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鉄塔

長編の改稿に難航していて、いまもまだ進めてない。
夢を見た翌日に別の場所に書いたもののため、「昨日」と言ってますが、 実際に見たのは11月くらいの、一番最悪だった時。
前回投稿した「2019年のこと」で最後に触れた夢の話です。
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昨日の明け方、現実と見紛うほどリアルで嫌な夢を見た。ここのところ悪夢しか見ていないけれど、昨日の明け方に見たそれはひどかった。

昨日はちょうど、現実の方で、長篇単行本化をストップしてもらっている版元の人と、最近マネ業を請け負ってくれている友達C氏が会って、どのへんまで待ってもらえるか、続けるためにプロットを具体的にどう変えるか、もうひとつある別版元での長篇を先に出しても問題ないか、などを、動きたがらない私の代わりに話してくれるはずの日だった。

明日の結果がきっと不安だったのだろう。夢の中で私は部屋で寝ていて(しかも一番最初に住んでいた生家の二段ベッドだ)、休みなんだから昼過ぎまで眠っていようとぐずぐずしていた。その時、C氏が担当編集者氏ふたりを連れて部屋に入って来て、「先生(C氏は私をこう呼ぶ)、いつまで寝てんの。着替えてもないしだらしないな、いい加減責任持って起きなよ。自分のことなんでしょ。じゃ、ライブに行くんで」と言い放ち、さっさと出て行ってしまう。

残った編集者氏、Aさんは鬼の形相を、Kさんは能面のように無表情で、柵付きのベッドの前で座っている。

「深緑さん、C氏から改稿案を聞きましたけど」
「そんな改稿して何か意味があるんですか。構成を大幅に変えて、うまく書きこなせるんですか」
「連載時にあった展開が少なくなりますけど、代わりの展開は用意できるんですか。ただの水増しじゃだめですよ」
「具体的にです。具体的に、書けるんですか。新しい展開を」
「うちが抱えている作家はあなただけじゃないんです。待っていると後ろが詰まります。もっと良い作品がつかえてるんで、先に書いちゃってもらえますか。どうせいい出来にはならないんですから」

そう口々に言うと、連載担当の方の、鬼の形相をしているAさんが、いつもはないはずのカーテンをばっと開いた。窓の向こうにはなだらかな緑の丘があり、その上に巨大な鉄塔が立っていた。

「見て下さい、あの見事な鉄塔を。あれをいま、言葉で描写することができますか。天を衝かんとする頂、鋼鉄の、しかし繊細で細い体、赤と白の色。それらを、小説らしい美しい文章で、書き表すことができますか」

Aさんは強い口調で言い、こちらを振り向く。

「鉄塔すら描写できないようでは、〝X〟(問題の難航長編で鍵になるキャラクター)を書くなんて永遠に無理ですよ。あなたには無理です」

そこで目が覚めた。

あとで報告を聞くと、現実のふたりは温かな反応をしてくれたらしい。
それでも、私には現実のふたりよりも、自分の潜在意識が見させたふたりの方が、現実に思える。

私自身しかわかっていない私の問題。解決しなければならない問題。

その後、私はいつも飲んでいる薬をもらうために医者へ行き、帰り道、道路工事を避けようと迂回した先で、鉄塔を見た。道の角を曲がって大通りに抜け視界が開けた瞬間に、それは現れた。夢とは違って白一色だったが、見事な巨大な鉄塔だった。

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