幻視

 私の左手横で、かつての自分が紫ののれんをくぐって、楽しそな笑顔で出てきた。何の悩みもなさそうな明るい笑顔である。私の存在には気づいていない。というかすぐ隣でありながら、そこは別世界である。かつてよく着ていた、黒地に白のストライプの入ったシャツを着ている。その時、私は思った。欠陥、障害は数々あった(亡き妻は欠点だらけと、私のことを言っていた)けれど、自分の肉体は、私にとって愛着ある離れ難い相棒だったのだ。私は自分が好きだ。特に笑顔が。妻もそう思ってくれていたのだろうか。

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