【初めての技能教習】自動車教習所での5ヶ月を嘘を交えながら振り返る#2

適性検査と学科1番を終えたあと、日を置いてわたしは学科を受けにふたたび教習所へとやってきた。周囲の路上が危険すぎるため、送迎バスは無い(ただし路上教習は実車で行う)。そのため教習生はみな、ネバネバの駅構内を突破しなければならない。しかし、他の教習所の最寄り駅はみな構内の床が赤くなるまで熱された鉄板になっていると入所時に説明されたため、他の教習所にうつるわけにもいかない。

学科9番と10番は「追い越し・追い抜き」と「508号以降の国道の走行」だ。9番では、他の運転者の気が散る原因になるので追い越し時には合図をしてはならないということや、飲酒運転中には追い越しをしてはいけないことなどを学んだ(飲酒運転中には、速度に気を付けて安全な走行をすることが求められている)。
10番では、存在しない508号以降の国道を走行する方法を学ぶ。存在しない空間に進入するための操作の仕方や、対向車線を走る異常な車や人間ではないドライバーへの対応に加えて、沿道の施設で売られている食べ物を食べるともといた世界に戻れなくなることなどを学んだ。

そして日を改め、わたしははじめての技能教習を受けにやってきた。といっても、初回はシミュレーターである。

シミュレーターには本物のようなハンドルがついており、その他にも本物のようなチェンジレバー、シート、アクセル、ブレーキ、ミラーなどが備え付けられていた。本物のような運転手の人形も備え付けられていたため、私は座ることができず、人形の運転を見守る形となったのが残念だ。

「じゃあ、まずはエンジンキーをまわして。ブレーキ踏みながらね」人形はシートの座るところの上に備え付けられたブレーキを尻で踏み、ミラーに刺さっているエンジンキーを慣れた手つきでぐるりと二回転させた。
「次に、ブレーキ踏みながらチェンジレバーをDに入れて、あとハンドブレーキもおろしてね」人形は尻に力を入れながら、ハンドルの真ん中にあるチェンジレバーを引いてギアをDに入れると、いったんシートを降りて、シートの後ろに備え付けられているハンドブレーキをおろし、また座った。シートの左のすぐに手で引ける位置に備え付けられているのは、カーステレオの操作レバーだった。
「これが発進のやり方。実車だと車外の右後輪のあたりにチェンジレバーがあるからね」と教官。

すぐにシミュレーター内の車は時速15km/hまで加速し、夜の名阪国道を突っ走っていた。「それじゃ、次はハンドルまわして次の交差点を曲がってみようか」ハンドルを左に10度ほど傾けると、車は90度右に曲がる。「それじゃ、次は顕微鏡でミカヅキモを観察してみようか」人形はポンピング急ブレーキ(安全を考慮して、急ブレーキを複数回に分けて踏むことをいう)を踏んだあと、チェンジレバーをPに入れ、ハンドブレーキを引き、ハンドルの横についている接眼レンズをのぞき込む。画面が切り替わり、リアルなフロントガラスから見た道路の映像のかわりにリアルなミカヅキモがうつしだされる。「ミカヅキモにも個性があるんだ。ほら、右上にいるやつは不愛想なところはあるけど、ぼくの悩みを親身になって聞いてくれるよ。左下のやつは明るくひょうきんで、アオミドロの面倒見がよくて…」こうしてはじめての教習は終了した。

教習原簿にハンコを押された私は、人生初の技能教習を終わらせたよろこびをかみしめ鎖骨をうならせるとともに、いよいよ次から実車での教習が待っているのだと、尾骶骨をくねらせた。


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