Re:vengeance Tower

 主幹昇大降機が停止し、太い鉄管のドレンから排蒸気が吹き出した。半径1kmを超える昇降機が、ベースメントフロアからグランドフロアに運んできたのは唯一人、猫頭種の青年だった。詰め襟の黒いコートが熱い霧にたなびいた。上階から掃討機銃を二門そなえた大型のクアッドローター・ドローンが現れ、降下猟兵型シンセティックを投下しながら着陸する。治安維持軍の50体は素早く展開し、青年を包囲した。タングステンのフレシェット弾をフル装填した軽機関銃が50丁、一斉に照準を合わせた。遅れてブルドック頭の軍人二人がドローンから降り立った。
「市民証を持ったまま両手を高く掲げろ」ドローンのスピーカーが吠える。
 ブルドックたちは訝しげに青年を睨めつけた。ベースメントの三級市民が二級に昇格した先例は一件も無い。しかし統治AIハクスリーが誤った判断を下す可能性はゼロだ。その巨大な量子頭脳はタワーに住む100億の住人を監視し、200億のシンセティックを操作し、同時にすべての工場の生産から物資の価格調整まであらゆるものを統治する。
 猫頭の青年は両手を上げた。ブルドックのカメラアイが市民証と網膜をスキャンした。クリア。「こっちに来てドローンに乗れ」
「なぁ」ともう一人のブルドックが猫頭に声をかける。
「ご滞在の目的は観光ですか」
「いんや、違うよ」猫頭はそう答えてベルトに手を伸ばした。
 小型EMP装置が強力な電磁パルスを放った。ブルドックのカメラアイがダウンし、内耳の通信機が酷い電子音を放った。シンセティック部隊の頭脳が一斉に再起動プロセスに入る。
 旧世紀の短機関銃UZIが二丁、コートの下から9mmダムダム弾をばら撒く。銃口が瞬き、弾丸はシンセティック部隊の光学センサーを正確に抉る。ブルドックの額に鉛がめり込んだ。
「あんたがた上級市民全員に消えてもらいたいんでね」
 彼はドローンに飛び乗りスロットにクラッキングメモリを押し込んだ。
 クアッドローターが唸り始めた。

【続く】

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