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最近読んでいるもの

なんと理論物理学の本を読んでいる。

理系どころか算数からやばい点数だった私ですが(英語はそれ以下なので文系でもない……)、なんでか量子力学とか理論物理学には惹かれがちで(数式の理解はできてないぞ)、ドキュメンタリーがあると必ず観たり、本もわりとよく読んでおります。

この『すごい物理学講義』はタイトルがちょっと大丈夫かってくらい率直なんですけど本当に「すごい」本ですこぶる面白い。なにしろめちゃくちゃ読みやすい。高校卒業くらいの語彙しか使わないのに専門的な話を解説できるってすごい能力だなあ、著者と訳者……と感嘆したりして。

さて内容。古代ギリシャの学問都市ミレトスと、神話が一般常識だった時代にもう原子の存在を予想していた超人デモクリトスの話からはじまり、そんな人の書いたものがもうほとんど残っていないことだとか、神話が常識であってもその尺度からこの世の原理を解明しようとした人たち(プラトンなど)のこととか、「物理学の起源」についてわかりやすく丁寧に教えてくれる。
ここですごくいいなあと思ったのは、他のよくある物理学の本などだと「神話に捕らわれている人たち=愚かな人々」みたいな扱いになりがちなのが、この本だととても尊重して描かれているところ。
「その時代の常識」を離れられる人なんて万人にひとりどころの騒ぎじゃなく、百年にひとりとかレベルの逸材であって、だいたいみんなその時代の常識から持てる限りの定規をどうにか引っ張って伸ばして新しい見解を生もうとしている。そういう、定規の目盛りが限定されている上にトライアル&エラーを積み重ねるほかない過去の行為を、先人に何もかも用意してもらった未来=現代から上から目線でぶった切るのは違うと思うのだ。この本はこの点で安心して読めて、序盤から信頼度めっちゃ高い。

それにしても本当に学問って軽んじられ、封鎖・制限されているんだな今も昔も……と首を振りながら先に進めて、それでもなお繋いでいく学者たちの姿に、学問とは長い長いリレーだなとしみじみする。

物理学の始祖の次はニュートンやガリレオ、電磁場を発見したファラデー、勉学の機会がなく数式を作れなかったファラデーの代わりに彼の発見と理論を数式化したマクスウェルときて、なんか燃える。はー面白い。

そして著者の愛するアインシュタイン。特殊相対性理論と一般相対性理論。特殊と一般のふたつあることすらよくわかってなかった私、ようやくふたつの違いを学ぶ。すごーい。

なんかねえ、20世紀に入ってやっと「宇宙はビッグバンによって生まれたのだ」って人間は知ったわけで、それからまだ百年しか経ってないって、人類やばいなと思いました。アインシュタインですら自分の理論と計算でビッグバンという結論が出ちゃったとき、「いやまじそんなのあり得ない」と自分の理論を拒否したっていうのだから、発見って人間の脳みそなんて軽く超えていくんだな、と改めて考える。

たぶん、だから理論物理学や量子力学の話を(一般的にかみ砕いてもらったほんのさわりだけど)聞くのが好きなんだな。仮説を立てて計算していったら自分の考えを三十周くらいまわって飛び越えた結果が出てきてしまう。自分で作っておきながら「うわあなんだこれ」というドン引きする感覚。

今の社会には相対性理論や超弦理論ばりのブレイクスルーが必要なのでは的な記事をちょうど昨日読んだこともあって、誰も予想もしなかったブレイクスルーってたぶん本人ですらわからないんじゃないかな、じゃあ頑張る価値ってまだまだあるよな、と思う。どこかと何かが繋がって生まれるまで繰り返す試行錯誤。
そうやってこつこつ研鑽して試行錯誤して進んでいけば、いつか自分でもドン引きするくらいの発見にたどりつくんじゃないか。

ひょっとすると、それが見たくて自分でも編み出したくて私は表現の仕事をしていて、人生を生きてるのだろうなあ、などと思ったりする。いや相変わらず自信はないけど、でも、『すごい物理学講義』の名文は強い支えになりそう。引用しておこう。

「リーマンの数学を理解し、アインシュタインの方程式を完璧に読み解く技術を会得するには、長く険しい道のりを越えていかなければならない。それは、熱意と努力を要する旅路である。とはいえ、ベートーヴェンの後期四重奏からどれか好きな曲を選び出し、その類いまれな美しさを十全に把握しようと願うなら、それ以上の労苦を覚悟する必要があるだろう。いずれの場合も、いったん努力がなされたあとは、充分な見返りが待っている。科学と芸術はわたしたちに、世界にまつわるなにか新しいことを教え、世界を見るための新しい目を与えてくれる。わたしたちはそうやって、世界の厚みを、深さを、美しさを理解する。偉大な物理とは、偉大な音楽のようなものである。それは心に直接語りかけ、事物の本質に備わる美しさや、深さや、単純さに目を向けるよう、わたしたちを誘ってくる。」

とかいって語っておきながらまだ読み途中だけどこの先もぐいぐい読みたいなと思います。



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