南路遍歴

 おれは泥濘沙漠を越えるキャラバンに加わった。壮年の男が約三十人、それに数人の女とみなしご、親方と呼ばれる老人がひとりいた。ヘコミラクダの背には北の鉱山から出る砂糖水晶や醍醐石、オアシス地帯の夏女椰子の干果、草原の遊牧民が作る馬血酒が積まれていた。おれは鉄貨二十枚を支払った。荷物は毛布が一枚と将軍の遺骨だけだったから、格安ですんだ。

 泥濘沙漠を越えるのは簡単ではない。夜間に東の山脈から水が流れ込み、沙漠は泥の海と化すが、日が暮れる頃には乾燥してひび割れた地面に戻る。おれは南に行ったことがない。おれより先に、商隊の客人になっていた一ツ目巨人のやつは、戦中は南で軍医をしていたという。「北よりは良いね、どの建物も天井が高い」巨大な医師鞄から変色した世界地図を取り出して見せてくれた。「この大陸はぐるっと回っちまったから、一度家に帰るのさ。恩給のおかげでずいぶん自由に暮らせる」

 明日には沙漠に入る。快適な寝床は今夜のキャンプで最後だ。枯れた足切草ばかりが茂る荒れ地で、薪になりそうな灌木を集めた。時々、巨大なヤツメミミズが地面から飛び出しておれの足に吸い付こうとしたが、一ツ目のやつがさっと掴んで握りつぶしてくれた。「割いて蒸すと旨いんだ、こいつは。それかミートボールだね」

 紫色の月がのぼった頃、皆が杯を片手に親方の周りに集まった。親方はもう七十だという白ひげの老人だが、小指一本の突きでシマシマウシの頭に穴をあける。屠殺ハンマーは不要だった。

 「わしがこれから話すのは、わしの曾祖父さんが子どもだった時分のことで、まだ奴隷というものがなく、帝国もなく、みながあちこちを勝手に耕したり、牧場を作ったり、好きに暮らしており、もちろん暗黒大陸も見つかっていなかったから、誰も心臓食い虫なんぞを腹の中に飼っていなかった。そんな大昔、偶然にも先時代の石の巨像を二十八体も掘り出して、大きな戦さをはじめた女の話じゃ」

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