン川を渡らずに残った者はいなかった。アヒトフェルは自分の助言が実行されなかったのを見た。アヒトフェルは自分の提案が実行されなかったことによって、アブサロムの敗北は決定的であり、自分の死も確実と悟った。そこで彼はろばに鞍を置き、立って、彼の町にある自分の家へ去った。そして彼の家の者に後のことを命じて、自ら首を吊って死んだ。彼は彼の父の墓に葬られた。


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