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ディジタル書斎15 映像という情報

見て獲得する知識
 文字という記号から獲得する知識が多いが、「百聞は一見に如かず」というが、映像として脳に入力される情報は、言語表現された知識以上に強い知識となる。忘れられない情景、景色、物体など。目の前の見えているモノをじっと見続け、脳にしみこませることを意識している。
絵画は時間をかけないと、時間をかけて書き上げた画家とのコミュニケーションができない。写真の方が具象であるのでわかりやすい。知識ではなくその前段階の情報だが、切り取られた一瞬を衝撃的に脳に打ち込むのは写真の力であり、波打際の3歳の子供の遺体の映像がメルケル首相をして難民受け入れに動かした。
 論文やプレゼンテーションの図表もよくできたものは言語では伝えられない情報を発し、脳の中で知識に変換される。インフォグラフィック(Infographic)は知識を視覚的に表現する技法である。素人では作成が難しいプロの技であるが、結果を知識として受け取ることが出来きる。情報を知識に構造化する手法として積極的に活用したい。特に統計データはデータの集合が持つ意味を容易に受け取ることができる。
 地図は古典的な視覚的な知識である。最近はグーグルマップのおかげで航空写真を含め多面的に場所に関する知識が得られる。古地図を見ると当時の人がどう認識していたかという知識が得られる。江戸の古地図も現在の東京と重ね合わせて認識すると興味深い知識が得られる。
 旅行もまた重要な映像的知識を得る手段である。「見ることは信じる事」である。そして断片的な知識を一枚の絵として構造化してくれる。
個人的には、ピラミッド、万里の長城、紫禁城、ベルサイユ宮殿、ギリシャ・ローマの遺跡、ベルリンの壁、イスタンブール、ペルーのクスコとマチュピチュ、板門店、シンプロン峠、ワーテルローの古戦場、モスクワのクレムリン、ライン川、ウェールズの古城・・・・・の光景は断片的な関連知識を俯瞰的知識に変換してくれた。
 人生で遭遇した歴史的な現場での映像的記憶という知識も、言語では獲得できない知識である。学部の4年生は東大紛争であった。これは歴史だ、歴史として認識しようという気持ちで目の前の情景を意識的に記憶した。そして時間の経過とともに、長期にわたる状況の変遷を起承転結というフレームワークで認識した。大衆運動のダイナミックモデルを理解することが出来た。
 “起”は医学部精神科の登録医制度反対運動に対する学生処分、そしてストライキであった。この段階では医学部に限定した動きであった。膠着状態を打破するため医学部自治会は6月15日安田講堂占拠というエスカレーションを起こした。
 “承”はこれに対して大河内総長は機動隊を導入して学生を排除した。当時は観念的に「学問の自由」の意識が強く、警察を学内に入れたことに衝撃的な反発が広がり東大闘争全学共闘会議が結成され、議長に山本義隆がなり全学的なカリスマ的リーダーになっていった。
大学当局は、大学の硬直した体制と運営に対する鬱積した不満を認識せず、「8.10告示」という権威主義的な対応しかできず、ストライキ、建物封鎖は燎原の火の様に広がり、大河内一男総長は退陣した。学部長もすべて辞任、医学部長、病院長は退官であった。当時はベトナム戦争反対のエネルギーも社会に満ちていた。そして米国から帰国したばかりで「事情を何も知らない」加藤一郎総長代行の体制が発足した。
 “転”は、当時学内は全共闘と共産党系の民青が対立しており、11月には全学封鎖を巡り安田講堂を占拠する全共闘系、教育学部を拠点とする民青の双方約千人を集めて、対峙して一発触発の状態になった。幸い大事には至らなかったが「決戦」に勝てなかった全共闘はここから勢いが弱まることになる。この時点から無党派グループの動きが始まり終結の道筋を探る動きが出てきた。
 “結”は前代未聞の東大入試中止の決定で、全共闘を除く学内勢力と加藤総長代行とで国立秩父宮ラグビー場にて「東大七学部学生集会」を開催し終息を確認し、抵抗する全共闘を機動隊による強制排除で、長期にわたった東大紛争は終結した。
 ここで学んだ知識は、“起”の段階で基底に内在する課題、不満を理解した“承”ができずに間違った“承”に遷移すれば広い範囲の不満、鬱積のエネルギーを吸い込み、手の打ちようがない状態になる。そのエネルギーの勢いが弱まったとき、始めて“転”のチャンスが出て、それを掴めば、“結”に持ち込める。平凡であるが50年くらい前に識ることができた。書籍やWikipediaでは獲得できない体験的な知識である。“企業の事件”もこれで理解できる。
 丁寧に制作されたドキュメンタリー番組は映像から歴史認識という知識をくれる。書籍という言語表現では映像にある表情や立ち位置などの非言語的な知識は得られず、俯瞰的な歴史認識も持てない。下記はその一例である。見られることをお勧めしたい。
全十回にわたる「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」は第二次世界大戦とその後の世界の構造を理解する俯瞰的な知識を与えてくれる。
http://www.at-douga.com/?p=7565
「もうひとつの終戦~日本を愛した外交官グルーの闘い」はポツダム宣言から終戦に至る歴史認識と現在の日本の理解するのに欠かせない知識をくれる。
http://www.dailymotion.com/video/x2zs4sv
ドキュメンタリー番組は取材力から個人での調査では不可能なスコープの広い知識を与えてくれる。そして見るという映像の知識は脳の中で文字という記号では獲得できない知識を獲得できる。


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