Freaks' Country Roads


 僕は先頭の幌馬車の御者台で、ギターを鳴らしてカントリーを唄っていた。隣りに座る腕なしのエルフ、アルダは器用に足で手綱を操りながら、時々なんとなしに鼻歌を僕の節に合わせてきた。僕の七本指は調子よく弦を弾いていた。ナラの林はもう橙色になっていた。

 南からはトロルの軍勢が、西からは死霊術師たちが、北からは帝国の山岳部隊が攻め立てているらしいけれど、僕らには戦争というものはあまり関係がなかった。どのみち巡業のフリーク・サーカスとしてあてどなくさまよい続けることに変わりはない。陰鬱な時代ほど娯楽は貴重なもので、平時より実入りは良いほどだった。

 いつも半妖精のマダムの占いを参考に、小人トロルの支配人が行き先を決める。占いはよく当たるし、支配人はとても上手に立ち回るから、厄介事に巻き込まれることはほとんどなかった。稀に、フリーク・サーカスを襲おうなんていう奇特な奴らが現れても、たいてい結合双生児のドワーフ、グリム兄弟をみたくらいでぎょっとして逃げてしまった。せむしサイクロプスのノアや、口裂けセイレーンのシレナ三姉妹の出番すらなかった。

 まぁ、そんな感じで、僕らはリヴァーランの大橋にさしかかった。緑の水面は静かだった。国境に向かうらしい騎兵連隊とすれ違う。僕らを見知ったものが結構いて、手を降ったり、挨拶代わりに軽口を叩いたり、そのために上官に怒鳴られたりした。六台続く幌馬車の最後尾では、一昨日捕まえた悪魔か天使かよくわからない生き物が檻の中でまだ喚いていた。

 次の目的地は大きな商都で、聖堂に司教もいるから、悪魔だったら高く売ってやろうと思っていたが、なにせ黒い羽の翼がひどく捻じくれているものだから貧相に見えるのだ、期待はしない方が良さそうだった。

 河を越えてメインロードに入っても僕は相変わらずアルダとカントリーを唄っていた。故郷も家もない、帰るべき場所もないから、郷愁というものには憧れを抱いている。

【続く】

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