農奴の祭壇

 彼女は一体、何を産もうとしているのか。
 わたしはそれが恐ろしかった。
 ロストフ家の客間で、わたしは震えていた。

 激しい雷雨が、館を殴りつけるように吹き荒れてた。黒ずくめの客間は暗く、ランプと暖炉の炎も、霧のように忍び寄る闇の不穏さを拭えなかった。筆頭執事のアバーエフが端に控えていた。彼は彫像のように身動きひとつしなかった。

 葉巻を片手に、黙って床を眺めている田舎紳士たち。額を寄せ合って噂をささやく妻たち。一方で、数人の退役将校は円卓に陣取り、不安をせせら笑うように、カードで遊んでいた。それでも彼らのリヴォルヴァーは装填されていた。十二歳ほどの少年が、退役将校に混じってカードを切っていた。彼は瞑想者のような表情でクラブとハートを場に捨てた。棍棒と聖杯。

 上階の主寝室の様子は誰にも分からない。医者と産婆が登っていったきり。館の主、ロストフはまだ帰らない。もう帰らないのかもしれない。

 この十ヶ月で何人の農奴が消えたことだろう。人皮装丁本、骨で組まれた椅子、腸線を張ったヴァイオリン。領民の間に、急速に広まった奇妙な風習。最初は誰も、何も信じなかった。異様な出来事の連続を、楽観的な推測や、根も葉もない噂で打ち消そうとした。しかし今や、婦人が出産しつつあるという事実によって、誰もが確信している。

 わたしは見たことがある。丘の上の、教会の裏手で。そこにあった小さな家畜小屋で。捻じくれた羽、肥大した眼球、皮膚を持たない体、棘だらけの蹄。母豚の肝臓を平らげ、怯える兄弟豚に這い寄ろうとしていた。同じはらからに。

 あるいは、子どもたちが廃屋に作った秘密の場所で。疫病で死に絶えた一家の、干からびた遺骸が残るあばら家に、瓦礫を積み上げて作った祭壇、無数の蠟燭、床のつたない血文字。 “ Deus annuit coeptis ” 崇められる偶像はまたもや〈あれ〉だった。別の場所で、様々な場所で、領内の至るところで、豚や羊から生まれ出ては崇められる〈あれら〉。

#逆噴射プラクティス

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