ふたたび連続殺人事件

「いい加減に吐いたらどうなんだ」

 二子玉川刑事は、机の上に寝転がっている三毛猫に向かって言った。

「なう」猫が鳴いた。

 と突然、扉を蹴破るような勢いで相棒の大井町が飛び込んできた。

「現場の体毛とDNAが一致しました」

 三毛猫は片目を開けて「毛玉を吐くわけにゃいかんしな」と言い、前足を伸ばしてあくびをした。

「俺がツナを食ったのは去年の冬。一缶だけだ。だから大脳皮質の発達はさほどじゃない。〈タマちゃん総統〉に比べればゴミみたいなもんだ」

「襲撃に参加したと認めるか」刑事はすごんだ。

「司法取引を要求する。身辺保護と減刑。全部吐く。弁護士を呼んでくれ。でなけりゃ俺はだんまりを決め込む」

「いいだろう」彼は即決した。

 三毛猫は肉球の間にボールペンを挟んで器用に走り書きした。

「こいつに電話してくれ。トゥナ・キャット案件に慣れている」

 二子玉川はその紙片を相棒に渡し、机の下の岡持ちからカツ丼を出した。

「無論、ネギ抜きだ」

 三毛猫は爪の先でカツの一切れをひっくり返した。

「もう少し冷まして食う」

大井町が出ていくと、取調室は重い沈黙に包まれた。

 二子玉川自身、不注意から愛猫をトゥナ・キャットにしてしまった過去がある。ライトツナまぐろフレーク缶にマヨネーズをかけたところで急に催し、トイレに駆け込んだのだ。戻ってみると、すでにツナは平らげられていた。愛猫はツナ缶を求めて闇夜をさまよう悲しい怪物となってしまった。別れ際に猫はこう言った。

「いままであんがとな、おやっさん。おれは、わかるようになっちまったよ。ぜんぶ、な……」

「どれだけのトゥナ・キャッツや無垢な猫が殺されたと思う。警察のドーベルマンどもに」三毛猫が言った。

「俺は復讐したかった。もっとツナ缶を食いたかった。でもな、俺はこわくなったんだ。鼠爆弾とか、VX猫爪とか、米軍基地襲撃とか。総統の考えは、もう猫のものでも人間のものでもないんだ。越えちまったんだ。俺らを」

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続く

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