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『手加減の無い未来』のはなし

初めまして、深瀬佑と申します。
先日公開したパスピエの「手加減の無い未来」の非公式二次創作MVの制作記録を書きます。


今回は私がディレクションとイラストを担当し、eau.さん(@silencieuse)が映像を担当しました。イラスト側がディレクションを担当するのは珍しい事例かもしれません。


突然ですが、私は演劇を長いことやっていました。演出や役者や脚本、音響やら衣装やら美術やら、何でも屋の立場で関わってきました。その経験もあってか、私にとって曲や歌詞は脚本で、それをもとに多角的に演出を考えて音楽を可視化していくのがMVだという感覚があります。演劇でいう役者がキャラクターで、そこに照明を当てたり舞台や衣装を変えたりして脚本(歌詞)を上映するみたいな感じです。

なので、まだ制作本数が少ない身ではありますが、曲に合わせたストーリーや構成を作るのが得意ではないかと思います。

こういった理由から、映像制作する時はとりあえず歌詞解釈してストーリーを字コンテに起こします。演劇で言うと、脚本を初読した後その解釈や演出を考えていく段階にあたると思います。英作文をする時に、日本語の問題文を英訳しやすい形に書き下すのに似ているかもしれません。ストーリー以外にも背景設定ややりたい演出など雑多に書いています。

歌詞を読むと、主人公に語りかけるようなセリフが続いています。といっても神のような視点でもゲームのプレイヤーのような視点でもなく、主人公の自問自答にしては推進力が強すぎるし、なんというか主人公に近い位置で一緒にいて成長を見守ってくれているような視点だと感じました。なので歌詞は「主人公が作り続けてきた成果物」からのメッセージだと設定し、今回の登場人物が決まりました。

そこからは歌詞に合わせて構成やストーリーを組みました。このあたりは感覚的に作っているので解説があまり書けません…。

最初は2021年9月に開催予定だったFRENZという映像上映イベントに出したいと思って3月から字コンテを切っていました。
創作に携わる人が多く見てくださる前提で作り始めたので、テーマ(というより作品の持つ感情?)は「作り手のエゴだが自分の作ったものに愛されていたい」「もう何も作れないと思った時に作品から勇気をもらいたい」としました。

あまりうまく説明できないんですが、私は感情ベース(?)で創作をしているので、沢山ある感情の引き出しから曲と歌詞に合ったものを選んできて、それをいっぱいコネコネすると完成します。(?)
私の周りの作家さんは自己肯定感が低い人が多くて、どれだけ素敵だと思って言葉で伝えても届かないから、映像にしたらもしかしたら届くんじゃないかなとか、私も私を認めたいとか、そういう感じでこねました。

字コンテ時点では「こういう流れにする」「視聴者にこういう情報を与える」といった、シーンが満たさなければならない要件だけ決めています。eau.さんにシーンの切り替わりのタイミングを決めていただき、次は絵コンテにいきます。

絵コンテでは、字コンテで決めた条件を満たすシーンを一番適切に視覚化するにはどうしたら良いかを考えます。

例えば「雨上がり」を伝えるためのシーンを作るとして、雨が上がっていく現象そのものを描くとしても、それをどの視点で見ているのかで印象が変わります。直接雨が上がる現象を描かなくてもいいです。多くの選択肢の中で何が一番いいのかを考えて絵にします。カメラの寄り引き、色味、観客の視線誘導、なんやらかんやら…。

字コンテは一旦書いたら最後まで変わらないことが多いですが、絵コンテは下手したら1週間前に変えます。計画性に乏しいので今回も9月に入ってから変更しました。

私は絵がすごく上手いわけではないので、常に「この絵は本当にいるのか?」「この絵は最適か?」と懐疑的になっている気がします。(絵を描くのは好きです)

絵コンテを作りつつキャラクターの外見や設定を決めます。字コンテでは「普通の働いている女の人A」と「その人が作ったキャラクターB」ということだけ決めていたので、その役割を果たせる効果的な外見を考えたり、私の好きな要素を入れたりします。

2人が手を繋いで空を飛ぶシーンが字コンテで決まっていたので、手を繋いで空を飛ぶ界隈の大手(?)ピーターパンから着想を得て2人ともそれっぽくしました。なんとなくのオマージュでも観た人の安心感(→理解度)に繋がるのではと思っていますが有識者各位どうなんでしょう。

イメージカラーはAが青でBがオレンジとしました。
最後のサビで暗い夜の世界に朝日が昇る=Aの色で一面染まった空間にBの色が差してくる演出を思いついた時は我ながらテンションが上がりました。

映像には直接関係がありませんが、BはAが作ったキャラクターですから、Aが何を考えて作ったのかや何を投影しているのか等の裏設定は字コンテ時点で色々考えてあります。Aの部屋の見取り図を描いたり、植物園に写真を撮りに行ったり、有意義かどうかよく分からないことも色々しました。自主製作ならではの自己満足です。

絵コンテができたらあとはただひたすら素材とアニメーションを描きます。絵コンテ制作時点での画力より上手くならないと成立しないアニメーションを絵コンテに組み込んでおくことで絵が上手くなります。泣きながら描けば描けるようになる場合が多いです。背景と小物を先に片付けて、キャラクターは8/25くらいから描き始めたと思います。絵コンテでしっかりレールを敷いておくと没カットが出にくくて良いですね。

あとはeau.さんと話し合いつつコンポジットしていただいて完成です。eau.さんの激強映像力に応えられる演出やイラストになっていたら良いのですが………。


制作のおおまかな流れは以上です。以下はこぼれ話。

今回の制作で初めてフレームレートの概念が少し分かったんですよね…今更分かるの遅いけど……。世界のタイミングを変えられるのすごい。

これまでアニメーションを丁寧に描きすぎて躍動感や空気感が死んでいたのですが、今回初めておっかなびっくり線をガサガサにしたりオバケを描いたりしたら、この方が線画が雑で済む分作業が早くなるし作品の質も上がるし結論めちゃくちゃサイコーに良いということが分かりました。

手描きアニメーションの作品は2019年「記憶の水槽」、2020年「トーチカ」に続いて3作目です。演出面、画力面ともに成長を感じていますが、まだまだ課題が多いのでもっと頑張ります。

昨年は自主制作の映像をsasakure.UKさんに拾っていただいて、今年はeau.さんと一緒に制作させてもらって、尊敬する方々と関われてつくづく私は運が良いなぁと思います。これからも青田買いしていただいたことに相応しい人間でありたいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。よかったら読んだ後にもう一回観てください。

それではまたね。深瀬佑でした。




おまけに去年の作品も載せときます。比較すると成長が感じられる…かもしれない。





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